『ラジアントヒストリア』完全クリア

ラジアントヒストリア 特典 オリジナルサントラCD/下村陽子付き

ラジアントヒストリア 特典 オリジナルサントラCD/下村陽子付き

Nintendo DSの新作ファンタジーRPGが、『女神転生』シリーズでおなじみのアトラスから先日リリースされましたね。
自分には珍しく(かも?)発売翌日入手で、熱中してクリアしました。とにかく濃いRPGを1本プレイしたい心境だったので。
エストコンプリートした記念に感想を書きます。できるだけネタバレは避けていますが……ちょっと先が読めてしまうかもしれません。

シナリオ

このゲームは、謎の砂漠化が年々広がりつつあるファンタジー世界を舞台に、ひょんなことからタイムスリップ能力を手に入れた主人公が、歴史の流れを世界の滅びから再生へと導いていくものです。失敗と成功を積み重ねつつ……。
架空のファンタジー史だとイメージがつかみにくいと思います。たとえば、日本史上でも、もしもあのとき別の決断がなされていたら? ということってあると思います。大きな歴史の流れの中でも、些細な違いで結果がかなり異なっていたということが。たとえば世の中全体の流れとして、稲作から身分社会が生まれ、貴族や役人と庶民と分かれ、やがて武士が台頭して戦乱の世となり、どこかの勢力が日本を統一して……という大きな流れそのものは変わらないと思います。でも、もしも本能寺の変が起こらず(たとえば事前に明智光秀の動きを察知した何者かが織田信長に忠告するとか)織田信長が天下を統一したら、全く違う日本ができていたかもしれません。
本作のシステムでたとえていえば、本能寺の変が起こった時点を歴史の分岐点とし、そこから主人公が時間をさかのぼって本能寺の変を防ぐことができれば、本能寺の変が起こった歴史が『正伝』、起らなかったパラレルワールドが『異伝』となるわけです。
そして、本作の面白いところは『異伝』で起きた歴史や登場人物の心理状態が、『正伝』にも影響してくるところでしょう。たとえば、もしも信長が死ななかったとすると、『異伝』では彼の自由闊達な精神で、日本文化は現在よりおおらかな方向に発展した可能性があります。そのため、『異伝』では禁教令は出されない方向に歴史が動いた可能性があります。そうなったときに、信長が死んでしまった『正伝』の方でも、もっとキリシタンに対して柔軟な政策を為政者が採るようになった、という風に流れが変わる……かもしれません(私は同じ日本人なのに、信じる神が違ったことで起こってしまった『島原の乱』は悲劇だと思っていますので……)。
ラジアント・ヒストリア』の舞台はあくまで架空のファンタジーワールドですから。もっと気軽に楽しむことができます。本作の場合は、砂漠化が進む世界で国家間の対立があり、その一つの暴君が支配する国家では民衆が立ち上がり革命が起こり……といった大きな流れは『正伝』も『異伝』も同じです。ただし、その歴史の裏で活躍した青年がいて、彼は国家の革命だけではなく世界の崩壊を防ぐという、より大きなものを見ていたということが大きなポイント。それから、序盤に彼がどの立場で行動するかにより『正伝』と『異伝』にあっさりと分岐し、両方の歴史を追わないと、世界の崩壊から免れることはできないシナリオになっています。
テーマとして『砂漠化が進む世界』『砂漠化を止めようとせず覇権争いに終始する人類』『人類を見捨てた異種族の無関心』『誰かが犠牲にならなければ保たれない世界』『異種族間の友情や信頼や恋愛』『無力さに絶望せず、行動し始めた市民たち』など、現実世界を剽窃したものが多数ぶち込まれています。だからこそ、面白い。
それから、ドラクエタイプのRPGではないので、主人公もしゃべりますし、自分の判断で勝手に行動する時もあります。ただし、それが嫌ではない。主人公の判断をプレイヤーがするときは、本当に結構迷う選択肢のとき。彼のスタンスからいえば当然と思える選択は彼自身が勝手にするので、キャラクターへの感情移入はむしろ強まると思います。


彼自身の手による最終的な選択、そして意外な人物の悟りがもたらした救いのある結末は、涙なしには見られませんでした。
エンディングは2回は見た方が良いと思います。全く印象が変わりましたから。

