新作能「紅天女」初演鑑賞

チケットが奇跡的に取れたので「紅天女」の初演を鑑賞することができました。
最初に月影先生紅天女セリフ朗読(「誰じゃ!……」のアレ)が入っていたり、かなり現代語に近いセリフ廻しになっていたりして、かなり能の初心者に配慮した造りになっていました。


私もほぼ初めて(高校の時に鑑賞教室かなにかでお能は見たような……)のお能鑑賞でしたが、セリフを含めて話の流れはマンガで分かっているし(クライマックスシーンだけは無い物の、紅天女と仏師一真の悲恋という流れは同じ)それもあって楽しめました。言葉が分かりやすかったのは賛否両論あると思いますが、マンガが原作であればこれは良い形ではないかと思いますね。(客層からいって)


また、途中で間狂言として東の者、西の者、が入りますが、これも話を分かりやすくし、それなりに笑いも取っているし、かつ適当なインターミッションになってて、良かった。最初から最後まで緊張しっぱなしでは見ていてきついですし。
それに、彼らのセリフには地球温暖化問題などが盛り込まれていて、単なる笑いだけではない深さがありました。愛と自然をテーマにした新脚本として、少ないセリフの中、良く出来ていたと思いました。


それにしても、一真が斧を振るったときは、凄く大きな動きをしたのでもないのにビクッ! とさせられました。
セリフが完全には聞き取れて無くっても、緊張感が斧を振るった意味を教えてくれた、そんなふうでした。(会場売りパンフレットにはほぼすべての詞章(セリフ)が掲載されていますが、私は見ないで舞台ばかり見ていたので)


最後の天女の舞は舞台を所狭しと使いましたね。国立能楽堂は建物の中に屋根付きの能舞台があるので、向かって左手(一般の舞台では下手に当たる)側に、舞台への入場にも使う廊下のような長い通路(橋掛り)があるわけですが、橋掛りの端から舞台まで使っての舞でした。たとえば、舞台がこの世、橋掛りがこの世ならぬ場所……だとすると、この世の平安のために敢えて切られた心が一気に駆け巡った、そんな感じを表現したかったのかなあ? 文章に書けないんですが、空気感がとても不思議でした。


観劇後、併設の資料館を見てきました。ここではお能の歴史をたどれる史料を見ることが出来ます。また、お能に関する解説資料配布もあります。
昔のお能を伝える古文書や日本画を見ているだけで、タイムスリップしたような感じになりました。


観劇後、近くの食堂で遅い昼食を取ったのですが、たまたまお相席になったご婦人方がマンガファンではなくお能ファンとしてこの舞台を見に来られた方だったので、いろいろとお話も伺えました。とくに、お能では拍手をするかしないかはいろいろな意見がある、というのは面白かった。今回の舞台の公式ガイド「新作能 紅天女の世界―ガラスの仮面より」では、お能では拍手を急ぐことは無く、余韻を楽しんだ後で拍手は出演者が退出する時に静かに送る、といったコトが書いてあるのですが(書籍が手元に無いためうろ覚えですが)これはご婦人方によれば新しい解釈で、お能では拍手をする/しない、の解釈は色々意見があるそうです。


ともあれ、マンガがお能になる、という新しい試みは、なかなか成功だったのではないでしょうか? まあ、お能が「楽しい!」になるには何本か見ておく必要がありそうですし、お能ファンからはどう見られているかは分かりませんが、マンガから面白いストーリーを伝統演劇の世界に持ち込む、というのは一つの可能性を示唆しているような気がします。
大阪公演、東京再演が決定したようですが、新しい可能性が開いて行くように思います。私にとっては、間狂言で東の者が西の者を地球温暖化問題と絡めて諭すシーンは、独特のセリフ廻しと相まって説得される物がありました。これが朗読ではなく、演劇、それも能や狂言からの身体と言葉の表現で迫る力……一種の言霊、なんでしょうね。

2006/02/27追記

NHKの22時のニュースでこのお能のことが放送されました。ビデオに撮ってしっかり見ましたが、NHKのこの時間のニュースにガラスの仮面が堂々と映っていたり、見所を解説していたりと、今後の鑑賞を考えている人には非常に参考になったのではないかと思います。