「読み聞かせ」と著作権3

「読み聞かせ」に細かい注文 著作権めぐり作家ら(asahi.com 2006/05/13)
と、日本書籍出版協会のサイトより「お話会・読み聞かせ団体等による著作物の利用について」(平成18年(2006年)5月12日)
に、ついての日記d:id:Yuny:20060513:p1、d:id:Yuny:20060514:p1の続きです。
子どもの頃に読み聞かせの会が大好きだったことと、最近色々な分野で出て来ている著作権問題の一例として、関心をもっています。更にブログ等であれこれ反応を見て来たので、いくつかご紹介させていただきつつ、感想をまとめてみたいと思います。


まず、例のガイドラインについての評価は、分かりにくい・分かりやすい、と人によって両評価に二分していました。
わたしは最初分かりにくいなあと思ったのですが、読み直すうちに、具体的なケースに即して書いているところは素直に評価してもいいのではないかな、とも思えて来ました。(そのことと、許諾を要するとしている場面が妥当かどうかはまた別問題です)ただ、朝日新聞の記事にありますように、「具体的なケースに即し」て書きすぎた、という評価も(事細かに決めておくことは規制になる?)。このガイドラインの評価は立場に依って分かれるようです。(関連:著作権 Tea time 〜EhonCafeのつぶやき〜/ウェブリブログ


それから、このくらいのレベルの著作権処理は図書館では比較的日常的な手続きのようです。(関連:「読み聞かせ」に細かい注文 著作権めぐり作家ら - 新 どんぶらこっこの毎日)となると、図書館職員さんが読み聞かせたり、図書館でボランティアをお招きして行う場合と、児童館や公民館、地域サークル活動の一環として行う場合で、著作権についての啓蒙レベルに差があるのかもしれません。今回のガイドライン策定については、現場で著作権が意識されていないために行っているという前提がありますし。言われてみれば、公務員が仕事として行う場合と、民間ボランティアが行う場合って、こうした手続きの意識やスキルにおいて差があって当たり前かもしれないですね。その辺りをフォローするつもりでこのガイドラインを作ったのでしょうか?


さて、読み聞かせるサイドから気になるのは、やっぱり同一性保持権の事のようです。読み聞かせる人が自作でOHP、大型本、ペープサート、紙芝居等にして大人数に対応するという工夫は、わたしが子どもの頃も良く行われておりました。ペープサート用の人形作りが子ども向け読書会の活動テーマだった時もあります。(読み聞かせてもらうために、紙人形をおとなの指導の元に子どもが用意するということですね)実際楽しかったし、自分で作った人形が大人の手に依って命を持つのはわくわくしました。


閑話休題
大型本制作時などの申請については、そもそも出版サイドが読み聞かせを前提にした商業出版物を制作していないことへの疑問もあるようです。(参考:http://dora-hikarilibrary.air-nifty.com/diary/2006/05/post_1232.html
これだけ読み聞かせが盛んになって来たならば、名作絵本の大型本等を制作したら実際商売になるでしょうし、作者さんも作品が見直されたり儲かったりしてうれしいのではないでしょうか。ロングテール理論じゃないですが、微細なニーズもかき集めればビジネスチャンス。復刊ドットコムみたいに、希望を募って過去の名作をリバイバルすることが流行していますが、絵本の世界なら過去の名作を作者公認大型本としてリリースしたら、もちろん教育的な意味もあるし、コレクターズアイテムとしても面白そうなんですけれども。
それなりのクオリティで印刷してある大型本なら、ぐっと迫力が出そうです。自分が子供の頃だったら、いつもの絵本と同じような画質で大型化して、それを読み聞かせてもらったら絶対喜んだなあ、と。
大人数対応製品がないから著作権遵守よりも勝手本制作の方を優先してしまうので、出版サイドがそういうビジネスをやって、それなりに団体や図書館等に配備してもらう努力をすれば、お互いにwin-winの関係を築くことが出来そう。
原本サイズにしろ、大型本にしろ、絵本は印刷の品質がいいに越したことは無いのですしね。


さて、ここまでじっくり考えてみても、まだ釈然としない気持ちもありました。昨日も書きましたが、結果的にペープサート化などが作品を改変する(同一性保持権侵害)行為に当たるのかもしれませんが、読み聞かせを実施する側は作品の品位を傷つけるつもりも無く、むしろ紹介することで子供にその絵本が身近になり、本が売れるというプラス効果があるという気がしてならないからです。許諾を求めて欲しい気持ちは分かりますが、手続きを増やすことが著作物を守り愛することに繋がるのかどうか、釈然としないのです。
これについて、参考になるご意見がありました。少々引用させていただきます。

(前略)作家や著作権者の意見がこのガイドラインには書かれてありません。また、現場の活動がなぜ出版社や著作権者に迷惑をかけているかもわかりません。法律上の権利があるということと、何をするときは許諾が必要かということしか書かれていないのです。

具体的に言うと、なぜ OHP で絵本を拡大することが著作権者の許諾が必要なのかの説明が、「著作権法がある」以外には説明されていないのです。著作権法を読めば良いのかもしれませんが、それでもなぜ法で守られているかは法律からではわからない気がします。これでは子供も大人も困ります。

絵本の読み聞かせが教育の一貫という立場に立てば、「なぜ OHP で拡大するのも勝手にしてはいけないのか」を子供に説明出来るようにしておきたいです。「法律がある」というのは理由のようではありますが、その説明では意図が説明出来ません。(後略)


著作権法原理主義的な立場に立つと、絵本は著者がこの「形」で完成品として販売している商品なのだから、それを勝手に改変することは作品を傷つけることに繋がる。たとえ商業的な意図が無く善意の行為だとしても、同じ内容のものが他で勝手に作られた形として存在すること自体許されるべきではない。読み聞かせに使うにせよ、せめてひとこと言って欲しい。といったことでしょうか。もちろん、これはわたしの勝手な解釈です。
たしかにガイドラインの理由づけの説明不足は否定できないと思います。このガイドラインの受け取り手の解釈や識者のコメントを待つのではなく、このガイドライン自身が法律だけが論拠ではない存在理由も明らかにしておくべきだと思いました。そういったことから、これ以上は困る、ここまでは許せる、という的確なライン引きも出来るかと思うのですが。
ネットで見る限り、反対も多いですが、理解を示している意見もそれなりにあります。しかし、全面的な賛成意見がそれほどは多くはない印象があるのは、この説明不足に起因するのではないでしょうか。
今後、関係諸氏に依る更なる説明が待たれると思います。


【本稿はd:id:Yuny:20060518:p1に続きを書きました。】

関連リンクd:id:Yuny:20060513:p1末尾掲載分に加筆。2006/05/19 02:40 AM更新)

※このリンク集へのPermalink
http://d.hatena.ne.jp/Yuny/20060515/p1#link