東洋の魔女 完全版

正月、多忙だったため録画していた上記番組をようやく見ることが出来ました。
東京五輪、伝説の試合、女子バレーボール。日本代表 対 ソビエト連邦代表戦。それをすべて放送しました。
試合そのものは今見ていても大変面白く、スポーツとしての原点のような物を感じさせられたと思います。
むしろ、よけいな演出ばかり入った現在のバレーボールが失ったものが、モノクロ画面の向こうから伝わって来た感さえありました。
ネットをはさみ、ボールを通じたガチンコのぶつかり合い。
決勝に上がるまで、共に土付かずできた両チーム。特に、ソ連代表は1セットすら落としていません。
だからこそ、最強の守備とサービステクニック、チームワークで粘る日本代表には、いつもの調子でポイントを連取できず、リズムを崩されたのかもしれません。
特に当時は、サーブ権を取ってからもう一発を決めないとポイントが入らないルールだったため、2連続ヒットしないと1点にならないわけで。一発取ったところで取り返されると点にならずです。その意味で、日本が粘りで圧倒したという感じがしました。一瞬負けても、流れそのものを持っていかせなかった。ソ連代表が力で叩いてくるところを、日本は粘りの守備でしのぎ、サーブ権を得たら変化球サーブで思ったようには受けさせない。トスが乱れてしまえば、せっかくの強烈アタックも生かすことが出来ません。
だから、1セット目、2セット目はかなり圧倒したのでしょう。
3セット目も流れそのものは日本にありましたが、マッチポイント直前でかなりもたつきました。
たぶん、精神的な重圧がかかったのではないかと。
というのも……私は自由演奏会で一度、当試合会場だった駒沢の体育館のフロアに降りたことがあるのですが、廻りから見おろされる雰囲気があるんですよね、あの場所は。
客席がたくさんあって、上から注目される。その雰囲気、そのプレッシャー。
たしかに、日本代表にとっては、完全ホームゲームではありました。
しかし、だからこそ、「勝って当たり前」というのが、この終盤に来て心にずしりと落ちてきたのではないかと。
実際、普通にプレイしていたら難なくつないでいたはずのボールを落としている場面がありました。ボールが一瞬、心理的に誰にも見えなくなったか、コミュニケーションの問題が一瞬発生したか。もしかしたらあれを受けて自分がミスしたらどうしようみたいな……弱い気持ちになったのかもしれない。言うまでもなく、バレーボールはチーム競技です。誰かひとりが突出してうまくても、それだけでは勝てません。
誰が受けて、誰が上げて、誰がアタックするか、綿密に練習したチームワークで戦っていくしかありません。
誰かが受けてくれなければ、アタックも出来ない。
どんなにからだと技を鍛え上げても、メンタル部分では本当に何があるか分からない物ですね。強い心を持って試合をすることは、あの魔女たちを持ってさえ究極の状況では難しいことだったのでしょう。だからでしょうか、あの1プレイのミス直後、すぐにタイムアウトを大松監督は取り、選手たちを落ち着かせる好判断。
……結局、最終的にはソ連代表のミスがあって、勝利することが出来ました。
今、録画の録画で見て面白かったので、中継当時は大変な騒ぎになったでしょうね。
今の試合では当たり前な、勝利チーム監督への試合直後インタビューも、実はこの試合で初めてNHKが実施したとのこと。当時、試合後の記者会見に放送メディアは入れず、新聞メディアが優先だったそうです。ですが、前例はなかったですが監督にマイクを向けられたのだそうです。なんか、試合直後の混雑を縫ってインタビューを敢行することが、急遽、前日になって決まったとかで。これは、放送メディアのひとつの進歩、快挙であったことでしょう。


私は、何でも根性で解決するような、押し付けるような根性論は好きではありません。おしつけではなく自主的に練習しなければ、結局、どんなスポーツでも吹奏楽でもうまくなんかなれっこ無いです。自分がうまくなりたいと思うから、実際に上達できるんです。
実際、あの回転レシーブも、ボールを受けてすぐに立ち上がるために必要だったから、研究の末に開発されたテクニックだった訳で、当時なりのスポーツ理論で理由があってうまれたもの。変化球のサーブだって、選手たちが勝つために何が必要か、一人一人でしっかり研究して生まれたもの。
自発的に勝ちたいと思った人たちが、研究と練習の末に生み出したものが、世界に通用した。
ただ、今の時代はどのスポーツも高度に情報化されています。ひとつの戦術だけではすぐに研究されて弱点が見いだされてしまいます。どうやったら勝てるのか、東京五輪の頃のようなシンプルな形では、そうそう成すことができなくなってはいます。
そういう時代ではありますが、うまくなるために何が必要なのか、勝って当たり前のような状況でさえきちんと勝ちきるには何が必要なのか。たぶん、スポーツ選手なら、あの1戦から読み取れる物があるのでは……現代でも。モノクロ画面でも会場の異常な空気、重圧感は分かりますから……。
未来の日本代表(スポーツ問わず)に伝わってくる物が、きっといくつもあったことと思います。
年始の長時間特番が組みやすい時期でないと、こういう放送は多分難しかったでしょうね。NHKの快挙でした。