平和は自分たちの心の問題

昨日に引き続き、「クラシックシリーズ9 千里眼 トランス・オブ・ウォー 完全版 下 (角川文庫)」の感想を書きたいと思います。上下巻ともに読破しました。心理現象としての「トランス・オブ・ウォー」については昨日書きましたから、今日は小説のストーリーについて。
先ごろ、アメリカ大統領はブッシュ氏からオバマ氏に代わりました。そのため、作中の記述は現実とは合っていないところも多々ありますが……旧版が出たのが4年前*1だという事情を考えれば納得できます。現実にブッシュ氏の再々選などということはもちろん無かったわけですが、そのあたりの現実に即したエピソード展開は、おそらく角川新シリーズの千里眼の続刊で果たされるのではないかと思われます。たぶん。きっと。この作者さんは現実の状況をすばやく小説に反映させる腕に長けているので、そういうこともなさるでしょう。期待しておきたいところです。松岡版オバマ氏はどんなキャラクターなんでしょうね?


さてさて。
前作「クラシックシリーズ8 ヘーメラーの千里眼 完全版 上 (角川文庫)」「クラシックシリーズ8 ヘーメラーの千里眼 完全版 下 (角川文庫)」では、日本の太平洋戦争期の市民感情について触れた部分がありましたが、本作では現代の戦争感情についてがテーマそのものになっているようです。前作では太平洋戦争の頃の市民生活において、「反戦」という概念は無かったという……戦後生まれの私にしてみれば意外な話が語られていました。もちろん焼夷弾は怖かったし、自分たちの町が焼かれてしまうのは悔しかったでしょう。しかし、戦争状態はある意味で当たり前のような感じで受け入れていた……。戦争そのものに疑問を持ち、反対していい戦争があるということは、当時のヒトはあまり考えなかった……。


現代で言う「戦争状態が当たり前」とされる地域……イラクをはじめとする中東で、平和を実現するために岬美由紀は決死の飛行をすることになります。
端的に言えば、戦争をするのは理性が鎮まって本能に身を任せてしまうから、そして、極めて本能的になっている兵士が狂ったように戦うから戦争が終わらないので、特に戦闘的な兵士をかき集めてまとめて理性を目覚めさせればいい。そして、自覚させればいい。それも、イラク側だけでなく、アメリカ側も巻き込んで目覚めさせなければ、報復の繰り返しで戦争が終わらない。その危険な方法は……。さすがにお話の核心部分なので、日記には記しませんが。


戦争に振り向けるリソースを、平和や環境問題、人口問題、医療問題、教育問題等々に振り向けたら、どれだけの人々が救われるでしょうか? たとえば戦闘機一機、最新兵器一式を買うお金を、病院建設やそこで働く医師・看護師・臨床心理士・清掃員・栄養士・医療事務員……などの雇用に振り向けたら、どれだけのヒトがたらいまわしにあわずに済むのでしょう?


岬美由紀。こんな風に知性と行動力と勇気のあるヒトが現実にいたら……、人間は圧倒的に早く進歩できそうな気がしています。
やられたらやりかえす、これを繰り返している限り、人間に本当の進歩は無いのだと確信しています。
やらないこと。やりかえすにしてもやりすぎないこと。
子どものけんかでも当たり前のことなのに……。

*1:ちなみに、本作中ではあの、有るかいな無いかいな的な名称のテロ集団は米国の捏造に近い存在だとか、オイルマネーと瓶螺鈿と物取氏の黒い関係とか、大漁破戒平気はなかったとかそのあたりの話を、ちゃんとした日本語ではっきりと看破していて爽快です。この日記ではなんとなくびびってしまって分かりにくい誤字の嵐じゃないと書けないようなことを小説できっちり書いているって、やっぱりすごうございます。いくら巻末に「この物語はフィクションです……」というお決まりの文句を書いておいたとしても……。そうとう勉強や取材をしているんだろうなあと。