福島県の、吹奏楽部の状況が総括レポートされました

福島県吹奏楽連盟サイトトップにある、「2012. 5. 2 東京電力?福島第一原子力発電所事故からの復興について(PDF)。」で、福島県吹連加盟団体の状況が総括的にレポートされていました。執筆は福島県吹奏楽連盟の理事長を務められている根本直人先生*1です。


私は、2009年夏に高校の県大会を観戦させていただいて、そのレベルの高さに驚かされたので、福島県吹奏楽メイツ諸君はいったいどうしているのかな、って、何となく心配にはなっていましたが。

いやあ、あれはホントに驚いた……。
それだけに、レポートを読んで、考えさせられました。


私が中学時代の頃からすでに全国レベルで有名だった原町一中(南相馬市の市立中学)などはどうしているか。レポートによれば「東京電力福島第一原子力発電所原子力事故に伴い、避難した学校 ※原子力発電所の30km以上の計画的避難区域」として分類されていて、「現在は学校に戻るが生徒は激減」とのこと、また「原町第一中学校は、鹿島小学校の体育館に避難して、吹奏楽部の練習は、会場を転々して活動」しているそうです。


う〜む。
吹奏楽経験者なら分かると思うのですが。
吹奏楽って、とても楽しいわけです。
震災で大変な思いをしているなら、なおさら、心の支えになるはずです(断言。私自身、失業後の社会復帰のきっかけは吹奏楽で心の希望を見つけたことでしたし)。


でも、部員が沢山必要です。生徒さんが減ってしまって、全国各地に避難している状況では、なかなか難しいものがあるのでは...。
レポートには、合同バンドを運営するとしても、バスなどの交通確保の難しさが記されていました。


それに、楽器はお金がかかります。楽器本体というハードウェアだけではなく、木管楽器ならリードを替えたり検査してもらったりもありますし、打楽器ならヘッドの交換などもありますし。コントラバスは弓、弦、松やにとか。まあ、私自身がやってる金管楽器の場合は1回買ってしまえば比較的お金がかかりませんけど(注油と調整はかなりの部分が自分でできますし、リップリードなのでリード買わなくて良いし)。
たとえば、フルートは十万円クラス〜200万円とかのもありますし(銀製など)。
オーボエは楽器本体もそれなりに高いですが、何よりリードが1本4千円とかしますし。リードは消耗品なので、良いリードに当たっても結局は交換しなければなりませんし。
それから、演奏会場への運搬費、場合によっては宿泊費なども。指揮やコーチをプロに頼んでいればその謝礼なども。


また、音を出しても迷惑がかからず、音響もそれほど悪くはない練習場所(パート練習、分奏練習、合奏練習)の確保。学校の教室をいくつかと体育館が使えればかなり助かるわけですが、どこかの施設や学校を間借りして授業をしていればなかなか難しいでしょうし。レポートには原町第二中学校が体育館を仕切って授業している様子がありました。
外で吹いても割と大丈夫な楽器と、外はできるだけ避けた方が良い楽器もあります。ですから、単純に野外練習すればよい、という話ではありません。バネの隙間にホコリが入ってしまったり、直射日光が当たると、厄介なことになる場合も多いのです。余談ですが、甲子園の全国高校野球大会で吹奏楽部がよく演奏していますが、あれは終わってからのメンテナンスが大変なことになっているはずです。聞いた話では、甲子園常連レベルの野球部がある学校では、吹奏楽部には野外演奏用の楽器を別に用意してある場合もあるとか……。


たとえ、校舎が地震津波に負けず、音楽室の楽器は残っていて、幸いにも部員や先生方みなさんも、ともかく無事だったとしても*2
今回はただの地震津波ではありません。原発事故があります。このレポートには放射能汚染という見えない被災で立ち入れず、愛用の楽器を取りに帰れない学校が12校とリストアップされています。原子力発電所から半径20km以内の警戒区域にあれば、いまだに取りに行けないそうです。

もちろん、普段の活動だけではなく、演奏会やコンクールなどの発表の場も必要です。
最終的な目標が大切ですから。
ホールが被災したり、警戒区域内にあったりしていれば、大変なわけで……。


そんな中、昨年度の8月には佐渡裕先生が指揮するシエナ・ウィンドオーケストラがクリニックを含めた演奏活動をしたり、12月に南相馬市でのアンサンブルコンテスト支部大会開催、1月末の『相双バンドフェスティバル』では相双地区の各学校や緊急時避難準備区域の南相馬地区の合同バンドに加え、東北のn響こと名取交響吹奏楽団、また相馬東高校などと合同コンサートができたり...、ひとつひとつ進めているようです。
こうしたイベントの開催、運営には、吹奏楽部の生徒さんが一生懸命練習するのはもちろんのこと、多くのオトナがスタッフとして必要になりますよね。
福島県吹奏楽熱、その親心が、かいま見られる気がしました。


警戒区域から解除されたところが少し出てきているようですが。
除染が終わらなければなりません。
まだ先は長い……。
勉強や生活だけではなく、こうした部活動まで戻るのには……。
でも、吹奏楽が好きな生徒さん、先生方、親御さんや地域のみなさんは、本当に努力なさっています。


あの原発で生まれた電力は、福島県民のためではなく、東京を始めとした首都圏のヒトのためのものでした。
それだけに、良く考えなければならないと思いました。

*1:今回のレポートを執筆なさった根本先生は、私が観戦した2009年夏の県大会では、県立磐城高校を指揮してゴールド金賞(代表)を受賞しておられました。熱血演奏は今でも覚えています。

*2:無論、楽器どころの話ではなく、学校や生徒さん自身が被災してしまった事例もあるようですし、行方不明になった楽器もあるでしょう。レポートには、コンクールなどの大会参加ができなくなってしまった学校もリストアップされています。