「東京純心女子大学クリスマスコンサート」を聴いてきた

母校の学生たちによる、クリスマスコンサートに行ってきました。在学中の思い出も交えつつ、簡単なレポートを書いてみたいと思います。


聖母マリアを範とするカトリック大学なので、クリスマスには公式にさまざまなお祝いをします。パーティ的な『クリスマスの集い』、地域の子どもたちを招いて楽しむ『こどもの国のクリスマス』という、割合に学内イベント色の強いものもあります。また、教育修道会が母体となっている大学なので、12月24日の修道院チャペルではクリスマスミサが行われ、こちらもシスターだけではなく、地域の方々や付属中高生徒・大学の学生たち(信者でなくてもよい)らとともに祈りのひとときをすごします。


そして、どなた様も入場無料のコンサートとしておこなう『東京純心女子大学クリスマスコンサート』(以下、クリコン)は、もっとも盛大なものなのです。私にとっても、大学4年生のときのクリコンが一番思い出深いイベントでした。「これでファイナル・クリコンだ!」という想い。あれはかけがえのないものでしたから。あの頃のように、一般のお客様もたくさん来てくださっていて満席でした。


コンサート冒頭では、クリスマスの由来を伝え平和を祈る口上がありました。私たちのころにはなかったので、いつの間にか付け加わったのでしょう。純心イズムといいますか、この学校らしさは健在で非常にうれしかったのです。


伝統として、クリコンでは在学生によるグレゴリオ聖歌が披露されます。
カトリックの大学とはいえ、必ずしも洗礼を受けたり、ミサに参加したりする必要はありません(そもそも宗教は強制されるものではありません)。ただ、この広い世界にはカトリックという概念があり、長い歴史と伝統があり、文化があります。その独特の美術を学ぶこと、そして音楽を歌ってみるなどにより各学生なりに理解を深めることは、とても意義深いことでしょう。
グレゴリオ聖歌は歌詞がラテン語で書かれていて、楽譜は五線譜ではなく四線譜です。ですから、グレゴリオ聖歌についての授業を履修すると、ラテン語の辞書の使い方から独特な楽譜の読み方までも習えます。そして、歌詞の意味、背景となっているカトリックの思想についても考えてみるわけです*1。かといって、この授業は堅苦しいということはありませんでした(だいたい、堅苦しくて小難しいことを、何年も「よき思い出」として覚えていられるでしょうか!)。時には笑いもあったりしながら(先生が率先して「ホッホッホッホ」とお笑いになられるのですよ)、楽しく学んだ印象があります。
大学時代に聖歌を数曲、ラテン語で学んでみたことは、確かに、直接的にお金になるスキルであるとか、そういうことではないかもしれません。でも、ヨーロッパ言語の源流は、祈りを表わすための言語でもあったことを識(し)ったことは、今でも私の心に根を張っていると思います。今は世界が争いあっているけれど……言葉はそのためだけのものではないはずです。


閑話休題
そんな思い出もあるグレゴリオ聖歌を4曲。伴奏はなく、いわゆるア・カペラによる斉唱です。グレゴリオ聖歌は特に何調というものも決まっているわけではなく、歌い手により最初の音の高さが決められ、そこからの音程の高低で旋律をつむぎます。先生の指揮もタクト(指揮棒)はありません。調律も小型キーボードで冒頭数音が鳴らされるだけ。交響曲などに比べたら本当にシンプルなつくりの音楽です。しかし、シンプルだからこそ、日本人の学生でも心をこめて歌うことができます。非常に懐かしく、暖かいものでした。


続いては、音楽を専攻する学生により、パイプオルガンでJ.S.バッハ作曲の『ヴィヴァルディによるオルガン協奏曲 イ短調 BWV593』が演奏されました。すっくりと誇りを持って立つ、その立ち姿が絵になる学生さんが、多少未熟さもあるものの格調あるバッハを聴かせてくれました。闘った痕跡が垣間見え、学生らしいなあと思い、たくさんの拍手を贈らせていただきました。
ところで、オルガンについては専門実技の授業が選択でき、オルガン曲を自分で作ってしまうくらいこの楽器を愛する名物先生*2により、みっちりと叩き込まれます。学園講堂にはコンサートタイプの本格的な楽器がありますし、校舎内にも練習用のオルガンが何台もあります。多少、ピアノが弾けるなら*3パイプオルガンをやってみたい学生さんには非常に良い環境なのではないでしょうか。オルガニストの重要なお仕事である、ミサでの伴奏をする機会もあるので。*4