操作性

タッチペンでもキー入力でもプレイできますが、タッチペンだとややコントロールに難があり、勝手に剣を振ってしまうことがありました。剣を振り回して敵シンボルに対して先制を取ることも、本作のテクニックの一つなのですが、ペンだとやりにくいかもしれません。キー入力のほうがこなれていてやりやすかったようです。設定次第で、できれば右手でペン、左手の十字キーで剣を振れたらプレイしやすかったかも……。あ、これは任天堂DSiウェアエックスリターンズ』の操作システムですね。
ストーリーが進むと、敵とのバトルを徹底的に避けることができるようになる(ただしMPをどんどん消費する)ので、経験値やお金、アイテムを貯めたいときと、とにかく先に進みたいときで使い分けることができます。携帯機だと時間がない中でプレイすることになるので、非常にありがたいシステムでした。

バトルシステム

バトルシステムも『歴史=時間を組み替えるRPG』という本作の特徴を踏まえたもののようでした。最初はとっつきにくかったのですが。攻撃の順番を自由に組み替えることができ、敵の配置はマス目に置かれる。最初はあえて敵の攻撃を受けてターンを貯め、カウンターのように様々な技を連打すると大ダメージで経験値&お金も得するという。ちょっと似ているかな? と思ったのは任天堂の『ヘラクレスの栄光 魂の証明』のシステムです。あれはオーバーキルをすると魔法力が得られるというものでしたね。キャラクターアクションもなかなか凝っていて良かったと思います。だんだん技が派手になっていくのがうれしいところです。

キャラクター

キャラクターの能力も、ものすごく一長一短がありました。キャラクターの能力が性格にも反映しているのが面白いところです。あるキャラは回復が得意だけれど自分自身の体力はない……純粋で心やさしい性格。打撃一辺倒で魔法はまるで駄目なキャラは、デスクワークが苦手だったり。平均的になんでもできるけれど決め手に欠けるキャラは、やはりどこか優柔不断。魔法力が優秀なあるキャラは、やはり頭が良く、繊細な感性の持ち主でした。自国の都合だけではなく世界全体の視点で問題を考えられるという、視野が広くて決断力に優れた姫君は、やはり技の射程範囲も広い(この世界のキャラクターでは唯一といっていい、拳銃の使い手というのが面白い)。野獣のごとき強さを誇るキャラクターは、性格もやはりどこか朴訥でしたね。
主人公の性格は……どうなんでしょう。ある程度平均的に何でもでき、そこそこの回復とそこそこの打撃力があります。率先して先頭に立つこともできれば、仲間の攻撃力や魔力を信頼して回復に徹することもできます。実際、初回のラストバトル(レベル50前後)では、彼は攻撃に立たずに回復アイテムを用いて、ヒーラーに専念させたほうが全体がうまく回りましたから。さらに面白いのは、アイテムを盗む能力があることです。かといってシーフというほど徹しているわけでもないのですが。どちらかというと軽戦士とか魔法戦士タイプかな。物事を中庸な視点から見ることができ、一時の怒りに捉われない冷静さもある。かといっていつもクールなわけでもなく、哀しみも笑いもする。
実に味わい深いキャラクターですね。

音楽と場面のマッチング

音楽も美しくてかっこよかったですし。予約特典サントラをつけてもらって正解でした。ピアノ版で聴くと、またこれが……。
それに、同じ場所でも違う音楽が流れると、全然イメージが変わりますね。
そうそう、時間軸が異なっていても同じ場所を何度か訪問することができるので、歴史の場面ごとにそのエリアの意味合いが変わるのです。
たとえば、ある砦は激戦の地となることもあれば、主人公たちが無料で宿泊できる休養所になることもあります。ホームタウンといえる場所も、場合によっては追われる敵地になってしまったり。まさに、激動の歴史を味わうことができます。現実の歴史でも、こういうことはあったでしょうね。
音楽に関しては、何曲か、吹奏楽で演奏してみたいものもありました。このゲームがメガヒットしたら、もしかしたら『ニューサウンズ・イン・ブラス』の『ジャパニーズグラフィティ』に入れてもらえるかもしれないんだけどな〜。吹奏楽版のオーケストレーションが頭に浮かぶ感じで良かったですよ。
曲を聴いてみたい方は本ゲームの公式サイトでサウンドをオンにすると、延々と聴くことができます。

キャラクターグラフィック

このゲーム、本当に名作だと思いますが、残念だった点が1つだけ。それはキャラクターのイラストが少なくて、セリフをしゃべっているときにポップアップするのが各キャラクター1点ずつ(多分)しかなかったこと。
台詞をしゃべっているときに、キャラクターのドット絵ではなくイラストが上がってくるのですが、終始同じ絵なので、深刻な話をしているのに笑顔だったり、喜んでいるのに真顔だったりしてものすごく違和感がありました。
もう、本当にここだけが残念で。
いくつか表情があれば(喜怒哀楽の4点、あるいはそのうちの2点だけでも……)もっと臨場感があったと思います。ああなってしまうのなら、いっそイラストは無しでドット絵のキャラクターが漫符でしゃべる方がいくらでも想像できるのではるかに良かったかもしれません。そういう演出にはファミコン時代に慣れていますし、演出法として出来上がっているものなので、違和感がないでしょう。漫符的表現がかなり多用されていましたが、もっと種類とかを徹底しても良かった。非常に中途半端だったと思います。

