『息を聴け』

d:id:Yuny:20060817:p1で書きました、熊本県立盲学校の打楽器アンサンブルについて。

息を聴け

息を聴け

を図書館で借りて読みました。
いくつか新しく分かったこと、それについての感想です。

  • 楽譜は「見えない」ので、テープレコーダーで先生の各パートの演奏から耳コピ。休拍部分はカウントを入れた。耳のいい彼らは、リズムだけでなく先生の演奏のクセやニュアンスをもコピーしてしまった。
  • いろいろな理由や願いがあって、男子が打楽器、女子が鍵盤打楽器を担当。
    • この子はこのパートを担当すると、人間的にこのように成長できるのではないか、というのを見分けて割り当てた眼力は素晴らしい。これこそ音楽を通じた「教育」だと思う。
  • 鍵盤打楽器は弱視では、音板と音板の切れ目すら見えなくて、まるで一枚の長い板のようにしか見えない。そこで、中心位置のCの前という立ち位置をしっかりと覚えさせ、そこからの角度や姿勢の具合で音の位置を徹底的にマスターした。
    • 視覚に頼らずに正しい姿勢を身につけたわけで、かえって音楽の原点にたどり着いたようにも。
  • アンコンの参加が大学の部になったのは、盲学校には20歳以上の生徒も居れば、中学生もいるわけで、年齢の高い人に合わせたとのこと。
    • 中学生や高校生くらいのメンバーもいるのに大学生に挑んだ事になる。視覚障害のみならず、これだけでもハンディになりそうな物だが。しかも初出場だし。
  • 地区予選を通って九州大会に行く前に、1ヶ月ほど休養。理由は「耳のリセット」。
    • 楽譜なし、耳で音楽を創る。ゆえに、一度、音楽をきれいさっぱり忘れ直すことで、新しい段階に進める。同じ曲ばかりやっていたら飽きて来もする。アンコンは長丁場だからこういう方法もアリ。長いプロジェクトでは一度「抜く」ことで、新しい物ができる事もあり得るのだ。
  • 「通常、アンコンの審査は、あくまで内規ではあるが、「技術」と「表現」の二点について、複数の審査員が五段階評価する。そして集計後、上から、おおむね三:四:三の割合で、金・銀・銅賞に振り分けられる。」(本書P.117より引用)という評価方法。そして、彼らは全国大会金賞だけではなく、評点も「大学の部で一位の成績だった。」(本書P.191より引用)
    • 正真正銘に耳だけを頼りに演奏した音楽が、全国で一番美しく、技術的にも素晴らしかった。この偉業の意義は、音楽に携わるあらゆる人が、一度は考えてみる必要があるのではないだろうか。自分のやっている音楽は、果たして本当の意味で他人を聴いているか? 楽譜と、そこに書いた注意事項という「マニュアル」通りにやっているだけではないか? とか……。


なお、このアンコンのために作曲された「ジャンヌ・ダルク」ですが、本書の巻末にフルスコアが掲載されています。作曲者自身に依る文献でもあり、作曲の詳しい動機や、表現意図も本書内にありますし、そして各楽譜の細かい部分で表現している事を楽譜内にコメントしてあります。打楽器や、その他アンサンブルなどでの作曲をやってみたい人にも参考になりそうですね。
楽譜をざっと読んでみましたが、かなり変拍子が多くて難しそうでした。よく演奏したなあと感服しました。
ちなみに、このときのライブ版は
http://www.soundmap.jp/
にて『第28回(2005年) 全日本アンサンブルコンテスト・ライブ録音 大学の部(No.1〜10)』という事で、【整理番号:N−630】 (ECD ¥2,500)で出ているそうです。