こんなに他人目線の

毎月1日は、映画館の割引が盛んな日です。
そこで、何か見ようと思って探してみて……映画『関心領域 The Zone of Interest』を見てきました。こんなシチュエーション、見たことがないと思ったのです。
第二次世界大戦中のドイツに、それはそれは理想的で平和なご家庭があった……というお話です。
そのご家庭は、日本の庭付き一戸建てなんてレベルじゃないです。花が咲き誇る広い庭、家庭菜園、さらに広い温室、子ども用プール、家の中にもお部屋が何室もある。犬を飼っていたり、メイドさんもいたりする。元気な子どもたちを育てるやり手のお母さん。お父さんもかなり偉い人らしい。近くには川が流れており、夏場はカヌー遊びや釣りもできる。
ただ、この家の塀の向こう……お隣の施設はあのアウシュビッツ収容所だった……という、うそのようなお話。
彼らは史実として本当に居たみたいですし、彼らの家も本当にあったらしいです。つまり、実話を元にしたストーリー……らしい。細かい展開まで一緒かどうかはわかりませんが、収容所の近くの良い庭のある家に所長一家が住んでいたのはどうやら本当らしいんですね。映画のパンフとか読む限りでは。
アウシュビッツ強制収容所
私は人類史上最悪の汚点のひとつだと思っていますが、もちろんそこで働いている人もいたんだ……というのが本作での最初の気づきでした。そして、その人にご家族がおられたことも。
作中の会話から、この家が建つ前はただの平地だったそうで、3年掛けて理想的な空間に育て上げたのは奥様の手腕。旦那様の職業は、隣の収容所の所長さん。彼も収容所の建設や運営に当たっては相当デキる人だったらしい。
そう。あの収容所の中で行われている恐ろしいことは、彼らにとってはメシのタネ、ビジネス(作中でわざわざそういう言い方してませんけど、肌感覚でわかります)。
いかに効率的にたくさん焼いて(要は殺して)処分するか、とか。
収容作業で得た(要は奪った)すてきなお洋服を山分けしたり……とか。
いわゆる囚人って、言わずもがなですが……ユダヤ人の皆さんなんですけどね。彼らの姿はほとんど描かれません。でも、殺したり奪い取ったりしているのですよ。そんな野蛮にはとても見えなくて、みなさん、極めて人間的で文明的な生活を謳歌されています。
子どもたちは小さな人形で戦争ごっこしたり(妙に人事がリアルだった)、ヒトの歯(え?)をおもちゃにしたり、川遊び(流れて来たものでパニックに……)とかでのびのび過ごしています。学校にも通っています。
なんか、あまりにも徹底的に日常系な描写が続くので、隣の施設の存在を忘れそうになりますけど。会話の端々や、外から聞こえてくる様々な音、隣の建物の煙突の煙、外をよく通る軍人さん……などなど、隣は間違いなく最悪の軍事施設。とくに音に関しては相当気を遣って作られたようでした。あんな怖い音響ってない。
はたから見て天国すぎて、でも、間違いなくそばに地獄があって。視聴感覚がおかしくなりそうでした。作中、良い家だからと呼び寄せられた奥さんのお母さんがそっといなくなったのは、やはり同じような感覚に陥ったのでしょうか?
そんなある日、軍から旦那様に人事異動の命令が出されて……。
あとはネタバレになるので割愛しますが、この作品、テレビやDVD、ブルーレイでは伝わらないと思います。この奇妙な生活での、生活音そのものの音響、それが大事なので。映画館が本当におすすめです。
今もウクライナとロシアなど、戦争は起きています。でも、日本人の私としてはやっぱりどこか他人事というか。
それって、この家族と何が違うのだろう?
災害もそうですよね。日本は災害大国ですが…どこまで自分ごとにしているでしょうか?
アウシュビッツ強制収容所を、こんなに他人目線で描いた映画は初めてでした。
ホラー映画じゃないのに怖かった。
興味のある方はぜひ、お早めにシアターへ!