『セクターコラプス・富士山崩壊』で光原 伸さんの世界へ

今回は漫画ネタ。
いわゆる『週刊少年ジャンプ黄金期』には、異色作も結構掲載されました。その中でもっとも異彩を放っていたであろう作品が、3年間もオムニバス読みきり連載を続けた『アウターゾーン』ですね。連載当時、兄にジャンプを借りて熱心に読んでいたものです。今では、集英社文庫で読むことが出来ますAmazon.co.jpでも扱っていますし、「セブンアンドワイ 特別企画 アウターゾーン 全10巻セット」なんていうのもありますね。文庫版の9巻・10巻には描き下ろしショートコミックが掲載されているので、かつてコミックスで読んだことがある方にも一見の価値はありますよ。


この作品は不思議な創作話を集めたオムニバス。タモリの『世にも奇妙な物語』と良く比較されますが、あの番組とは無関係の別物です。少女漫画では美内すずえさんのホラー作品群(例:『人形の墓―美内すずえ作品集 (角川ホラー文庫)』)や、松本洋子さんの『魔物語 (講談社コミックスなかよし)』など、さまざまな例がありますが……週刊少年漫画雑誌でこのような形式の連載をした事例というのは、あまり聞いた事がありません。実際、『アウターゾーン』は、不思議なお話が好きなら女性でも読めると思います。まあ、少年誌なので色々とお色気シーンはありますけれども、嫌味な感じではなくキャラクターの魅力を引き出す感じですし。お約束+アルファ程度じゃないかな。


さて、その光原伸さんですが。ネットのウワサでは、どうもアウターゾーンを連載終了した後、ポツポツと読みきりを掲載したとか、『Wild half (1) (ジャンプ・コミックス)』の浅美裕子さんとご結婚なさったとか、今は飲食店を経営しているとか……いろいろなさっているそうです。
で、最近になって、以下の漫画が発売になったようです。完全描き下ろし単行本です。

SECTOR COLLAPSE―富士山崩壊

SECTOR COLLAPSE―富士山崩壊

コミックスのあとがきによれば、『コミックスタジオ』(COMICSTUDIOPRO 4.0)で3年かけて独力のみで描き下ろしたとか。本来であれば原作の小説『昼は雲の柱』(石黒耀/著)と同時刊行したかったけれども、ネームに1年かかったりしたため遅くなってしまったとか。
う〜ん、大変お疲れ様でした!


私はこういう災害シミュレーション作品はあまり読んだことがないのですが、「もしも富士山が噴火したら!?」というのは日本人なら考えたことがある人の多い疑問のひとつでしょう。
青年漫画の手法による個性的なキャラクターたちがストーリーを引っ張り、非常にリアルな描写と丁寧な解説で、もしかしたらこうなるかもしれない世界を教えてくれました。
考えてみれば、『アウター・ゾーン』も空想的ではあるとはいえ、もしかしたらそうなるかもしれない世界の作品群。空想世界のリアリティをきっちり描くのは光原伸さんの得意技ともいえます。
また、絵柄は『アウター・ゾーン』時代よりは濃い目ですが、数ページめくると気にならなくなりました。
富士山の地元、御殿場市はどうなってしまうのか。そして、東京はどうなってしまうのか。
科学的な調査に基づく描写とさまざまな人々の思惑が絡み合う人間ドラマは圧巻。
光原伸さんの作品を読んだことがなある人もない人も、必見です。


私の最大の感想は……やはり、人間は自然の中で生かされているのだなあと。いつ噴火してもおかしくない……とは聞いていましたが、これほどのことが起こりうるんですね。
そうそう、富士山は休火山という言い方は、今はしないのだそうです。意味があいまいになってしまうので。現在の火山学上では、立派な活火山とされています。そう、あのお山は生きているのです。