上を向いて歩こう 坂本九物語(テレビ東京)

坂本九没後20年ドラマスペシャル「上を向いて歩こう 坂本九物語」 : テレビ東京
このところ、日航123便墜落事故の検索もしていて、それもあって見た。
テレビ東京が受信できない地域は沢山あるので、是非全国ネットで再放送希望。


きゅうちゃん、と言われる存在が結構世間には多いけど(キュウリのキューちゃんとか、マラソンのQちゃんとか、おばけの……)
一番素直に泣かせてくれる存在といえば、「坂本九」ちゃんだろうなあ。


戦時中の生まれであることも、9人兄弟の末っ子だってことも、プレスリーに憧れて歌いはじめたってことも。全然知らなかった。
私は九ちゃんの世代じゃない。リアルタイムで彼の歌のヒットを目にした事は無い。
上を向いて歩こう」はある意味で吹奏楽経由で知った曲だったり*1明日があるさ」は例のCM、「見上げてごらん夜の星を」はコミック「二つのスピカ」(柳沼行 作/コミックフラッパー連載中)がきっかけだったりする。


でも、ドラマ中で流れた曲は結構知っていた。要は「坂本九」の楽曲がすでに世間にとけ込んでいて、当たり前のように耳にする事ができるがゆえに、私は歌い手を意識していなかったのだなあと。
そんな風に彼の歌が育っていったのも当然だったのだ。ドラマではその辺にいそうなお兄ちゃんが、暖かみのある歌を歌えたので、ヒットしていった過程がきちんと描かれていた。*2


つらい事があったら、もっとつらい人の為に歌おう。
苦しい事があったら、もっと苦しい人の為に歌おう。
寂しさを感じたら、もっと寂しい人の為に歌おう。


この気持ちで歌ったから、彼の歌は誰にでも受け入れられたのだろう。どこか、切ない。でも、とても暖かい。


上を向いて歩こう」の作曲作業は、何かのきっかけで「ポン」と浮かんで勢いで書き上げたという話を聞いた事がある。また、作詞も「つらくて泣きそうなことがあったら、上を向けば涙が流れない」という話を作詞者が聞いたからという話もあったみたいだ。
つまり、この曲は人間の気持ちに根ざしたメロディであり、歌詞であった。それをあの独特の節回しで歌った。天才的なひらめきが三乗したのだから、奇跡の結晶のようにも思われる。


いつも笑顔で歌っていたという九ちゃんだが、ドラマ中では時折ドッペルゲンガーが現れた。彼は九ちゃんの顔をしていて、彼の影の部分を象徴していた。元々不良だったのにどんどんいい子になっていって、それでいいのか? もともとはみっともない者だったのに売れていい気になってるんじゃないか? などという問いかけをしてくる。影を持って来たのは明るいばかりに見えた九ちゃん像にものすごい深みを与えたと思う。


『お前はそれでいいのか?』


この問いかけは、最後に羽田を発つときも出てくるのだ。九ちゃんがあの死の飛行機に乗った理由は、元マネージャーへの恩返しで彼の選挙に協力する為だったらしい。(ちょうど今も選挙シーズンだけど)コンサートがあってとか、何かイベントがあって、ではなく。


『そんな用事、本当は行きたくないんだろ?』


『飛行機に乗るな。きっと後悔するぞ!』


後悔は先に立たない……。もちろん事故は選挙や元マネージャーさんのせいなんかじゃないわけだけれど。


123便事故については、ドラマでは実際のニュース映像を使っていて臨場感があった。何しろ当時の事はあまり良く覚えが無いのでこれは分かりやすかったし、当時を知っている人は懐かしいと言うか、思いを深くしたことだろう。
最初の報道は「レーダーから機影が消えた」という事だったようだ。
それにしても、見つかった鞄の傷つき方、そして損傷がひどかったというご遺体。123便事故の現場をかいま見た思いだ。もしも九ちゃんが日常的にお稲荷さんのお守りを身につける習慣がなければ、身元確認はもっと時間が必要だったかもしれない。もっと遺体が傷んで、誰なのか分からなくなってしまったかもしれない。お稲荷さんは事故からは守ってくれなかったが、家族との絆は守ってくれたように私には見えた。


彼は空に散ってしまったが、彼は星になり、今も弱い人たちを見守ってくれているだろう。そしてまた、彼の歌は色々な人が歌い継いでいる。国境すらも超えて今も。

*1:マニアックかもしれないが大阪市音楽団がプレゼント用に出したCDに行進曲版「上を向いて歩こう」が入っていた。彼の曲と認識したのはこれが初めて。曲も歌詞も知っていたけど、自分の中で坂本九ちゃんとつながってなかった。

*2:山口達也さんの歌声は非常に九ちゃんと似ていて、レコードの吹き替え部分との違和感がそれほどは無かった。これは地味な事だけれど役者として素晴らしい事だったと思う。彼自身、シンガーでもあるので自分を出して歌ってしまえばこうはならないはず。