「はてなアイデア」はスローフードになるべきだ

上記、昨日のエントリでは、沢山のコメント&トラックバック、またご参照をいただきありがとうございました。改めて読み返してみると、私の記事にはご指摘頂いたような色々な論理的破綻もあります。しかし、おかげさまで公選法に政治系ネット投票が引っかかる事があり得るという事の重大性と、ネット民主主義の議論ポイントが少しずつ分かり、大変に勉強させていただきました。未熟でもとにかく書いてみるものですね。書く事を恐れては何も始まりません。


なお、現在はCNETの記事にある通り、はてなの顧問弁護士さんと御相談中との事ですね。どのような判断がくだされるのでしょうか? 興味深くお待ちしています。リセットでも、中止でも、続行でも、その他でも、はてな全体の今後にとって適切な判断をお願いします。この場所で日記が書けなくなったら困りますので。


さて、改めて「はてなアイデア」という予測市場システムが生まれた背景を整理してみたいと思います。


元々、はてなという会社は人力検索サイトからスタートして、アンテナ、ダイアリー……などの面白いシステムを創っていきました。それで多くの不具合報告や要望を受けてチューニング&改築を重ねて色々して来たわけですが、要望系キーワード、日記のコメント&トラックバック、メール等で受けている事の猥雑さで限界がきたと。しかし、ユーザーズボイスは使っている人の声なので、web事業では何よりの宝の山。無視なんて出来るわけがありません。


そこで「予測市場」という有意義&便利そうな概念を活用してみようというアイデアが生まれたわけです。最初は1000ポイントを上限とする単なる投票システム、それがなじんで来た頃に仮想株の売買が出来るシステムへ脱皮。不具合・要望で「これは他の人も実装してほしいと思っているのではないか?」という風に、単なる個人のわがままではなくパブリックな視点を持つ要望を個別に収集→要望の高さで振い分け→進捗管理が1サイトで可能なような合理的なシステムになりました。
そこで、「はてな予測市場」をはてな以外の現実の問題……格好のテーマとして衆議院選挙……に使えないか? ということで「総選挙はてな」が始まったのでしょう。


総選挙はてなの是非は、法律問題への対応もあって微妙な問題なので、ここでは棚上げにします。それよりも、「そこまでしてスピーディな要望&進捗管理システムが必要になった背景」が今後のはてなにとってより重要な事のように思えて仕方が無いのです。


今回の総選挙はてなでは、リリース日の後すぐにお盆休みに入ったこと、法的問題やプログラム的な重要な不具合が見つかった事で以下のような要望が出てきました。

まあ、3つ目の要望はシャレのようですが。しかし、これらは実装するとかしないとかっていうような単純な話ではありません。それよりも、多くの要望に「振り回されて」いるはてなの現状を暗に指摘なさっているように思えます。


さらに、はてなが大事な事を忘れかけているという現状を、具体的に指摘してくださっている記事が星空を見上げすぎて足下の穴に落ちるな・足下の穴埋めを怠るな - モヒカンダイアリー「アップル通信」 - モヒカン族です。モヒカン族って何? という方も問題なく読めるので、ご一読下さい。
私はこれらを拝読して、昨年9月11日に参加させていただいた「はてな公聴会第1回」と、この2005年8月8日に参加させていただいたばかりの「はてなアイデアミーティング」を比較して考えることが出来ました。そういえば、「はてな公聴会第1回」から、ちょうどこの選挙投票日で1年になるのが象徴的に思えますね。


はてな公聴会第1回」では、はてなスタッフの皆さんや多くの先輩ユーザー諸氏のおかげで、ダイアリーのキーワードでどういう問題が起こっているのかを知る事ができ、時間をたっぷりかけて考えられたと思います。私自身はダイアリー歴が浅かったのであまり意見は言えませんでしたが、非常に勉強になり、はてなコミュニティが好きになったきっかけの一つでもありました。参加に当たっても予定が空いていて、その気のある人であれば10名まで参加できました。
また、分からない事はゆっくり質問できたのも良かったですね。さらに、キーワードの国語的意義など、国語に関して珍しい専門知識のある方でないと気がつかない細かな問題点もチェックされたりしました。言ってみれば、体全体を診て治す東洋医学とか、スローフード的なミーティングでした。全体視野を持って細かな問題を当たる余裕があったわけです。


はてなアイデアミーティング」の時*1は、たいていの方はお仕事中の時間帯、しかもSkypeでネット音声放送になるということもあって、最初から参加者に求められたハードルは高いものがあります。ネットに熱心な興味があり、いいたい事があるユーザーさんは社会的にもお忙しい事が多いと推察されますね。現在、合計3人しか参加者がいないのは多分その辺りに問題がありそうです。
また、ある程度議事は事前提示されるようになったというものの、自分が熱心に考えたいテーマと、それ以外のテーマでは言えることのレベルも異なります。私の場合は、はてなアンテナはてなRSSグリースモンキーなどについてはあまり言える事は無いでしょう。しかし、人力検索やダイアリーについては、色々考えている事があります。ですが、そのときにはてなアイデア的に取り上げられやすいテーマが使われるわけです。
それから、時間がないことのプレッシャーがユーザー参加者に与える心理的な問題は、かなり大きかったです。これは出てみないと分からないかもしれません。
さらに、議事が聞こえやすいかどうかがSkypeやマシンの調子に依存すること、専門的な事に対する質問のしにくさなど、議事進行以外の問題点は予想外で、公聴会とは雲泥の差でした。いわば、マクドナルドのようなファストフードのような印象でした。その時のご飯が済めば、そのバーガーの添加物がどうであろうと知らない、みたいな。薬を塗って悪く見えるところだけ適当に治れば終わりっていう西洋医学の対処療法みたいな。個別問題の検討が中心で、一つ一つの要望に隠れている全体的な問題点を当たるゆとりはあまり感じられなかったのです。


