【ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭】に行って来ました(1)

今年も「熱狂の日」に行って来ました。有楽町・東京国際フォーラム
2008年のテーマは「シューベルトとウィーン」だそうです。

プログラム【No.424】

【出演】
高木綾子:フルート
オーヴェルニュ室内管弦楽団
アリ・ヴァン・ベーク:指揮
【プログラム】
ロッシーニ:『弦楽のためのソナタ第1番』
サリエリ:『フルートと管弦楽のための室内小協奏曲 ト長調
シューベルト:『5つのドイツ舞曲D90

実は彼に歌曲の作曲法を教えたのはサリエリだったそうです。映画「アマデウス」ではモーツアルトを敵視していましたが、それは後年の伝記作家による創作だとか。
で、今回は名前は知られているけれど、めったに生で聴けないサリエリ作品を聴いてきたわけですよ。それとシューベルトと同時代の作曲家ロッシーニ、そしてシューベルト作品と。

このプログラムは普段演奏されない曲にスポットを当てていたようですね。ロッシーニの「弦楽のためのソナタ第1番」は、オペラ以外の曲が知られていない彼の器楽曲。ヴァイオリン2+チェロ+コントラバスという珍しい作品でした。しっかり作られている感じでしたが、12歳で書いたらしい……。うわ。
サリエリの「フルートと管弦楽のための室内小協奏曲 ト長調」はいかにも宮廷音楽な感じでした。なんというか、プロの作品だなあと。それにしても、踊れる3拍子ってやっぱり聴いていて楽しいですね。クルクルまわるまわる。
シューベルトの「5つのドイツ舞曲」は彼が16歳のときのもの。これもやはり踊りやすい感じでした。割とシンプルに作ってあるので聴きやすいです。

夕食タイム

熱狂の日」は地上の広場で、屋台の食事を楽しみながらの小演奏も楽しいものです。ピアノデュオを聴きながらハーブチキンをいただきました。かなり塩を効かせていて、これはビール向きだなあと。柑橘ジュースでいただきましたけれど。
ピアノはちょこちょこミスをしていましたが、そこはプロ、合わせるところは合わせてきっちり楽しませてくださいました。
それから、これは広場ではなく、B5ホールでの配布でしたが、世界初の缶ワイン「バロークス」の試飲会をやっていましたよ。スパークリング赤ワインをいただきました。濃くて渋めで、でも飲みやすくておいしい。これ、長距離列車の車内販売(新幹線や、小田急ロマンスカーとか、西武のレッドアローとか)で出したら結構売れるんじゃないかな。ああいうときってチューハイかビールって決まっているようですが、ワインを飲みたいときもあるでしょう。

映画「ノットゥルノ」Notturno(1988年、オーストリア・フランス作品、ドイツ語)

シューベルトを扱った映画といえば、「未完成交響楽」でしょうけれども、今回は日本で見られるのは珍しい「ノットゥルノ」を鑑賞してこられました。上映時間3時間51分(第1部100分、第2部131分)の大作です。それもシューベルトの「生涯」=生まれてから亡くなられるまで=ではなく、彼が悩まされた梅毒発病、それから亡くなられた原因であるチフスに起因する精神障害にスポットを当てて赤裸々に描いていました。


夜7時から開映して11時10分に終わる長丁場(休憩あり)。開映に先立ってお話がありましたが、今回のこの上映は、「熱狂の日」提唱者のルネ・マルタンさんが「この映画を入れなければ、そもそも今回のイベントの意味は無い!」とまで言い切ったそうです。実のところ、ラ・フォル・ジュルネ 2008 公式ガイドブックには、この映画の紹介(P.27)はあるものの、映画上映のスケジュール(P.64)には書かれませんでしたし。結構ギリギリに決まった可能性があります。


ドイツ語、字幕なし、の映画を見るのは初めてでしたが、音楽が中心となる映画なら、解説書を読めば何とかなるものだなあと。会場でA4両面印刷の解説書をいただけて、結構詳しく書いてあって助かりました。

第1部「愛の偽り」

1824年のウィーンから映画は始まりました。最初っから「こんなシューベルト、見たことが無い」と思ったのは、梅毒治療の病院でいきなり髪がどんどん抜けていってしまって、ウィッグ頼りになる彼。ものすごく怖かったです。
当時のウィーンの生活描写も興味深いものがありました。こんなに土ぼこりだらけで、生活感があって、かつ、音楽であふれている……。そして、ろうそくの光の心もとなさも。雨の冷たさも。
便利さになれてしまった21世紀の自分には、この厳しさが痛々しく感じられました。
シューベルトのさみしさ、恋をしても実らない、埋まらない感じは、額縁の中の聖人のように思っていた人が突然人間としてせまってきたようでした。それは彼の父に対しても受け入れてもらえなかったこともあり……。
多少コミカルなシーンもありましたが、やはり、彼自身の中に何か必要なものが欠けている感じ、そしてそれを埋めるためなのか、一人暮らしができる家を借りて作曲をできるようにしたラストシーンは、彼の親友ショーバーの家からのアングルで立体的に描写されていて、友人宅の近くでしっかりやれそうで良かった、と思いつつ。

第2部「冬の旅」

シューベルトの最晩年を描いた作品です。シューベルトは兄であるフェルディナンドの家に引っ越し、異母兄弟の女性であるヨーゼファと同居することになりました。
窓越しに見えるギリシャ人女性に恋をしても、思いは実らず。昔のシューベルティアーデで花火が上がった華やかさと、当時の恋愛も遊びに終わってしまい……。そしてヨーゼファとのラブシーンの熱い物悲しさ……。
彼の名曲、「菩提樹」のやさしい悲しさは、こういう心の痛みの産物なのかもしれないです。
そして、ラストの20分くらいが、ついに病気(腸チフス)によって精神に異常をきたしてしまった彼を描くもので。ひげを自分でキチンと剃れない、クリーム付けっぱなしでも気が付かずにちゃんとしたつもりで外出しようとする、しかし家族が彼の部屋に鍵をかけていて出られない。キリスト教信者は亡くなられる前に神父さんから終油の秘蹟(儀式)を受けますが、彼はベッドの上で暴れ、大声で歌って抵抗して亡くなっていきました。


こんな痛々しいシューベルトは初めてでした。
そして、あんなになるまで物を創りたいと思えるかどうか、自分に問い続けています。
この映画が日本でレンタルできないのが残念です。字幕がない分、かえって役者さんの表情に集中していて、いつもの映画より緊張してみていましたが……。やっぱり字幕もあったほうがいいかもしれません。できるならば。
ただ、今後も「熱狂の日」で知られていない音楽映画を見せていただけるなら、字幕は無くてもいいと思いました(今回同様に詳しい解説書は欲しいですが)。