次は声楽。もちろんこれも専門実技の授業が選択できるわけです。
まずは二重唱+チェンバロ+弦楽アンサンブル*5でヴィヴァルディ作曲の『神を讃えん』が歌われました。それからソプラノ独唱+弦楽アンサンブルによるモーツァルト作曲の『アレルヤ』でした。
そうそう、チェンバロも学内に数台あって習えます。ピアノと違って、弦を弾(はじ)く繊細な響きは今でも私のお気に入りです。ピアノは弦をハンマーで叩く楽器なので、チェンバロよりは音が「張る」感じがしますね。両方、趣深い楽器です。
2曲とも、まだまだ伸びしろを感じさせました。これからもしっかり取り組んでください。


次は学生作曲作品が歌われました。今回は合唱曲が2曲も作られたようです。1曲は伴奏なし(ア・カペラ)。1曲は伴奏ありのもの。作曲の授業も選択できるんですよ。*6
1曲目は、雨をテーマにした曲でした。伴奏がないと多少音程が不安定になりがちなので、技術的な観点からすればやはりあったほうが歌いやすいようでした。しかし、ア・カペラならではの響きの美しさ、歌詞の伝わりやすさ、そして女声低音パートの使い方(スキャットの一種でしょうか?)の面白さが非常に良かったです。
2曲目は、ピアノ伴奏のおかげもあり、音程とビート感が安定しました。クリスマスをテーマにしたもので、カレンダーを表現することでこの季節への移り変わりを伝える歌詞は生き生きとしていました。そして広く平和を祈る終盤は、聴いていて自然に涙が出てきました。
作曲を楽しんでいるのが良く分かりました。これからもいいアイデアが浮かび、形になっていくことをお祈りいたします。


次はソプラノ独唱+ピアノ伴奏でO.レスピーギ作曲の『舞踏への誘い』。レスピーギって『ローマ三部作』のあの作曲家さんですね。管弦楽やアレンジ版の吹奏楽で有名ですが、声楽曲も書いていたんですね。リズム的にも旋律的にもかなり難しい曲(特に高音域が)だと思うのですが、歌いきってしまいましたねえ……。その努力に乾杯です。


次はピアノ独奏でF.リスト作曲の『3つの舞踏会用練習曲第1番 変イ長調「悲しみ」』。緊張のせいか多少不安定さもありましたが、弾ききること、そして伝えることがまず大前提。その意気を強く感じました。まだまだ手が届かない領域のことは、きっと練習量が補ってくれると思います。おしいところが結構あったので……。これからもピアノを愛してください。この楽器を弾ける人ってやっぱりうらやましいです。自分ひとりで伴奏も旋律も全てコントロールして名曲の数々に挑戦できるのが。私自身には、トロンボーンが「それ」に値する楽器ではありますが、伴奏も旋律も一人でっていうわけにはいきませんからねぇ。


さて……先ほど書きました名物先生の作曲によるオルガン作品がやってまいりました。酒井多賀志作曲の『高田三郎作曲 典礼聖歌 「谷川の水を求めて」による前奏曲とフーガ Op.36』です。この、キリスト教をテーマにした曲を、今回はシスターでもある学生さんが演奏してくれました。*7
で。シスターがパイプオルガンの曲を弾かれるとき、あの修道服でも弾けちゃうのかなあ、と私なんぞは思ってしまうのです。とくにかの名物先生の手になる曲は、たいてい足鍵盤の動きもハンパじゃないので。祈りに満ちていてもおとなしい曲ではなく……むしろ暴れ馬(失礼!)というか。激しい祈りっていうイメージが強いので。……心配は無用でした。きっと、シスター服ならではのコツがあるのでしょう。(スラックスタイプの服装のほうが弾きやすそうではありますが。バッハを披露した学生さんはスラックスでしたし)。最初のほうは緊張からかミスもなくはなかったのですが、後半になるにつれて、だんだん熱く貴い情熱的な祈りを感じさせました。


休憩時間には、在学中の思い出にしばし浸っていました。いつもステージ上にいるのが当たり前だったし、この学園講堂のセッティングは学生時代にはある程度こなしていたので(特に裏の音響関係)、客席にいる自分が不思議でした。


