トロンボニストとして貴(たか)く跳べ!

吹奏楽団の演奏を観たことがあって、ちょっと注意深い人ならば、トロンボーンは大きさや形が個性的な割に、意外に「活躍しない」楽器だ、ということに気が付くかもしれません。


フルスコア、という物があります。
ある曲の全ての楽器の楽譜を書きまとめた物です。
これを見れば、どの楽器が、どのような音を演奏するのかが良く分かります。


さて、たいていはフルートやクラリネットに、メロディが廻ってきます。その間、トロンボーンは何をしているかと言うと……。
「ドミソー」「ドファラー」などと、和音を任されていることが非常に多いのです。
何の曲でもいいので、吹奏楽曲のスルスコアを見ることがあったら調べてみましょう。吹奏楽トロンボーンの楽譜が如何に「地味な」物であるかが良く分かります。


でも、ヒマじゃないのかい? と思ったあなた!
ちっがうんだな〜これが!


トロンボーン吹きがなんであんなになが〜くて、動かすのがたい〜へんな! スライドをシャカシャカしているかといえば!


かんっぺきな和音を創る! このためなんです!


少し専門的な話になりますが、純正律という音の響きの考え方があります。いろいろと説明できることがありますが(はてなキーワード純正律」を参照なさってもOK)ここで重視したいのは、ピアノのように、紋切り型で、全ての音の高さを12分割したような音では、きれいな和音を創れないということ。
実は、本当にきれいな音のためには、「ドミソ」の和音の「ミ」の音を、半音の100分の14くらい低く演奏しないといけないのですよ。
でも、色々な曲の中で、いつもミの音を担当するときだけ、半音の100分の14くらい音を下げるのは他の楽器ではとても大変です。しかし、トロンボーンは、スライドをちょっと(1cmくらいでしょうか)伸ばしてあげるだけで、それが出来てしまう。とっても便利!


だから、吹奏楽の中でのトロンボーンの役割は、和音にあり! なんです。そして、きれいな和音を創れるように音程を正しく練習しておくことは、トロンボーン奏者の重要な課題です。何しろスライドって、結構いい加減な代物なので、音を耳で聞いて、正しく出ているかを常に判断しなくては行けないのですから。


そう、和音がきれいに決まった時の喜びは、トロンボーンでメロディをきれいに奏でた時よりも大きいかもしれません。
メロディをきれいに奏でることは、どのパートでも出来ますが、純正律で和音を完璧にきれいに決めるのは、トロンボーンパートでしか事実上出来ないコトですからね。他の楽器よりも。


トロンボーン吹きは、個性的な人、奇人、変人が多いですが。
人を楽しませる盛り上げ役がまた多いのも事実。人助けが好きな人が多いのも事実。


トロンボーン吹きのプライドは、完璧なハーモニーにあり! メロディを引き立て、より美しく聴かせるハーモニーにあり!
そして、人を助けることが、トロンボーン吹きの誇りなのです。


トロンボニストとして、プライドを貴(たか)く。
スライドのすべては、他のパートのために。