「トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラス The 8th!」

今夜は東京文化会館でご機嫌な一夜を!
http://www.bandpower.net/news/2008/01/03_tb10p/01.htm


……ご機嫌な一夜を過ごして来ました! やっぱり、このホールとトレイルブレイザーズって、相性がいいみたいです。客席とステージの近さもありますし、音響もちょうどハーモニーが奇麗にみんなに聞こえる具合で。
さてさて、勝手気ままに書き尽くすトレイルのコンサートレポートですね。笑いあり涙あり考えさせられるテーマあり……って、これじゃ寅さんの映画みたいですが、そんな風に聴いていました。


オープニングに取り上げられたのは、「ア・ラ・カルト」(ゴフ・リチャーズ/作曲)でした。CDでは何度も何度も(お酒のおともに!)耳にしていますが、目の前で演奏していただくと……第1楽章から全然響きが違う〜〜! 途中でハーモニーの掛け合いの倍音のせいなのか、人の声、男性バリトンのような音が聞こえて来た箇所があって、すごいびっくりしました。プロでも完璧な純正和音でいつも演奏するのはかなり厳しいワザだと思うのですが、よっぽどバンドの皆さんの息がぴったりなんじゃないかな? 実際、トレイルのステージはシリアスな曲も冗談音楽もいつも楽しそうだし。あと、夕食が回転寿しだったので、第4楽章「スシ」は今日食べたサーモンとか思い出しつつ。とろとろでおいしかった……って、そういう曲じゃないかもですが……あの東洋とも西洋とも付かない不可思議な和音は、不可思議な食べ物である(実際、たいていの物がネタになりうる寿司の奥深さって凄いですよね。魚だけではなく、焼き鳥でもキュウリでも納豆でもトマトでもアボガドでもネタになる!)お寿司のおいしさにぴったりなんじゃないかな。
音源を聞いてみたい方は……
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0753/
で発売中!


2曲目は世界初演本日1曲目(そう、今日はたくさんの世界初演がある!)、「核の時代」(星野究/作曲)でした。星野さんはもともとトレイルにも参加なさっていた方で、その縁もあって作曲したようですね。プログラムに依れば「きっかけは1995年のフランスの核実験」をテーマとして「1998年にトランペットとピアノの為に書いた物をテンピースに転用」とのこと。私もこの曲を聴くまで、あの核実験のショッキングさを忘れていましたが……聴きながら思い出しました。曲は、「プロローグ」として第二次世界大戦(=核の時代の幕開け)から始まり、「破壊された街」……原爆投下直後の悲惨な情景、「不安定な均衡」……核抑止力という思想の危うさ、「終焉」……人類の終焉。
大変重い曲です。
実際、聴いていて……20世紀末のあの頃の、閉塞感というか、ほんとに地球はこのままで大丈夫か感、それから、フランスも核実験をするんだという驚き……何となくアメリカとソ連(ロシア)の専売特許だと思っていたし……そういう空気そのものを思い返しました。音楽って凄い。タイムトラベルも可能にしてしまう。何度も何度も聴きたいような曲ではありませんが(実際、怖い曲ではありますし)、この気持ちを忘れていては行けないなあと……。この曲の世界だけで短編映画が創れそうな気がしました。


3曲目は世界初演2曲目「狂詩曲」(山里佐和子/作曲)。雰囲気は打って変わって、和風というか、伝統的日本の音楽世界の中で、チューバソロから始まる自由な音楽世界が展開されました。日本人なんだなあ、こういうのを聴くと御神輿担いでワッショイしたくなる!
こういう、邦人作品が創られて演奏されていくということも大事なことですね。大学のときに取っていた作曲の授業で、創った曲を演奏してもらえるというのはラッキーなことだ、みたいなお話を当時の先生から教わったことがありますが、それを思い出しています。特に、テンピース編成はまだまだ日本ではなじみがないですし。


