いろいろいう方々が多いようだが、ご本人にしか分からない理由、というのがきっとあるのだと思う。
確かに私も驚いたが、オファーで納得できるものが無いこともあるだろうし、30歳を前にして充電し直して新しい世界に飛び込んでみたいというのも、同世代として分かる気がしない事も無い。
東ハトのお菓子のデザインチェンジなどを見ていると、彼の思考回路と行動力をサッカー界だけのものにしておくのは、実に惜しいとも強く思うのだ。
今大会、サッカー日本代表はたしかに良く闘った。結果に結びつかなかったが、あのブラジルに失点を与えた。
しかし、今、準決勝まで行われているゲームを見ていると、素人目にも「次元が違う」と分かってくる。
そして、中田選手が見ていたものは、多分そういう……異次元サッカーで、日本の次元にそれを求めたすれ違いが、きっとたくさんあったのだろう。
選手同士なのに、ニュアンス的な言葉が通じないもどかしさ。
「編集」という暴力で大切なメッセージを切り捨てるマスコミ。
世界レベルではベストのタイミングでパス出ししても、試合で間に合わないのは、なぜだったのだろうか。
根拠は何も無いが、いつか彼は日本サッカーのために、また何かを始めてくれる気がしている。日本で一番の選手として、「対処療法」ではなく「根治療法」として出来そうな事を感じていないはずはないだろう。
サッカースクール、コーチ、監督……、そういう既存の概念の次元にとどまらない、誰も思いつかなかったけれど、言われてみると納得するような革命的アイデアで、日本サッカーのためになる大仕事を、いつかはしてくれそうだと思う。
あの引退メッセージを何度も何度も読んで、「サッカーが嫌いになったのではなくて、一人のプロサッカー選手として、やりたい事、やるべきこと、やれること……を出来る限りやりこなした」のだろうと思った。
そして、そこまでやれた彼は、やはり幸せ者だとも。不完全燃焼で人生そのものを終わってしまう人々だって、世界中に大勢いるのだから。
彼がサッカーを好きでいてくれて、良かったと思う。
それにしても……サッカーではないが、なぜかあのメッセージを読んで、唐突に思い出したセリフがある。
『レシーブは、攻撃のきっかけであって、守備ではない』
バレーボール漫画『アタックNo.1』のセリフで、妙に印象的だったものだ。
サッカーではカウンターと言ったところだろうか。守りながらでもゴールは狙えるのだ。
今回、イタリア代表が強いが、守備的なだけであそこまで行けるはずがない。
メンタリティの強かさがまったく違うのだと思う。専門的な事や、画面に映らない部分の選手の動きなどは分からないが……。
守備は点を与えないためだけのものではなく、ボールを奪ってシュートへつなげるための手段でもある。
単純で、サッカー選手なら誰でも分かりきっていることではあるかと思うが、それを高次元で実践するとイタリアのようなプレイになるのかもしれない。
なおかつ、中田英寿選手自身が、高校時代にはイタリア語を学んでいたという。ただの偶然とは思えない。
『相手のオフェンスのシュートのリバウンドをキャッチしてマイボールにし、それを自分のゴールに決めれば、-2点が消えて、+2点になるのだから、4点分の働きになる』ともある(バスケットボール漫画『スラムダンク』より要約)。
まだ日本サッカーは、『守備のための守備』レベルを抜けていないのかもしれない。
先の先の先を読まなければ、攻撃のための守備なんて出来やしないのだ。
本番の試合で全力を出せなかったのは、きっとその辺りに理由があるのだろう。
中田浩二選手(同じNAKATAだ……)のクロスにヒントがありそうだが……。
さあ、23人の席のうち、少なくとも一つが空いたのだ。まだ大会期間中だというのに。
舌なめずりして狙っている若手選手がきっといるだろう。誰だかは分からないが、その「彼」の登場を期待したい。大暴れし、体を張って守り、ゴールを狙ってほしい。