裁判員制度の広報映画 『審理』を借りてみた

図書館からだいぶ前に予約した資料が借りられるとの連絡。さっそく借りてきた。
その資料とは……裁判員制度の広報映画 『審理』のVHS。
酒井法子さんが主演しており、原田昌樹監督はこの作品を最後に亡くなられている。監督は病気を押しての撮影だったとも言う。
酒井さんの例の事件の影響で最高裁のサイトから動画が削除され、裁判所での貸し出しは自粛されているが、一般の図書館では借りることができるようだ。館によっても違いがあるのかもしれないが。


『審理』は、裁判員としての審理の流れが分かるだけではなく、家族のありがたみをも考えさせてくれるいいドラマだった。
ひとりの平凡な主婦でありながら、裁判員として殺人事件審理に関わることになった主人公:木村奈緒子(酒井法子)は、他の裁判員や裁判官と共にどういう判断をくだすのか。自分自身の家族の大切さをも省みながら、自分達なりの判決がくだされる……。有罪か、無罪か。


裁判員に選ばれたら、しっかりみんなで話し合って考えればいい。裁判官も審理では大いに悩んでいるんだというストーリーで、裁判員制度が身近に感じられる名作だった。
裁判員制度の是非については個人的には疑問点もある。たとえば量刑をも判断していいのかどうか*1、とか。守秘義務についてとか。過剰なマスコミ取材への疑問とか*2
それはちょっとおいておいて、この作品自体は非常に面白く*3、また裁判員制度の流れが良く分かる作品だったと思う。
このドラマを見ているときは、主人公に共感して見ていた。自分ならどういう風に判断するだろうか、と。有罪になればかなり重い罰則がある反面、無罪判決の可能性もある、そういう殺人事件だったからだ。
それを可能にしたのは、主演以下出演陣の自然な演技もあるし、アングルも相当工夫していたからだろうと思う。裁判ものドラマというと、裁判官を正面にして傍聴人側から撮影することが多い気がするが、本作では法廷に入廷するシーンなど、裁判員側からのアングルがあったりして、臨場感が感じられたのだ。
それから、審理の流れを解説する落ち着いたナレーションも簡潔明瞭で良かったし、裁判中に提示される資料が見やすかったりと、分かりやすく自然に見えるようにいろいろと工夫されていたと思う。多少分析的に見ないと気が付かないだろうが、そういったさりげない工夫が良かった。


細かい疑問をいくつか。

  • 裁判の日にお弁当とかは出ないらしい? 昼食のシーンでコンビニのパンとか手作りのお弁当が出ていた。実際はどうなんだろう。やっぱり出ないんだろうなあ……(^_^;)。
  • 検察官が凶器のナイフを素手で持っていたけれど、袋とかに入れる物ではないのだろうか? それとやはり、血みどろのナイフを見ることになるのは結構トラウマになりそう……。実際にも見ることになるんだろうけれど。
  • 初日に帰宅した主人公が夫にちょっとだけ裁判のことを話していた(殺人事件だ、とか)。それで「本格的だな。話してみろ、俺が判断してやる」とか言われて主人公はあっさり断り、ジョークで流してしまうのだが、内心では自分で判断する決意を新たにする重要なシーンだった。でも……あれって守秘義務上はどうなんだろう?


閑話休題
裁判員制度の是非は、これから様々な事件が審理されて行く中で、国民的な議論をして考えて行ければいいと思う。
しかし、現に制度はあるし、始まってもいる。本作の裁判所での公開停止は非常に残念だ。他にも裁判員制度を啓蒙する映像資料は何点か作られているようだ。


それにしても……。
こういうパブリックでしっかりとしたシゴトが出来るプロですら飲み込んでしまう、覚せい剤とは。恐ろしい存在だ。取り返しがつかないことって、あるものだなあと、改めて思った。
覚せい剤事件には裁判員制度は適用されないので、厳密には真逆の立場になる……ということでも無いのだが、皮肉なものだ。

*1:法律で定められた量刑については裁判官から説明がもちろんあるようだ。あとは情状酌量などを含め、裁判員と裁判官で判断することになる。

*2:顔出し声出し取材はまずいでしょう。マスコミはあれは自粛すべきだ。国民の1人として、コメントだけで充分に参考になるから、それでいいと思う。

*3:友達との食事会を断って裁判に臨むなんて、ありえそうだったし。実際わたしもそうなったらちょっとくらいは残念に思っちゃうかもしれない。