依存症対策啓発漫画『だらしない夫じゃなくて依存症でした』

最近、お酒や薬物などの依存症で芸能人が事件を起こしてしまうことが、たてつづけにあった。
その問題を受けてか、はてなブックマーク経由で下記の作品が多く読まれたようだ。

掲載サイトは厚生労働省

無料で全編読める。
依存症対策の啓発の読み物では、薬物などをやってしまったらその後が大変だ、などと、リスクで脅すようなものはよくみる。しかしそれでは患者さんは救えない。依存症の患者さんやその予備軍、またご家族などの関係者の方々がどうすれば良いか。それこそが大事なことだ。非常に具体的に描かれていて勉強になった。
フィクションだが妙に説得力があるなあと思ったら、どうやら作者さんも様々な依存でご苦労なされたらしい。『番外編』だけで一本の映画並みに話が濃かった。だから、本作の本編は、フィクションだけど本物なんだと思う。
誰でもなにかの依存症になり得る昨今、本人の努力不足や自制心のなさを責めるのでは解決出来ないのだとよくわかった。むしろ、責められたら余計に依存してしまうものかもしれない。
また、依存症によりなんらかの失敗をしても、ギリギリまで手助けはしてはいけない。作中では飲み過ぎた酒の缶を片付けたりとかの事例があったが、命に関わるものでない限り本人に任せる。また、聞いたことはあった自助グループの実際、本人への話し方や接し方など、様々なことがよくわかった。
実際、作中の『夫』氏は、お酒の味や香り、酔い加減などを楽しんでいるとはとても思えず、呑みたく無いのに呑んでいた風にしか見えなかった。呑めば苦しくて仕方ない。でも呑まなければ満たされない。もう、精神や脳や神経の大混乱としか言いようがない。依存症は恐ろしいものだ。満たされるには、そんな自分を認めて一歩目なのだろう。どれほどの覚悟がいることか。
なお、本作は評判が良かったようで書籍化された。

作者さまのTwitterによれば、全編修正されているらしい。

Kindleで読んでいる最中だが、確かに絵柄が親しみやすいだけでなく読みやすくキレイになっているし、未読の展開やコマもある。特に、フリー版になかった第9話以降には驚いているところだ。
またフリー版と同じことを言っているコマでも演出がグレードアップしていて、これがフリーコミックを商業化するということなのか、と、そういう意味でも勉強になった。細かいところでは髪の毛に線が入っているなど、相当細かく修正なさっているなと。
ところで、フリー版でも販売版でも触れられていることだが、自助グループで匿名のもとに本人やご家族などが体験や心境を話すことは、こうした依存症脱却で大事なことのようだ。同じ悩みを持つのはひとりではないというのは孤独感を埋める一助となるし、いろいろな体験談は学びになるのだろう。また、匿名なので言いやすいということもあるかもしれない。脱却し続けることが大事なので、定期的に自助グループに通い続け、発言や振り返りの機会を持つのが大切なようだ。
ただ、ここで、そもそもの本書を読むきっかけになった、とある元芸能人の方の飲酒運転事故を思い出す。
ちょっと知られているレベルではなく、誰でも知っている国民的な人気者レベルになってしまうと、そもそも匿名でいることが難しい。率直に相談できる場が、一般人よりも限られてしまいそうだ。
少し調べてみたが、例えばチャットやオンラインミーティングでの自助グループ参加もできる場合があるようだ。
ただ、そうした場でも、有名人特有の悩みは話しにくいかもしれない。下手に話せば、本人特定がされてしまいそうだ。周りがいくらプライバシーは守ると言っても、自分が特定されることの恐怖心とか、今まで築き上げた自分ブランド崩壊の恐怖など、一般人にはないプレッシャーとも戦わなくてはならないかもしれない。
芸能界で薬物事件で引退後、復帰してまた薬物事件を起こしてしまうことがあるが、そういう意味でも顔が知られていることも原因なのかもしれない。特殊な業界ではその業界のひとならではの支援とか、配慮とかも必要なのかもしれないと思った。
また、そういう有名人でなくても、誰でも依存症にはなり得る。そうしたときに親身になって相談に乗ってくれる人がいたとして、依存症者への正しい対応ができるとは限らない。もちろん、その人を責める訳ではないが、良かれと思って逆効果なことをしてしまうかもしれないのだ。
本書のようなもので知識を得て想像できるようになっておくことは、やはり無駄にはならないだろう。

追記

本作の末尾にて作者さま自身の依存経験が語られている訳だが、カフェイン依存症の体験をWebで描いたら本作の仕事につながったとのこと。なんか聞いたことがあるので作者さまのサイトを見たら、少し前にバズったあの漫画の方だった。合点が行った。こちらも無料で読める。私がカフェイン依存症って怖いとわかった作品だ。こちらも知っていて損はないかと思う。