週刊少年マガジン2週読み切り「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」後編。

最近、子供の頃に読み慣れた週刊少年ジャンプにはない面白さに気がつき、週刊少年マガジンをよく読んでいます。あの頃のジャンプをファンタジーとアドベンチャーとすれば、今のマガジンはリアルとドラマといった感じです。*1
今日発売の7号で、ベトナム戦争帰還兵のインタビューと著作を漫画にした「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という2週連続掲載の読み切りも、大変興味深かったです。
※現在は単行本として読むことができます。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」「東京大空襲」 (KCデラックス)

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」「東京大空襲」 (KCデラックス)


原作となった書籍はこちら。いずれ読んで、こちらも感想を書きたいと思っています。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 (シリーズ・子どもたちの未来のために)

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 (シリーズ・子どもたちの未来のために)


以下、ネタバレを含みますので、文字を白くしておきます。(ドラッグで選択すると色が付いて読めるようになります。2005/1/23、白色解除しました)とりあえずは立ち読みでもいいので、まず読んでみてください。今なら数日間はコンビニにありますし。今週は後編だけですが、先週の前編のあらすじが付いていますから安心です。


貧しさから軍隊に……戦争に「就職」する者が後を絶たないことは、id:Yuny:20040905#p1での「エンジェリック・ゲーム」と「華氏911」の感想で書いた通りです。主人公のネルソンさんも、そんな一人でした。貧しさからスカウトに応じて海兵隊へ……。彼の動機は決して、ベトナム人やアジア人が憎かったとか、そういうことではなさそうでした。国のために役に立ち、そして名誉といい生活が手に入る。そんな風に口説かれたのだとか。


でも、戦争は武器を握り、ヒトを殺す行為。それはみんな気持ちの中では分かっている。分かっていて志願し兵になるということは、自分の中の暴力的感情をぶつける先を見いだしたということ……。いい生活をしたいだけなら、本当に兵士になるしか方法は無いのか。本当はいやなら兵隊ではない道を探したり、命令を拒否すればいい。それをできなかったのは、本当は銃を撃ち人を殺し戦争がしたかったからだ。ベトナム人を殺して英雄になり、ましな生活をできるようになって称賛を受けたかったからだ。彼が帰国し、PTSDに苦しみ、セラピーを18年も続けてようやく達した自分の中の本心は、ページ越しに私にもその衝撃が伝わってくるようでした。医師にセラピーで毎回「君はどうして人を殺したんだ?」と18年間問われて得た本心。認めてしまっては生きていけなくなるような本心は。


軍事訓練では、敵の兵隊を相手にした戦い方を習っても、ただの村人、女性や子供などを相手にした殺戮方法などは習わないといいます。だから、ベトナムに乗り込んだときは、彼らは「敵殺しのヒーロー」になるつもりできていました。けっして民間人を、普通の人たちを殺す訓練をしているわけでも無いし、そんな目的も無い。
ただ、打ち続くゲリラ戦の中で、村を破壊し、女性も子供も問わずに殺害していくと、人間性が壊れていくのだそうです。(人を殺した数が誇りになる。兵士の中には、殺したベトナム人の耳をそぎ、首飾りにして誇ったものもいたとか。でも、その人も、きっと戦場に来るまではそんなことができる人じゃなかったんだと思います。戦争という異常環境に染まりきり、何か目標がなければヒトは生きていけませんから、殺害した敵数を目標としてよりどころとして必死に生きていくしかなかったんじゃないかと思います。)殺すのが当たり前になる。戦友を殺されたから、命令だから……動機は幾らでもあります。そんな心理は想像するにあまりあります。ネルソンさんはそんな中で、ベトナム人とのいくつかの衝撃的な出会い*2を経て、人間であることを取り戻そうとし始めていきました。でもそれは戦場でのこと。できるだけ無駄に人を撃たないようにしようとしても、結局は撃ってしまう。それが戦場だから。戦争だから。


なお、ベトナムから帰還した彼が、軍からもらえたものは、4つの勲章、400ドルのお金だけでした。そして悪夢との闘い……ベトナムのすさまじい記憶がPTSDとなって、ネルソンさんの心をむしばんでいきました。(今は治っているそうですが、彼はずっと、戦争のことでは心を痛めていくのでしょう)なぜ、こんな思いをしてまで、戦争が無くならないのか?


この話は雑誌から切り抜いて、保存しようと思います。絶対忘れたくない読み切りでした。
ちなみに、彼の講演録があるようです。1996年のものですから、講演活動を始めたての頃のものでしょう。1995年の沖縄米軍による少女暴行事件をニュースで聞いて、ベトナムに行く前に沖縄の基地にいたこともあるネルソンさんは、日本での講演からこのような活動を始めたそうですから。(それが1996年のこと)読み切りが読めなかった方はこちらをどうぞ。

2005/01/23追記

書籍の方も読みました。感想はこちらをどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/Yuny/20050123/1106488293

*1:必ずしもジャンプを否定しているわけではありません。ただ、いまの自分には合っているというだけです。

*2:前編にあります。