悪魔は誰だったのかな?

松岡圭祐さんの千里眼シリーズ。角川文庫での新シリーズも、ついに第9話になりました。出版社を変えたのはついこの間だったような気がするんですが、だいたい2ヶ月〜4ヶ月に1回は出しているので……。読者を待たせず面白い作品を出す! うーん、すごいなあ。
さて、『優しい悪魔』って誰のことなんでしょうね? というのが、読む前に思った疑問です。真っ先に思ったのが、あのグレート・ダビデですが……。読み進めて行くと、どうも美由紀ちゃんもそうだし、ある意味でジェニファーもノン=クオリアの連中もそうなのかもって思えて来ました。
ダビデは、まあ「メフィスト(=悪魔)」って名前の組織のトップメンバーですし、美由紀ちゃんに対する態度は妙に優しかったりするし。でも、仕事ぶりは冷酷なんだろうなあとか思っていたので……。
美由紀ちゃんは天下無敵の臨床心理士ですが、ある人に対して優しく対する一方で、そのだれかを護るためには冷酷な手段を取らざるを得ないことも多々あったりして……。だれかに対しては天使でも、だれかに対しては悪魔にならざるを得ない……。
ジェニファーはもともとこういう商売をするべきじゃなかったのかもしれません。本書ではそれが良く分かります。
そして、ノン=クオリアの連中は、まあ、有り体に言って殺人集団ではあるのですが、人間性だけでは解決できないことを機械にやらせる*1というのは、現代文明の特性であり、問題点でもあるのです。でも、人間そのものを否定しているところが悪魔的ではあります。
素直に読み取れば、ダビデなんでしょうけれどね。


それにしても、このシリーズは単に痛快だったり、心理学の知識が深まったり、トリビアが増えたりするだけではなく……いろいろと考えさせられます。
人を殺めてまでやらなくてはならないことがこの世に存在するとは認めたくはありませんが、ある犯罪の被害者になったときに、加害者の存在が世から消えて初めて安堵できることがあるのは事実です。それが、自分の感覚では同情も理解も不可能な相手だったらなおさらでしょう。裁判員制度が導入されつつある今、刑罰をどのように考えるかは、ひとりひとりの問題でもあります。
そして、本書の大事件を通じて、いよいよ新しい相手との闘いが始まってしまう訳ですが……美由紀ちゃんが気の毒である一方で、闘争は彼女自身がどこかで望んだ事態ではないか、という疑念もあり……。一応、そのあたりについて、今回はダビデを通して説明と決着が付きましたが、これが最終的な答えだとも思えず。
つまりは、さっさと読み終わってしまったのが残念で、続きが読みたいです、ということなのでした(苦笑)。あー、作者の罠にハマってるなー!


ちなみに、次回作はクラシックシリーズの5&6。『千里眼の瞳』と『マジシャンの少女』のそれぞれ完全版だそうです。
11月25日が今から待ち遠しい!


そうそう、下巻236ページの5行目! 思いっきり吹き出してしまいましたが(ああ、決着のシリアスなシーンなのに……!)もしかして新潮文庫から今月出た

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

を暗示してません……かね? 微妙にネットスラングを噛ませているところも笑えました。深読みかなあ?

*1:余談ですが、某有名検索エンジン会社の最近の姿勢にこういう色合いを強く感じます。人間的なルールを破ってまで、機械に情報を集めさせたいのでしょうか?