千里眼クラシックシリーズ完結篇

松岡圭祐さんの「千里眼」ですが、以前小学館文庫で刊行していたストーリーのリライト版が角川からたくさん出ています。それをクラシックシリーズといっていますが、ようやくというか、もう! というか、ともかくも完結しました。
合間合間に少しずつ読んでいましたが、読み終わりましたので感想を書きたいと思います。


科学的根拠のない血液型性格判断を批判した「ブラッドタイプ」は、「B型だからうんぬん」とか、体質で性格を決めようとする世の風潮が嫌いな私にとっては溜飲がさがる作品です。この本の旧版(ハードカバー版)を発売したとき、わざわざ血液型性格判断がいかに根拠がないかを体験させてくれるFlashサイトを構築していたそうで……。今も復刻版体験サイトとして公開されています。

できれば、リアルタイムで公開された当時に体験したかったな。種明かししたらこうでした、というのを見てみたかった。驚いてみたかった。まあ、その当時、私は松岡圭祐を知らなかったし、しかたがないことではあります。
まあ、そうでなくても、飲み会で話をつなぐネタに「血液型」を持ち出さないほうがいいと思いますよ。それって、「自分はステレオタイプでしか人を見ない人間だ」ってアピールしていると思われかねませんからねえ。「キミはB型だからマイペースなんだね」とか言われたら、決め付けないでほしいって腹が立つ人も多いのではないでしょうか。これは誕生日の星座の話にしても干支がらみにしても同様です。
ストーリーはリアリズムというより、やや荒唐無稽ではありますが……でも、日本人の血液型性格判断好きを多少大げさにしたら、このお話のクライマックスのように「自分はB型になりたくないから骨髄移植を受けない!」(その人はそれまでの人生で、B型の男性にひどい目に合わされたことが多々あったにせよ)ということになりかねないですね……。血液型が人間性を決めるわけじゃない、という当たり前のことが、なぜか日本人の間では当たり前ではなかったりもする。この血液型性格判断が「当たって」しまうと思う錯覚が起こる原因も、このお話を読むとわかります。


それから「背徳のシンデレラ」は、昭和裏歴史に対する空想篇として非常に面白かったです。この表題の「背徳のシンデレラ」とは、そのまま千里眼シリーズの主人公・岬美由紀の恩師であり最大の敵だった友里佐知子のことを示していると思います。実際、本書では上巻の中盤から下巻の中盤にかけて、友里佐知子がどうしてあんなひどいことをしてしまったのか……この日本で宗教団体を隠れ蓑にしたテロを引き起こすに至ったのか、それを描いているのです。「千里眼」シリーズ初作で描かれた、医療と心理学と暴力を武器にしたとんでもない事件だった「東京湾観音事件」。それをさせた動機。本編は友里が主役で美由紀が脇役のような感すらありました。


思想が暴走するとひどいことになるという事件は、「千里眼」のような小説ではなくても、現実に多々起こっています。中東での自爆テロが報道されるたびに、なぜ命を大切にできないのであろう、と、疑問に思います。いろいろと原因や社会的な背景があって、心理的に追い詰められて……と、理由とかを説明した報道に触れても、根本的に「なぜ?」と思ってしまいます。それは、年間三万人以上が自殺するここ最近の日本でも同様です。多くは、テロではないにしても社会に対する抗議行動だと考えられます。経済的な苦しみが大きかったり、社会的な挫折が原因だったりすることが多いようですが、もしもその原因がなくなればその人は生きていたのではないか、と思うにつけ、なぜそんなに亡くなられるのかを私は自分の問題として考えなければいけません。本当は嫌だった。生きていたかった……はず。


松岡圭祐さんに、新作のテーマをリクエストできるとしたら。私はこの年間三万人も自殺する日本の現状を鑑みて、岬美由紀・嵯峨敏也・一ノ瀬恵梨香の三者が活躍する新作を書いてほしいと思っています。どうしたら自殺を止められるのか、自殺を予防できるのか、あの天下無敵のカウンセラー三人衆の活躍で示してほしいと思うのです。特に、嵯峨センセイの活躍が見たいですね(テーマ的に)。