偽作曲者名問題の件

あの偽作曲者名問題(っていうべきなのか?)の件。
問題の本質に付いてスカーン! と射抜いている解説を見つけたので下記に列挙。
日本ビジネスプレスから、作曲家の伊東 乾 氏によるものです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39905
N氏の実績や立ち位置についての誤解を解くこと、と。問題の本質。お題を出されたから、解いてみた……ら、えらいことになった、みたいなことで。自分の専門領域ではなく、あくまで余技だから著作権は要らないから、と割り切っているという。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39908
オケメンバー確保や、曲のスコア&パート譜作りなど、現場で必要とされる部分をどうしていたのか、といったあたりにまで踏み込んで解説。こういう所までは週刊誌じゃ多分書けないだろうなあ(専門的すぎるだろうし)。言われるまで気がつかなかった自分も自分ですが、たしかにオケ曲には総譜だけじゃなくてパート譜も必要……。そして、納品された音楽のその後がえらいことになるなんて、知る由もなかったのも確かにありうる……。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39963
ゴーストライターというには、いささか実作をする部分が多かったことが本件の疑問点だったのですが、アシスタント業務として請け負う仕事の幅広さが分かりました。ほとんど全部作っているじゃないかということでも、仕事の形としてはアシスタントでしかない場合だって多々あるようで……。
そして「NHK取材班が気がつかなかった訳がない」論に対する答えも。確かに気がつかなかった訳がないんです。現場で違和感を覚えないはずがない。しかし、現場で感じたものが灰色だったら、白ではないんだから黒の可能性を疑わなくてはいけないだろうというようなことを一般人としては考える訳ですが、そういう思考回路が、現場ではある種の力学により働かせることが出来なかった。
そして私自身も、恥ずかしながらあの番組を見た時に独特の『雰囲気』に呑まれてしまっていました。今、思い返すと、あの番組は、たしかにいつものNHKスペシャルでの、真実を追う冷静に熱い雰囲気とは大きく異なっていました。視聴者を飲み込むような、そしてある種の冷めた目を持つ人からはうさんくさく思われるような(そういうネット論評の多かったこと!)、なんとも……NHKらしくないというか。ある方向に煽動するような番組だったように思います。

N氏は記者会見で共犯とご自分をおっしゃっていましたが。……とんでもない。頼まれたから作ってあげた。それが変な方向に転がされてしまった。要はそういうことです。
これで辞職なさったら……それこそ。それから、なぜ18年もかかってしまったのか、も。

S氏については、正直な所、お題を出す部分だけしかほめられる所がありませんね。あるとすればですが。前にプロデューサーなら良かった的なことを書きましたけれど全然違う話でした。詐欺というよりある意味で盗難事件のような気もしてきました。もう少し真っ当にできることはなかったんでしょうか。本物のプロデューサーであれば、自分でももっと汗をかきますからねえ。

それから、なぜこの騒動がこれだけ反響を呼んでいるのか。N氏への署名運動は1万8千人を超えていますし(下記で「桐朋」を検索)。一部報道で辞職するのではということも出ていますが。
http://www.change.org/ja/

いろいろ思ったんですけど。
食品偽装問題など、ニセモノが幅を利かせるのにいささかうんざりさせられる事件が多かった。
ネットで評判とかいうのにも、実が無くて本当の物ではないということが日常茶飯事。
S氏についても、本当に耳が聞こえないのか、本当に作曲しているのか、いささか違和感があったととらえる向きが多かった(しかし作品自体のクオリティは良かったのでCDは売れまくっていた)。
そういうときに、本物の作曲者さんが、包み隠さずすべてを暴露、それもテレビとインターネットで中継という、まっさらクリーンにするという潔さ。あの会見でもマスコミ、記者個々人のレベルの高低が分かり、全然勉強してないなあという人もいれば、良い質問だ、という場合もあって、マスコミの混沌さについて市民が知る機会ともなり。記者会見全部なんて、なかなか見られる物ではないですし。
あの会見で『本物さんはすごくいい人そうだ』という印象を持った人が多かったのではないかと。本物であれば応援したいと。そういうことで、自分もメディアの作為を見抜けなかったことの罪滅ぼしをしたいと。そういうことなんじゃないかなあ……。
ニセモノにダマされ続けて来た市民の気持ちの現れではないかと。

マスコミの皆さんには、取材現場で灰色っぽさを感じたら、勇気を出して黒を疑って欲しい物です。白ではないかもしれない、という感触や証拠を得たら、黒を疑うのがマスコミの仕事のはず。
もしもあのドキュメンタリー番組の現場でそういうことになっていたら、N氏の存在がもっと早く見いだされたかもしれません。