休憩明け。オーケストラ部に弦楽アンサンブルメンバーを加えた演奏は、パッヘルベル作曲『カノン』とヘンデル作曲『もろびとこぞりて幻想曲』でした。弦楽器の授業はないのですが、クラブはあります。*8弦楽器は確かに難しい楽器ですし、ある程度までは練習量がモノをいうので、もっともっと練習してほしいと思いました。後輩の皆さん、楽器は君たちがもっとうまくなるのを待ってくれていると思いますよ。


次は、ピアノ独奏+弦楽アンサンブルで、ベートーヴェンのピアノコンチェルトでした。オケパートをアレンジしつつ弦楽アンサンブルが担当し、ピアノソロを演奏していたようです。これが今回もっとも盛り上がった演奏だったと思います。ちょっと長い前奏に続いて、ピアノパートの導入部はちょっとつまづきもありましたし、最初のうちはビート感に危ういものも感じてしまいましたが、だんだん中盤に向かっていくにつれて、ステージ上でだんだんうまくなっていくのが、客席でも分かるんです。若い学生のうちは、突然伸びる瞬間があるものですが、彼女の場合はそれがステージ上だった! 終盤はもう別人のようでした。彼女への拍手はひときわ盛大で、アンコールも出ました。コンサートの性格上、いわゆる「もう一曲」はないのはみんな分かっていることですが、答礼をもって応えてくれました。面白かった。場数を踏んでの今後の成長にも期待します! 


最後を飾るのは大学合唱団。毎年のことながら華がありかつ荘重でした。特に、今年は世界合唱連合制定の「世界合唱の日」に開催だったそうで、その参加声明もおこなわれました。現代は、戦争や不況などで、世界史的に見ても大変厳しい時代です。しかし、だからこそ歌の力を信じたいと私も思います。後輩たちの歌声が私の心を元気にしてくれたように、世界中に平和がありますように。曲はF.メンデルスゾーン作曲『3つのモテット 作品39』。クリスマスにふさわしく、神を讃える美しい作品でした。
そして、締めとして、毎年のことながら「きよし、このよる」の歌詞でおなじみ『聖夜』を会場全体で合唱しました。毎年、この合唱が一番好きです。



ああ、やっぱりこの学校を卒業してよかったなァ。



在校生のみなさん、教職員の皆様、そして何よりクリコンを聴きにきてくださったたくさんのみなさん。本当にありがとうございました。
在校生の皆さんには、小さい大学だからこそ、これからもしっかりと学び、笑い合い、大きく強く成長してほしいと心から願っています。

*1:今は多少カリキュラムが変更になっているかもしれませんが、教えておられる先生が私のころと同じなので、基本的には同じようなことを学んでいるでしょう。

*2:オルガンの世界では自作曲を自演するプレイヤーがあまりいないのだそうです。たいていはクラシックな作品……バッハの曲などを追求したりしているようです。もちろん、先生のバッハも……いろいろとすごい、です。卒業してもどう書いていいか未だに分からないくらいすごい。CDを聴いていてもドキドキしてしまいます。ましてや在学中に時々耳にできる生演奏は……。

*3:私は鍵盤楽器の実技を選択しなかったのでうろ覚えですが、在学中の記憶では、たしかバッハの何かの曲……タイトルを忘れてしまいましたが……が弾けること、という履修条件のようなものがあったような気がします。まあ、鍵盤が2列も3列もあって足でも弾く、あれだけ複雑な楽器ですから、ある程度の鍵盤楽器経験は必要なんでしょうね。

*4:ときどき行われる学内ミニチャペルのミサで、友達が弾いてくれたのを覚えています。その人は卒業してからも教会で伴奏をしているようです。いい仕事をしているようで評判もいいらしい。

*5:弦楽器の実技はないので、プロの演奏者により5人のアンサンブルで演奏されます。それ以外の楽器、たとえばピアノなどは学生が演奏します。

*6:そういえば私も履修していて、リコーダーと打楽器による謎の器楽アンサンブル作品を書いていましたが……。

*7:こういう学校なので、年度によってはシスター(修道女)の方が勉強のために通学していることがあるんです。毎年一人はいる、というほどでもないのですが、そう珍しいことでもないくらいには。私の在学中には美術の勉強に来ている後輩がいましたから。彼女はお元気かなあ……。

*8:少人数の学校なので室内楽的ですが。管楽器が少なく、弦が多いのも自分がこの部でやっていたころと変わっていません。