はてなユーザは千の仮面を持ってはいけない。

id:yukatti:20050313#hatenacommunity
id:yukatti:20050313#aboutjinriki
こりゃ、ほとんど論文ですね、yukattiさん。縁側をお貸しして長話した甲斐がありました。(笑)お疲れさまです。
拝見して、思ったことを書きますね。


近代以後〜インターネット以前の知の集積と、インターネット以後の知の集積を比べたときに、匿名性というのが出てくると思います。図書館とwebを比較すると良く分かるのですが、図書館には「詠み人知らず」はほとんどありませんね。どんな本にも著者がいて、奥付には略歴が書いてある。「もしもこの本のご感想があれば、編集部気付でお手紙など戴けると幸いです」などとも書いてある。つまり、図書館的、文献的な知の集積には、自分の経歴や名前をアピールし、業績として残すことが重要だったわけです。

しかし、webの場合、そういう向きももちろんありますが、yukattiさんが心配なさっているような、個人情報に端を発する知もあるわけですね。「自分が誰だか分かってしまうこと」が善とも言えなくなってきた。

そこでどうするか、といえば、ハンドルネーム、あるいはユーザ名非公開のような形(通りすがり、匿名希望……)を使うこと。これは自衛策でもありますが、匿名ゆえに手軽に知を提供できる部分も多くなりました。文献であれば、知に対する責任も生じたわけですが、匿名がメインのwebでは、そこまで気を使わなくても良くなってきた。反面、情報を享受する側は、情報吟味力(一種のメディアリテラシー)が必要になってきてもいますけれども。

そんな中にあって、「はてな」では、一つのIDですべてのサービスを利用できる体制を作っていますし、先日からすべてのサービスの縦断閲覧が可能になりました。画面左上の「Hatena::Diary」の隣の上下矢印をクリックすることで、そのダイアラーさんのフォトライフやアンテナ、ブックマークにジャンプできるようになった。ますます「はてなID」の市民性、名前性が高まっているなあと。つまりこれは、匿名でありながら匿名でも無い領域にある名前ともいえましょう。「ガラスの仮面」から表題を引用しましたが、「はてな」の世界では他人の仮面をかぶってはいけない、というか、「他名の仮面」をかぶってはいけないことになっています。これはかなり図書館的な知に近い印象があります。

知、といっても、何も文献的にまとまったような、堅苦しい知を考える必要はありません。今日のテレビの感想、おいしかったご飯、愉しかった映画、ニュースの感想、URLリスト、お気に入りのMy写真、そういった人間が思ったこと感じたことすべてを知と考えることができます。メモしたい、書きたい、残したいと思って実行した時点ですべてが知だと考えられます。

でも、みんながみんな、図書館に文献を残したいと思っているわけではないですね。そのために「はてな」ではプライベートモードというシステムもありますが、全くの非公開にするのももったいない。「詠み人知らず」でこそ公開したいという情報もあるのではないか、その形でこそ価値が出てくるような情報もあるのではないか。

例えば、先日(id:Yuny:20050215#p3)「はてなフォトライフ」のキーワード機能を活用したフリーフォト素材集を作成するユーザークラブはできないものか、という提案を書いてみましたが。この場合、写真撮影者が分からない方が権利的なトラブルは少ないかもしれないという気もしました。(データの置き場所の問題は考えないとして)たとえば、家の近くにとても良い桜の撮影スポットがあって、そこは是非素材提供したいけれど、自宅が明らかになるのも怖い、という考えもあると思います。

「他名の仮面」をかぶってはいけない、という原則を通していても、部分的には「詠み人知らず」を可能にする方法もあるのかもしれませんね。ただし、情報の信頼性は下がってしまう問題はありますけれども。匿名性と信頼性はトランプの表と裏のようなもので。この点に関してはまだまだ議論が必要だと思いますが、場合によっては匿名の方がいいこともあるだろうと考えています。