私が参加した時のアイデアミーティングでは、個人的にメインに考えていた「はてなアイデア*2のほか、「はてなアイデア」という面白い要望がありました。議決は「ダイアリーの補助ツールとしてのお絵かき機能は却下します。」との事でしたが、このとき、私は全体視野から見て「ユーザの方々は『共有できる文具』としてのはてなを求めているのではないか」という意見を言いました。新サービスの候補として考えるにしろ、何にしろ、共有できるお絵描き機能は、はてなフォトライフとは別の意味で検討課題に入れていただきたかったのです。こういう細かいニュアンスをすべて伝えきるのは、ファストフード的なミーティングでは非常に難しいです。これを希望した他のユーザの方も、必ずしも『ダイアリーの補助ツール』ではなくて構わなかったのではないでしょうか? あまり粘っていると他の検討課題が出来ないので、強く言えませんでしたが。ユーザにはてなスタッフと同じ速度での検討を求めるのはちょっと酷でした。


とまあ、ここまで書いてみて思い出したのですが、「「はてな」という変な会社 (2/2) - ITmedia NEWS」(2005/07/04)という記事で、近藤さんからこのようなお話がありました。

「情報をオープンにしなければ、自分が進む速度以上には進めない。でも、いったんネットに預けると、色々な人の力が加わって、一気に何倍にもなる。インターネットって、知能増殖装置みたいなところがあると思います」

 はてなのサービスは、ネット上の知識増殖装置――ユーザーのアイデア――に育てられてきた。「ユーザーさんからは、僕たちの想像力の何倍というものが返ってくる。ユーザーと社員も、あんまり分けないほうがいいかもしれない」


インターネットが知識増殖してくれるとか、ユーザーズボイス重視という観点は重要だと思いますが、最後のところで「ユーザーと社員も、あんまり分けないほうがいいかもしれない」というところに改めて疑問が出てきました。
その流れの帰結が「はてなアイデアミーティング」だったのでしょうが、社員に近いレベルの事をユーザに求められても困るのです。(理想としては分かるのですが)
webサービスを公開すること、はてなグリースモンキーはてなツールバーオープンソースプロジェクトとして共同開発することと、社員とユーザの区別問題は違うと思うのです。


はてなのユーザーズボイスとして掴んでおく肝って多分あると思います。それははてなアイデア進捗管理システム「あしか」のような、細かいアイデアのバラバラなカードから見えてくるモノでしょうか?


むしろ、すべてのアイデアを「マインドマップ*3的に並べて初めて見えてくる、アイデア&不具合報告の持つ「背景&文脈」*4の方がより重要なんじゃないかと思います。そこまで討議する余裕は、今のはてなアイデアにも朝のミーティングにも無いと思います。


色々と心配なので、d:id:jkondoさんとd:id:reikonさん、はてなアイデアミーティング司会のd:id:kiyoheroさんにリファを送らせていただきます。同じような事を色々な言葉で考えているユーザさんは多そうです。夏休みでリフレッシュした後のはてなには、大きな課題が待っています。次のアイデアミーティングがどうなりますでしょうか?


はてなには、新機能に振り回された十分なデバッグの無い製品を創っていて欲しくはないな……とまあ、そんな事を率直に思います。そういう良くない事例がPC業界のメインOSとして強制(?)されているだけに。
これ以上の新機能の鬼に走り出す前に、はてなアイデアをブラッシュアップして、一日全体の栄養を考えてゆっくりと食べるというスローフードとか、体全体を診て局所の症状ごと治療する東洋医学的な発想のデバッグシステムや、新アイデアの検討を個別でなく全体からの俯瞰が出来るようなものへと早期に確立して欲しいと思います。個々の問題点には、必ず背景や文脈があるので、そこを可視化&共有できるような要望進捗管理システムが出来れば、随分と安心できると思っています。

*1:ミーティング終了後の率直な感想は別日記で書きましたので良かったらごらんください。http://jinriki.g.hatena.ne.jp/Yuny/20050808/p1

*2:こちらの要望については、別日記で書いていますのでご参照下さい。http://jinriki.g.hatena.ne.jp/Yuny/20050806/p1

*3:マインドマップの詳細ははてなキーワードにもあります。一つの事から発想を放射的に書いていくノートの作り方ですが、今回は発想の方を葉に見立て、枝を付けていくという意味です。なお、はてな自身にこの記述方法が使えないかと、アイデアも出しています。はてなアイデア

*4:イデアの関連づけというアイデアもありますね。はてなアイデア