エイプリルフール@はてな

発展著しい放送技術と多チャンネル化へのニーズに答え、ニボン国総省は20011年から全てのテレビ放送をデンタル化することを決定。
関係各所に対し、国民の皆さんに的確に通知するように要請し、そのためのテレビCFやパブリシティなど綿密に実施。また、一部の企業では事業拡大のためにアンテナを自ら設置する動きも見られつつあった。
数年のテスト放送を経て、全国放送直前となった20010年の3の月、30の日のこと。


ここシブヤシティの微妙に著名なIT企業H社屋上には、はてなアンテナ、という新型の地上派デンタルアンテナが製造されつつあった。
「『はてなアンテナ欲しい!』と叫び続けて何年経ったか。これでウチのネット放送サービス「リリリモ」がいけるのさ〜。」
余裕の微笑みで高さ20メートルにも及ぶ巨大アンテナを眺めるのは、H社しゃちょう、こんどーじゅんさん(年齢ヒミツ)。
その足元ではこーぎー会長がはしゃいでいる。ワンワン。犬の目にも新しい何かができるということは、興奮を誘う物らしい。
はてなアンテナは地上派デンタル放送の技術を活かし、海外や国内の有名番組や人気番組を集合知アルゴリズムにより無作為抽出、その結果選ばれた映像をランダムに新サービス「リリリモ」のサイト上で放送するシステムだった。
H社が誇る技術屋さんのなおさんは、さっきからスパナを握りしめ。最後の調整に余念がなかった。何しろ予定では明日から稼働しなくてはならないが、致命的なエラーコード「500」のワナにハマり、3時間近く抜け出せないでいるのだった。
「しゃちょう、そこで腕を組んで謎の微笑みを浮かべてないで、ちょっと手伝って下さい」
「トラブルか?」
「500エラー。何をやっても言うことを聞かず」
「なおさんならなおせるさ〜」
「なおさんなかったらど〜するんですか。手伝って〜(泣)」


……くどいようだが、稼働予定日は明日である。
そして、今は夕方。シブヤの夕暮れは目に美しいが、そんな呑気なことを言ってはおられない。
設置場所はH社屋上。故に、暗くなっては作業が出来ないのだ。


3分後……。


「あー、ここの接続をまつがってたんですかボク」
「だからこの黄色いコードをこっちにつないで……オッケ、試験稼働するぞ!」


ぱちり。はてなアンテナのスイッチを入れた。
テスト用に持参したノートパソコンで、サイト「リリリモ」を表示する。
リロードを7回ほど繰り返すと……おお、何かが映ったではないか。
「ジャンジャンジャーン♪ ジャジャジャジャ♪」


どこかで聞いたような雄大な音楽が聴こえる。
「これは……」
真っ黒い出で立ちの奇妙な仮面を付けた男が、青年に向かって光る剣を振り回している様子が映った。
青年も光る剣を持っているが、情勢はかなり押されているようだ。
「海外のドラマか?」
「どっかで見たことがあると思うんですよね。えーっと?」


画面の中のふたりは剣を交え、交錯していた。手元が映る。


「あ、あの剣、ボクのおたからにそっくりなような……とってきます!」
「あ、おい! なおさん!」


H社ロッカールームに飛び込んだなおさんは、1分11秒で戻ってきた。
「しゃちょう、ほらこれ。そっくりでしょ」
「これは、映画『すたーうおーづ』のライトペンじゃないか」
「映画ではこのペンを握って、三回廻ってワンって吠えると、ペン軸から光がでて剣になるんですよね。これはもちろんレプリカでそんな機能はないですが」
「言われてみるとそっくりだが……こんなヤツらでてきたかなあ、あの映画?」
振り返ってみると、映像の中では青年がいよいよ、崖から落ちそうになっていた。黒づくめの男は容赦せずに剣を突き立てようとする!
「「あ、あぶない!」」


おもわず二人して叫び、ともに握ったライトペンを画面の中の男に向けた。
すると!
「「わ!」」


ペン先から見たことも無いような銀色の光が溢れ出て、画面の中の男に当たったではないか!
「ぐあ〜〜〜〜〜〜!」
断末魔の声をあげ、男は崖から落ちて行った。


「なんだこれ?」
単なるネット映画のはず、である。ノートパソコンはさっきの銀の光をまともに受けたせいで、画面が溶けて壊れてしまっていた。


……今のはなんだったんだろう?


「あー! 明日からの新サービスデータ、全部こん中じゃん!」
「なんとかデータを救出するんだ!」


闘うIT戦士の二人は、つい数分前の奇跡を忘れて、慌ててノートパソコンを掴み、社屋へ戻って行った。
さっきから3回でも4回でもぐるぐる走り回ってはワンワン吠えている、こーぎー会長を一人匹残して。


『こういうこともたまにはあるんだワン。奇跡に目を向けないほど忙しいのは、なんだか大変だワン』


会長が見上げた星の海の彼方の某惑星では、一人の青年が宿敵を謎の力ではねのけ、九死に一生を得て崖をよじ上っていくところだったことなど、誰も知らない。


【2007年4月1日。そんな未来を予見してここに記す。ちなみに、本物の地上波デジタル放送では、はてなアンテナは不要ですが、地域によってはUHFアンテナを各家庭屋上に据え付けることが必要な場合があります】