Yulia Livinskayaさん、あなたはすごかった。

Yulia Livinskaya(ユリヤ・リヴィンスカヤ)選手と書いて、五輪選手だと分かる日本人はほとんどいないだろう。 今回のバンクーバー五輪から採用された、フリースタイルスキー・女子スキークロスのロシア代表選手なのだけれど。


日本時間で24日の朝、たまたま早く起きられたので、私はこの新種目をテレビで観戦していた。
この種目、今まで見たことはないんだけれど……ファミコンの「エキサイトバイク」の基となったモトクロスレースみたいに、山ありジャンプ台あり勾配ありの大障害物レースのスキー版らしい。ちなみにスノボ版もあるようだ。というか、五輪種目になったのはスノボ版が先で、トリノ五輪ですでにやっているそうだ。


エキサイトバイク」みたいに、予選は一人で滑ってのタイムトライアルだ。あのゲームをやっていると分かるのだけれど、山越えするとき、あんまり高く跳びあがりすぎるとタイムが落ちるので、低く長いジャンプができることが重要なようだった。まあ、人間が実際にスキー板を履いて滑るときに、十字ボタンの右を押すわけにはいかないから、実際には重心移動とか体の向きの調整とかでジャンプの角度を変えるのだろう。半分ゲーム感覚で観戦していて、のんきに楽しんでいたわけだ。


ところが、そのゲーム感覚が一変する出来事が。ある選手がコース途中でジャンプしたとき、着地の衝撃の影響でストックを落としてしまったのだ。しかも彼女は時速50kmにもなるというこの競技で、ストックなしでレースを続行した。スキーをやっている人なら、ストックは加速時に地面を突くだけではなく、前後左右のバランスをとるためにも必須の道具だというのが分かるのではないだろうか。どうも両手のストック、手元のストラップが切れたか外れたかしたトラブルだったらしいけれど……。まだまだ先は長いのに、ストックなしで急こう配をスキーで走り抜ける。急カーブやジャンプだってある。それでも、とっさの判断で彼女はストックなしのスキークロスに挑んだ。結果は決して良くないタイムではあったが、どうにか最下位ながらも決勝トーナメント進出! 途中棄権してしまえば、決勝トーナメントに進むことはできない。だが、ストックなしでは選手生命にかかわるような大けがをする危険性もある。彼女は賭けた。そして決勝トーナメントへ進んだのだ。その快挙を成し遂げたのが、ロシア代表・Yulia Livinskayaさんだった。


そして決勝は4人ひと組でタイム関係なし、4人のうちの上位2人の勝ち残り戦を何度もやって女王を決めるトーナメント方式だ。4人の組み合わせは、予選のタイムで早い人と遅い人をうまく組み合わせて決める。だが、タイムよりも順位なので、駆け引きが重要になる。それに途中まで4位だったとしても、2位と3位の選手が激しい2位争いをした結果、共倒れになって勝ちを拾うことも十分にあり得る。最後の最後まであきらめてはいけないし、余裕の1位を取っていたとしてもきちんと最後まで油断なく走り抜けなければいけない。途中で転んだら最下位になりかねないのだから。
まさしく、ゴールラインまで分からない戦いなのだった。


決勝トーナメント1回戦の第1組。その中にあの「ロスト・ストック ゲット・ウィン」"Lost Stock, Get Win!"こと(勝手にコピー付けてるし^^;)Yulia Livinskayaさんが居た。ここまで残れたのなら、行けるところまで行ってほしい。トップタイムをたたき出した強豪選手もいる組だったが、私はYulia Livinskayaさんを応援していた。いよいよ始まる。


位置について〜、よ〜い、どん!(実際には英語ですって^^;)


スタートから最初のダンプ(山)を越え、急カーブに入るまでがまずひと勝負。身長の高い、予選トップの選手が大きな体を入れてほかの選手を阻み、この時点の1位を取る。小柄な選手は小回りが利くかもしれないが、体を入れて阻止されるとやはり弱い。なるほど、さっきまでは単にコースとの戦いであり、タイムとの戦いだったが、他人との勝負になるとこういう風に面白さが増すわけか。テレビの解説者の言う通り、予選と決勝リーグは全く違う戦いだった。


ジャンプの迫力、カーブでの駆け引き、息つく間もない勝負の面白さに目を見張りながら、応援していた。ところが……。


4位につけていたYulia Livinskayaさんが、ジャンプのあとの着地に失敗して転倒!


あああっ! なんてことだ!


しかも彼女、立ち上がらない。どこか折ったか、気絶してしまったのか? ストック無しでも滑る根性がある人だから、動けるなら立ち上がって滑るだろうに……。


第1組のほかの3人はそのまま滑降していき、勝負はついた。それはいいとして、問題はYulia Livinskayaさんだ。
だいじょうぶなんだろうか?
試合はその後十数分ほど中断された。救護スタッフにより、毛布でくるまれタンカで慎重に運び出される彼女。彼女のコーチが駆け付けたが心配そうだった。


日本からは福島のり子選手が出場していた。決勝トーナメントまでコマを進め、熱い戦いで魅了してくれた。1回戦で敗退してしまったが、非常に惜しい戦いぶりだった。何度となく2位の選手に挑み、背後から抜きにかかる大勝負。これがスキークロスの面白さなのだ!
途中で世界女王を何年も続けているような選手が敗退するなどの番狂わせがあったり、途中まで3位と4位だった選手が上2人の選手の転倒で大逆転をしたり。ゴール直前で転倒してしまった選手が、思わずおどけて周りの笑いをさそってくれたり(心配させない効果もあったと思う)。17歳の選手が準決勝まで残ったり。ハラハラドキドキの1時間半だったが……試合中にはYulia Livinskayaさんについての続報はなく、スキークロスの魅力を堪能しつつも、気がかりだった。


どうやら彼女はこの事故で死亡したわけではなく、打ち身と脳震盪で済んでいるらしいことをインターネットで知った。日本語のニュースは見つからなかったのでこちらをあげておく。
http://www.nowpublic.com/sports/yulia-livinskaya-injured-womens-ski-cross
決勝トーナメント1回戦公式結果はこちらから。
http://www.vancouver2010.com/olympic-freestyle-skiing/schedule-and-results/ladies-ski-cross-1-8-finals_frw740400vE.html
この事故が彼女の選手生命にかかわってしまったのかどうかは分からない。
ともあれ、ストック無しで予選を滑り抜き、決勝へ進めた彼女のことを、私はここに日本語で記しておこうと思う。
Ms.Yulia Livinskaya, you're SPECIAL SKIER!! Please take care!