背景グラフィック、キャラクターシンボル、ムービー

レイフィールドは3次元ではなく2次元とも割り切れないので、たぶん2.5次元といったところです。ドラクエシリーズのDS版のような、視点の回転はできません。正面から見ての立体で、60度などのななめではないので見やすく思いました。
ゲーム画面内の他のキャラクターシンボルは、動いている場合はそれこそそこらじゅうを走り回っている場合もありますし、止まっている場合はしっかり静止していて、いつも同じ場所で足踏みしているという妙な演出はありません。ドラクエでありがちな、人が邪魔で建物の中に入れない、ということもほとんどなかったようです。敵のキャラクターは結構動いています。爆弾に巻き込んで倒すことも可能です。
ムービーは自動的に流れますが、Xボタンで早送り、スタートボタンでスキップができます。また、コントロール可能な場面とムービーとは、比較的シームレスにつながっていました。暗転する場合もありますが、その場合はたとえば外から部屋に入った、など、違う空間への切り替えがなされているので違和感がありません。ただし、初見の場面でもスキップできるので、飛ばしすぎないように注意が必要です(再プレイを考えたら正しい仕様だと思います)。

難易度

攻略本やサイトは、一通りクリアしてから見るほうがお勧めです。
じっくり考えれば、たいていの謎や事件は突破できますし、切羽詰まったときには思い切って逃げたり、セーブポイントで全回復したりという手がいくらでも考えられるシステムになっていますから。それに、失敗イベント(パラレル)も意外性に富んでいてなるほどとうならされるものが多く、理不尽なものは少ないので、非常に考えさせられました。セーブポイントや、タイムジャンプができるポイントも結構まめに張られているので、割と快適にプレイできます。また、ゲームの性格上「あのシーンをもう一度」とか、「あのボスと再戦を」という楽しみ方もある程度はできます(ゲームが進むとみられなくなる演出もありますが)。一部のボスには彼しか持っていないアイテムがあり、それは盗まないと入手できないことが多いようです。やりこみ要素が多いのは『女神転生』と共通するアトラスの作風なのかもしれません。
レベル上げや武装に関しては、序盤はそれほど熱心にならなくても、適当に敵を倒していけば何とかはどうにかは、なります(首の皮一枚、ということもしばしばなのですが、生還できるバランスなのでゲームとしては正しいでしょう。安易なゲームではありません)。先に進むに従って……5章あたりからはかなり厳しくなってきます。でも投げ出したくなるとか理不尽ではなく、それなりになんとか進めるレベルというのが絶妙でした。心配なヒトは多少経験値稼ぎをしながら進めると良いかもしれません。

クリア後感

全体としては、ドラマチックで良いプレイ後感の残る良作でした。ラスボスが悪の大魔王というわけではなかったのも素晴らしい。悪ではないけれど、結果として悪の道へ走らざるを得なかった。そしてそれは、主人公への愛情の一つの表れであった……。それでもおかしい、誤っているということは正さねばならない。理由がどうあれ。
独善、ファシズムにならずに、世界のための決断を下す難しさを感じさせられました。

プレイ時間

人によると思いますが、とりあえずクリアするだけならプレイ時間は35時間程度かな、と。自分がそれくらいでした。でも、しっかりとサブクエストを追及すると50時間程度になり得ます。価格はDSゲームの値段としてはいささか高い部類(定価6279円)なのですが、その分の価値はあるかな、と。


ゲームシステムの将来性

この『悲劇に向かう歴史を組み替えていく』システムは、非常に奥が深く、まだまだ面白いゲームが作れる可能性が高いと思います。それに、シナリオも秀逸。どうしようもなかった歴史の帰結を、パラレルワールドで得た手がかりを駆使して乗り越えることの快感は、他のゲームでは得られないでしょう。



それにしても、アトラス的にはこの作品をもう一つの柱として育てていくといったことらしいのですが、初作でこれだけ完成度の高いシナリオを出してしまって、後が続くんでしょうか?
変な心配をしてしまうくらい面白いゲームでした。女神転生とは違う意味で、本格的なファンタジーRPGですね。