「シロタ家の20世紀」を見てきました。

映画「シロタ家の20世紀」を見て来ました。
シロタ、といっても白田さんとかいう日系人のお話ではありません。ウクライナ出身のユダヤ人に、たまたま日本人みたいな名字のシロタ一家というご家庭があったのです。彼らは、音楽や芸術を愛する人たちばかりでした。しかし、度重なる戦略的なユダヤ人迫害や第二次世界大戦勃発で、家族はバラバラになってしまいます。
後にベアテ・シロタ・ゴードンさんは日本で少女期を送った後アメリカに逃亡し、戦後間もない日本で新憲法の草案にかかわり、男女平等の条文(24条)を通すことに成功(詳しくは前作『ベアテの贈り物』にて。いつか見てみたい映画ですね)。その志の支えたのは、お父さんであるレオ・シロタさんの影響がありました。彼は、ヨーロッパに広く知られたピアニストであり、山田耕筰との縁から東京音楽学校(後の東京芸大)で長く教鞭を取ることになります。しかし、戦況の悪化で大学をやめざるを得なくなり、多くの外国人と同様に軽井沢で軟禁のような生活を送ることになってしまいました。彼が軟禁される前の戦時中にアメリカに留学という道で日本を離れていたベアテさんは、日本で父と母を探すために来日可能なシゴトに就職し、両親と何とか再会しますが……。レオさんの、そしてシロタ一家の宝物であるレオさんの手(ピアノを弾くための手なのに……)は荒れ果てていて、大変だったそうです。そして、その後ある縁でベアテさんは新憲法草案に関わり、かなり難しいだろうと思われていた男女平等の条文を、その熱意で通したという訳でした。ベアテさんは戦前、戦中の日本で、日本女性の状況をたくさん見てきましたから、
せっかくなので、日本国憲法第24条を引いておきます。この条文がなければ、いろいろなことが全然違うことになっていたでしょう。日本の文化や歴史は、いまよりももっともっと遅れていたかもしれません。

第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

それから、ベアテさんから見ておじにあたるピエールさんは音楽を中心としたイベントプロデューサーとして身を立てますが、アウシュビッツに連行されてしまい……亡くなられてしまいました。
いとこにあたるイゴールさんは、ノルマンディ上陸作戦で戦死してしまい……。彼のことも、相当丁寧に映像で追っているのですが……そのお墓の映るシーンは、涙なしには見られなかったと思います。
この時代の人々は、誰もがそうだったのかもしれませんが、本当に戦争に振り回されてしまった一家だったのです。
そして、映画の最後には、日本国憲法第9条をスペイン語に訳した碑文が、カナリア諸島にあるというので、「ヒロシマナガサキ広場」が紹介されました。なぜ、ここにそうしたものが設置されているのか……。詳しくは映画で語られていますが、平和への熱意のあるスペインのみなさまに感謝したいと思います。


いろいろと書きましたが、感想はここに集約されます。
つまり、人間たちはなぜ戦争を続けようとし、人々を狂わせる戦場が日々生まれ続け、それを止められないのか、ということです。


私自身は、次に世界大戦が起きたら、最悪の終結は人類滅亡をもっておこなわれるだろうと確信しています。正直、核を持つ国はすべて、地球を人質に取っているのではないでしょうか。次に何か大きな戦争があるとしたら、最終的には核を核で撃ち返すような悲惨な戦いになるかもしれません。
そうならない確かな方法がほしいものです。例えば、経済学的な計算から、戦争による世界的な損益を出してみたり、生物学的に戦争で絶滅する種(人類を含む)を推測したり、環境学的な汚染の推測や、歴史的な建造物や文化遺産の被害を推測、そして徴兵や公演機会の奪取による芸術文化的な損益など、人類がバカじゃなければシミュレートなどいくらでもできると思うのです。素人考えではありますが。


今は祈るだけがやっとの私ですが……。
シロタ一家のような悲劇は、こりごりだと思うのでした。


ドキュメンタリー映画としても、秀逸だと思いました。非常に分かりやすい組み立てですし、レオ・シロタさんのピアノ演奏を中心とする音楽が美しいと思いました。また、現地の映像やインタビューだけではなく、映像の中には歴史的な資料も豊富で、ナレーションも非常に聞きやすかったと思います。
資料的な意味では、キエフに移住したシロタ一家のシーンでの「キエフの大きな門」はやはりクラシックファンとしてはうれしいものがありましたし、そのBGMでのレオさんの演奏も美しいと思いました。大きな門だ、という威光に満ちた演奏だと思いました。
また、収容所にユダヤ人を運んだ列車のシーンも……。満員電車はまだ途中で降りられるけれど、あの列車は降りられないし、すし詰めの中、寒さとかで病人や死者が出たこともよくあったとか。想像するとからだが震えて仕方がありませんでした。


ともかく、戦争はもう要らないと思います。命の大切さが軽くなっている日本でだからこそ、そのことを強く思うのです。