コロナ渦での報道のありかたは? ゲーム『Headliner:NoviNews』(ヘッドライナー:ノヴィニュース)を通して考える。

この連休で、ゲーム『ヘッドライナー:ノヴィニュース』をSwitchでクリアしました。

以下、多少のネタバレ有りで書きます。
プレイヤーはとある架空の国『ノヴィスタン』の報道社に勤務する編集長。各記者から寄せられるニュース記事から、実際に報道するものを選択する仕事。記事を書くのではなく、記事を選ぶというのがミソ。
主人公の入職から離職までの14日間を描いた報道シミュレーションゲーム、のようです。
一応、ジャンル的にはアドベンチャーゲームになる模様。
この世界は近未来で、多くの人々は自分への遺伝子操作を当たり前のテクノロジーとして受け入れているという背景も。
そんな『ノヴィスタン』は、絵に描いたような治安の悪さ。また、国民性はどうも報道に煽られやすいところがある様子。さらに原因不明の病気が流行し街中で多数の人が嘔吐している。隣国との関係が緊迫しており、街でも物騒な事件が多発していて警察も大忙し。治安も政情も不安定な状況なのです。
なので、情報は命なわけで……。
政府寄りの記事を採用するか、却下するか?(政府に睨まれると自由な報道が出来なくなる……かも?)
流行の兆しのある新種の酒。PRするか否か?(酒造会社がこの報道社のスポンサーなので無下にするのも怖い?)
ある事件で被疑者が移民だったが、報道する? 自国民の場合は?
不可解な集団自殺。原因不明のままで沈黙するか、推論でもいいから何がしかの理由を付けて報じるか?
と、仕事内容だけでも選択の連続。批判や反動を恐れて何も報道しないと、明らかに事件が起きているのに黙殺していることになってしまい、それもまた読者の反感を買いかねず。
さらに、お笑い芸人志望の兄・同僚の女性・街で知り合った警官……といったサブキャラクターとの交流がどうなっていくのか、というのも面白い。兄は芸人としてブレイクできるのか? 同僚との関係は? この警官は難事件の解決に助力を求めてくるけれど…?
このゲームでは、報道がこの国の空気を強く醸成していくため、やり方によっては簡単に人の血が流れます。いやもうホントにあっさりと。
ニュースに流したその帰り道にはもうそれに煽られた民衆がデモを起こしていたり……。国民の反応が早い、早すぎる。
で、そんなに世の中が物騒なら警察権を強化するように市民を誘導すれば安全安心か……というと、それもまたうまくいかない。物は試しと(自分の本音はとりあえず脇に置いて)そら恐ろしいほど徹底的に政府支持・警察支援の立場で報道してみたら、これはこれで逮捕者続出、警察権濫用で、市民は安心どころかすっかり疑心暗鬼に……。
と、まあ、情報リテラシーを学ぶのにある意味でうってつけのゲーム。ただ、小中学生にはとてもじゃないけどおすすめできませんね、作風が怖すぎて。このゲーム、ホントに簡単に人が死ぬのでトラウマになるかも。子ども向けにはもっと適切なメディアリテラシー教材があるかと。
大学生の方にならぜひオススメしたいかも。自分のSNSをもっと主体的にやりたい方とか、報道・マスコミ志望の方にはいいのかな…。
ゲーム内時間で14日間で一周。現実の時間で約2時間半。なので気軽に初めからやり直しができます。前回プレイからは、自分の部屋に買ったインテリア類の引き継ぎができます。お金や報道の実績は残らないようです(インテリアは1周目から無理に揃える必要はないかも)。
で、一通りやってみてから、改めて、このゲームの出自を調べてみました。どう見ても作風が日本発じゃないので気になって。
本作はいわゆるインディーズゲームのSwitch移植版で、元々はアメリカで発売。最初はSteamからだった模様。パソコンゲームだったんですね。

