「母さん」ではなく「母べえ」と呼ぶときに

山田洋次監督の映画「母べえ」の試写会を見てきました。来月公開です。
日中戦争から戦後までを時代背景に、思想犯で逮捕された父のいる一家の日常を追う物語。


なんだかなあ……と、獄中と往復する家族の手紙を聞きながらやるせない感じでした。
っていうか、戦争マジ反対。いやもうほんとに。
人を殺した訳でもなく、物を盗んだ訳でもないのに、考えが合わないから投獄?
というか……召集令状って、罪の無い市民を獄中送りにするようなシロモノだったわけで(事実上)。


今から見れば狂気の時代を普通に生きた家族。


ラストシーンは泣けて仕方が無かった……。


派手に空襲シーンがあったりする訳でもなく、ただただ日常を追いかけて、その中に戦争があって、という作りになっているから、余計に普通のヒトがいかに理不尽に苦しめられるか、ということがよく伝わってきます。
この東京だって、本当に一昔前まで焼け野原だった。今の繁栄、スカイスクレイパー、夜中まで明るい街……が、なぜ作り上げられたのか、カゲロウのように見えてきて仕方が無かったです。
試写会の会場が読売ホールで……ビックカメラ有楽町店の上にあるところだけに、なおさら。夜でも明るいお店ですからねえ。灯火管制とかの話が嘘みたいで。でも、本当は今が嘘なのかもしれないなー。


お母さんをユーモア込めて「母べえ」お父さんを「父べえ」と呼んだ普通の家族が、ただ幸せに生きていくだけのことが、時代によっては許されないのでした。ただ、そう呼びあって幸せな毎日を送るだけなのに。
最近、キナクサイニュースが多いので……結構嫌な予感もしてたりしますが、どうか普通の幸せが続いてほしい物です。


それに、この映画の中って、大人が子どもを「子ども扱い」していないんですよ。
きちんと「個人」として向き合っている。子どもだからと邪険にしていない。
こういうことが当たり前にできる大人が減っている気がします。自分はまだまだ子どもっぽいけれど、でも、人と向き合うときに人間として向き合えるのが当たり前でありたい……と思いました。
折り目正しい昭和の空気も、むしろ今の時代にこそ欲しいなあとも。


エンドマークのあと、拍手が起こりました。映画館ではなかなかない光景で……試写会ならではでした。
ニホンの家族の意味を静かにあたたかに見つめ直せる映画だと思います。