「ムットリーニのからくり書物」(世田谷文学館)

本日最終日。自動人形からくり箱で、様々な文学の世界を追体験できる作品を沢山見てきました。

今日はギャラリートークの時間帯だったため、この作家さん……ムットリーニさんご自身の語りで作品を拝見することが出来ました。閉館まで居たら、なんと握手もして頂いたり……。柔らかくて暖かくて大きな手でした。
トランペットもなさってるらしいので、個人的には親近感があります。たしかに、演奏者の立場から音楽が好きである、ということが随所ににじみ出ている作品が多かったようです。
いくつか面白かった作品の感想を書きます。なかなかこういうのは難しいですが。

  • 「眠り」
    • 鏡の前に立つ人形。眠ることについて悩んだ経験があるので、自分と眠りについて、これでいいと思えるかどうかって結構重要だと。それと、ある意味「新世紀エヴァンゲリオン」でいうところのATフィールド……自己と他者の壁……みたいなもののあり方についての想起も感じました。それにしても最後の最後で人形の背中側の鏡に対照的に人形が写り込む仕掛けは、息を飲みました。
  • 「アローンランデブー」
    • 宇宙飛行士が宇宙で事故に遭い、船を失って宇宙に漂うことになってしまったら、死ぬしかありません。宇宙服を着ていても近くの天体の引力に引き込まれるとか、宇宙に漂って死んでしまうか。もしもそうなったら、ヒトは何を想うでしょうか? 大気圏に突入し、燃え尽きる前に「彼」が願っていたことは、最後に自分が大切な誰かのためにできることはなんだろう、ということ……そして、流れ星となり、誰かさんはそれを地上から見て願いをかける……。この作品はご自身の語りによって鑑賞できたため、非常にセンシティブにリアルな感じがしました。宇宙飛行士になった気持ちで聴いていました。この涙はなんだろう……?
  • 「カンターテドミノ」
    • 2回拝見し、閉館の最終公演として氏の語りで鑑賞しました。すべての旅人と夢追い人に、しあわせがあることを祈った作品だそうです。パイプオルガンを模したセットの中から、美と芸術の神であるビーナスが現れ、天に昇って行く様子は幻想的でした。そして、オルガンと金管を中心にした楽曲の音響も良くて……。音楽は神様への捧げ物であることを、改めて感じました。この作品で言う旅人とは人生の目的を探している者であり、夢追い人とは目的を見いだしてそこに進む覚悟を決めた人のコトを言うのだと、私は解釈しています。私はまだまだ旅人のようですが、それはそれでいいのだと想うし、あとやっぱり、自分なりに吹奏楽を頑張ろう、と、改めて想いました。元気も涙も出てきた作品です。楽器がテーマの作品って、やっぱりいいですね。神聖な感じがしつつも、親しみやすさもあって。


図録も買いました(サイン入り)。
制作裏話というか、どういう風に組み立てて行ったのかと、幾つかの作品の現作文学などが収録されていて、かなり興味深いですね。
ちなみに、今日の最終日の入館者数は、世田谷文学館史上最高の人数を記録したそうです。最終ギャラリートークで聴きました。確かに本展は面白かったですから。からくり人形とトークで短くも美しい作品に触れるって、そうそう出来ることじゃないですからねえ。
お話を来館者のみなさんで聴く、というのも、昔の紙芝居とかみたいな共有感覚があって面白いものでした。こういう「みんなで楽しむ」感、久しく味わってなかった気がします。自由演奏会のそれとはまた全然違う、ある種の静かな感動を共有する感じ……。人間にはこういうの、大事だと思います。考えてみれば、日本昔話とかって、夜、いろり端でおばあさんが孫に教えたりして、口から口へ伝わったわけで、だから面白いっていうのがあるし、共有もされる。「お話」は個別にあるだけのものではなく、誰かと分かち合ってこそ面白い。それって文学の基本的な面白さだと思いますし。
非常に良い体験をさせて頂いたと思います。展覧会を教えてくれた友人と、文学館スタッフや作家さんに感謝!