表現したいことを表現できる時代、なのかもしれない。

ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ (IDコミックス 百合姫コミックス)

ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ (IDコミックス 百合姫コミックス)

漫画やライトノベルの世界では、10代でデビューというのも珍しくはありません。この方も多分かなりお若いようで。専門学校時代に描いた2作目の作品がデビュー作、ということらしいので、まあ19とか20歳くらいではないかと……。
しかし、一昔前だったら出版できるところがほとんどなかったジャンルです。


なんとなく、あさぎり夕先生のエピソードを思い出してしまいました。
少女漫画雑誌『なかよし』で不動のメジャー作家として10年以上、王道なラブストーリーやコメディ等を描いておられて、代表作『七色マジック』では講談社漫画賞も受賞。しかし、突然、レディコミや少年漫画、そしてBL小説にまで転身してしまい、本当に驚かされたものです。典型的な少女漫画家だとばかり思っていたので。
しかし、先生の本音は今で言うBLに相当するようなものをデビュー前からずっと描きたかったらしい。
当然、当時の(多分今も?)『なかよし』では描く訳に行かず、編集者さんに止められたりしたとか……。商業作品ではバリバリの少女漫画を描きつつ、仕事の合間に(仕事でもないのに)本当に描きたいものを創っていた、とか。それも片手間なんぞじゃ無いクオリティです。
この辺り、詳細は先生の公式サイトで。デビュー前作品が読めたりします。→あさぎり夕らんど
もちろん、この長い長い少女漫画家時代は無駄になっている訳が無いので。この時代があったからこそ、本当に描きたかったものを出版できる時代になってからもご活躍なわけで。それこそ、水を得た魚のようです。……転身後の作品が私の好みに合うかどうかは、また別だったりしますけれど……。


ともかく……。
小説も漫画も、創り続けるためには体力やガッツも必要そうです。
キーボードやペンを走らせ始めたら止まらない、そういう天性の作家さんでも、やはり寝たり食べたりしないとだめですし。
そういう意味だけではなくて。良い作品を創るには若さも必要で、実際、たしか手塚治虫先生がおっしゃっていたことだと思うのですが、自分が漫画家としてやっていけなくなる衰えみたいなものは、きれいな丸をフリーハンドで描けなくなったときに感じた、のだとか。たしかに、手塚マンガの描画法は丸が基本ですし。
作家には、体力的な意味で、ある程度の若さは必要です。しかし、若いときに売れすぎて、蓄積のようなものがなく、すり切れてしまう作家さんもまた多いのです。


今の時代、何でもありすぎてかえって作品に力が無いようなことになっていないかな、と。
ファミコン時代のゲームなんかがそうだったらしいのですが、どうやっても128ビットとかにおさめなくては行けないが、面白いものは作りたい。そういう制約の中でこそ素晴らしいゲームができた、そういう思いを今の作り手は経験できない。
誰も、あえて苦労はそうそうしたくないものですし。


冒頭に挙げた作品は、連載時に何か引っかかることがあって気になっていた作品で。読み返したかったものですし、若手を応援する意味でも。*1
印象的だったのが特に表題作で、時代をしっかりとらえた瑞々しい作品、という意味で、応援したくなる作家さんでしたので。
ただ、すり切れないで欲しいなあと。また、ジャンルものの制約に縛られないで欲しいな、とも。今、これだけのものを描けるのだから、焦らず永く大成していただきたいなあ、と、切に願います。
漫画家に成りたくても成れなかったヒトは、たくさんいるのですから……。

*1:このところ『ざ・ちぇんじ!』小説版の売り場探しで、書店巡りをしているついでに買ってしまったという感じですが……(今日は1カ所見つけましたが、平積みのラスト1冊でした)。