MOTHER3を

事前の問い合わせでは新宿西口ヨドバシカメラでは二日で完売に近い勢いみたいだった。初期ロットを買っておくべく、電車に乗ってそのレジに並んだ。隣で五千円札を置いたお兄さんも、私と同じに「まざーすりーをください」。この二日で何人が言った台詞だろう。どんな気分でこのお願いをしたのだろう。注文を受けた店員さんはどう思ったかな。このよく売れる孝行息子。十年以上の難産の末にやっときてくれたきかんぼう。レジを叩く彼も、ひそかに買っていたりして。だったらいいな。だったらいいな。

帰りの車内では箱の中にあった赤い冊子をゆっくりと読んだ。人間が小学校に通うまでに挨拶のしつけを受けておくような、この世界での過ごし方が沢山書いてある。基本的な歩き方はMOTHER1+2の冒険に近いようだ。
さて、ここはどこなのかな? 地図には「ノーウェア島」とある。
NOWHERE ISLANDだ。どこにあるか分からない、どこにもないかもしれない、そんなたった一つの場所。
しかしこの地名、実は色々な意味がありそうだ。文法的にはちょっとおかしいかもしれないが、たとえば、NOW HERE ISLANDならば「いまここにある島」だし、NOW HERE IS LANDならば「いまここにある台地」だろう。そんな言葉遊びが楽しめる場所。砂漠がある。川がある。森がある。海がある。村がある。人や生き物が沢山いるだろう。お化けや宇宙人さえもいるかもしれない。
そんな世界にようこそと招かれた私たちだ。ようこそここへ。パラダイスになるかまだ分からないけれど、縁があってたどり着いてくれた、箱庭の中の場所へ。あなた方を歓迎します。暖かく、時に手荒く、歓迎します。
先ほど五千円札で買ってきた世界。これから私はこの世界を飼う。すでに酷使して古びたDSの中だけれど、きっと美しくたくましく育てよう。
さあ、まずは名乗ろう。好きな食べ物や得意技に名前を。これが出生届だ。