さて、休憩時間のざわめきでリラックスした後は、またまたまた世界初演! 「ディヴェルティメント」(石田忠昭/作曲)。明るい「ファンファーレ」から始まる音楽で全部で6楽章あるのですが、聴いていてどんどん自分が自由になっていく感じがしました。管楽器系の演奏会では自分もやっているせいでトロンボーンパートに自分自身のような愛着があり、ユーフォニアムはお友達って感じでついつい聴いてしまうのですが、なんだかんだでどのパートも遊べる曲だったみたいで……、自分が演奏しても、この曲は(大変だとは思うけれど)きっと楽しいなあと。爆笑物のプログラムノートも、きっと曲の一部! 本当に面白い時間でした。


2部最後の曲は世界初演4曲目「キャッツ・テイルズ 〜ジャズ・ミュージシャンに捧ぐ」(ピーター・グレイアム/作曲)です。といっても……猫のしっぽを描写した曲ではなく! プログラムに依れば「キャッツ=熱狂的なジャズ・ミュージシャンたちを”Cat”と呼び、これがこの曲のタイトルを導いている」とのこと。で、テイルズというのは……おとぎ話のことを「フェアリー・テイル*1」と言ったりしますが、そっちのテイルのことで。直訳すると「伝説的なジャズミュージシャン」というようなニュアンスのタイトルですかね。ともかく、猫のしっぽじゃありませんね。
第1楽章ではエルマー・バーンスタインが。第2楽章ではヘンリー・マンシーニが。第3楽章ではソニ−・ロリンズ。第4楽章ではジョージ・ガーシュウィン。そして最終楽章ではレナード・バーンスタインが! それぞれの「キャット」の音楽スタイル(様式)の中で、独創的でもありどこかで聴いたような気もする旋律やリズムが展開されていく……ジャズのご飯を何杯でもおかわりできるような、「濃い」曲に仕上がっています。こういうスタイルもありなんですねえ。
いい曲というのは、サイドストーリーを聴衆に勝手にイメージさせる物じゃないかと私は思っていますが、この曲を聴きながらイメージしていたのが……「怪盗物」でした。それも、子供向けではなく、大人の恋の駆け引きのような怪盗物。まあ、恋愛もある意味で泥棒と追跡者のような部分がありますが、なんか、惚れた者V.S.惚れられた者……のチェイス(追跡ドラマ)を見ているようでしたよ。この曲をテーマにして短編小説を1本書けそうな気がしてしまった。CDで聴きたいです! この曲でお酒を呑んだらおいしいに決まっている!


アンコールという名の第3部は、1曲目ドラ。2曲目サザエ。なんというか、シリアスな曲が続いただけに、客席で笑いこけてしまいました! 最初の1小節を聴いた瞬間、「おーい!」とツッコミを入れてしまったのは私だけではないはずです。頭の中は「のびたくんしゅくだいやったの〜?」「かつお、まちなさ〜い!」の世界ですよ。いやはや。冗談音楽もトレイルの魅力ですが、こればっかりは生でしか味わえないです!


今回はほとんど全部が世界初演という、大変な音楽史的役割もあった訳ですが、その場に居られて本当に良かったです。
プレッシャーとかいろいろあったんじゃないかとお察ししますが、楽しかったですよ。
今後も面白い演奏を期待しています。


なお、トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスのサウンドをとりあえず聴いてみたい方は、
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/trailblazers/
の公式サイトを開くと「トレイル・ブレイズ」を聴くことができます。このバンドのテーマ曲だそうです。また、最初に挙げた「バンドパワー」サイトのページでは、非売品音源から「3つのロンドンの情景 から 第1楽章“メトロポリス”」を聴けますよ。


※文中、作曲者名は敬称を省略させていただきました。皆さん、面白い曲(広い意味で……interestな意味で……)をもっともっと作ってください! 
※2008/1/29、細かいところを多少修正しました。

*1:妖精の伝説、というのが直訳。伝承とかそういう「語り伝えられて来た事柄」の意味