ゲーム内で「病気が流行っているから手を洗え」とか散々言われるシーンがあるので、てっきりコロナ禍を受けて制作されたのかと思ったら、2018年10月……。え、早い!
でもって、日本でのSwitch版が2019年12月。この頃も、まだそこまでコロナコロナ言われてなかったはず。報道には上がっていて、中国は大丈夫かな……? というくらいには思っていましたが、まだ対岸の火事感覚がありましたから。
それで、ちょっと思ったのが。
もしも仮に、コロナのことがまったく報道されていなかったら、あっという間に蔓延して東京壊滅していた……かも、しれないなと。
報道ってやっぱり大事なんですよね。
かといって。
まったくどこにも出かけないとかすると生活の質が落ちますよね。それに、仕事の問題も当然あります。
例えば、孫の0歳児時代をまったく親に見せてあげられない、ということも起きていそうです。でも、仮に子どもが、あるいは親がうつってしまったら、それも大変なことになってしまいます。
わたし自身、見たい映画(るろうに剣心)が見られなくて残念なGWになってしまっているんですが。
でも当然ながら、もしもコロナにかかってしまったらそれどころじゃないわけで。自分だけならまだしも、誰かにうつしてしまったらその人の命も危険に晒されるレベルの病です。
なので、報道で言われているとおりにステイホームする事で、間接的に誰かの命を守っているのかもしれない……とは思うのですが。
ウィルスは見えないわけで。
もしも仮に、このウィルスのことが世界中を舞台にした壮大な大ウソだったら? 誰か仕掛け人がいて、とか。何しろ目に見えないのだから、そう考えることもできちゃうわけです。このゲームをプレイして、そんな視点も持てました。
もちろん、新型コロナウィルスの実在に関してはいくらでも証拠がありますし、例えば今の新宿への外出時にマスクをしないのは迷惑行為ですし自分にも自殺行為なんですけども。
何が言いたいかというと、その報道はホントに正しい? あるいは、ネットニュースでは良く言われていたのにテレビや新聞ではスポイルされた話はなぜ切られていたのか? 確証が弱いから? それともなんらかの圧力とか? そういうことを考えてみるのも時には大事だなあと。自分はちゃんと物事が見えているのかなと。
ゲーム内で、ある新酒のことをなんとなく中毒性を怪しんで報道しなかったらスポンサーからにらまれたので、後半戦ではしぶしぶ報道した、ということがあって。
作中とはいえ社会的評価が下がるのはイヤだと思ってしまった。それに、自分の給与だけならまだしもと考えたら、あまりスポンサーを無下にするのも……。
しかし、自分の本音を脇に置いた思考実験としては、スポンサーをスポイルしてのプレイももちろんありなんですね、このゲームのすごいところで。
このスタイル、自分としてはなんとなく良心が痛んだのですが。じゃあ、この痛みはどこから来るのかと。それは、酒造会社も敢えて毒を作ったわけじゃないだろうとか信頼していいだろうとかなんとなく思い込んでいたからで。しかし、本当は製品の質なんかどうでも良くて、単に大儲けしたくて我が報道社を抱きこんできただけなのかもしれない。
この世界の何をどう信じたら良いのか。
何周かしたあと、攻略情報を色々調べたのですが、どうやらこのゲームにはいわゆるトゥルーエンド、大団円はないらしいです。
例えば政府にとって都合の良い世界線では、終盤、大切なキャラクターに悲劇が。まさかあんなことになるとは思いもしなかった。でも、自分はこんなつもりじゃなかった!
しかし、これって、世界史ではまま起きていたことなんです。戦時中の日本でもあったらしいです、似たようなことは。
ゲーム内時間で14日経過すると、展開次第で理由は異なるにせよ、この報道社を離職することになります。
14日の活動で世の中がどうなったのか。それはすべて自分の選択次第。ある意味ではすべてがトゥルーエンドとも言えます。特に、展開を何にも知らない一周目の展開と結末こそが、その人にとってのトゥルーエンドだと思うのです。
たしか、自分の場合、入職時の登録書の書き方での最下段からして問題ありだったような……(^_^;)ゲームだからって、ついやってしまいましたが(現実では余計なことをしないように!)展開は、陰謀論に乗せられて減給の挙句に街中が大炎上、兄の夢を全力で応援しすぎて逆に一生の別れ、ボスや同僚とはそこそこうまくいきましたが救いといえばそれくらい。判断が中途半端で甘すぎて、誰かを幸せにすることはできなかった。2周目でも警官さんからの事件解決には至らず……。色々とわかってきたのは4周目から。
何周かやってみて、全てを偏らずに知らせようとするのはホントに難しいとわかりました。
現実でも同じようなことはあるでしょう。おそらくもっと複雑に。
情報の取捨判断するのは人間ですから、何かしら偏ってしまうのは仕方がない。なので、複数の新聞を読め、とか、昔から良く言われていましたね。そういうことなんですね…。
それから、ゲーム内容そのものから少し外れますが。グラフィックがなんだか懐かしいなぁと思いましたが、Classic Mac OS時代にフリーソフトゲームを良く出されていた、酒井武志さんの作品の雰囲気にちょっと似てるんですよね。

特に『クリスマスタイム』『いつもの店』あたりかな。あのゲームでのあの雑踏の感じを思い出しました。
酒井さんのゲームはほんわかとした温かみが特徴で、本作の殺伐感とはまるで違いますけれども。
ともあれ。
ある程度、怖いものが大丈夫な人、ストレス耐性がある人、情報リテラシーに興味がある人なら、やってみて損はないかと思います。
ただ、一応、食直後はやめた方がいいかもしれません。演出とはいえ、嘔吐シーンが散々ありますので……。そこは欧米のゲームとして、あるいは思考実験として割り切ることが必要ではありますけれども。