S君は旅に行きました……。

しばらく会っていなかった高校時代の同級生たちと会ってきました。……と、言っても、文化祭のホームカミングデ―とか、同窓会とかとは意味合いが違う会合でした。
クラスメイト(S君とさせてもらいます)が、一般的な意味合いでの「旅行」ではない「旅」に行ってしまったため、彼とのお別れ会でした。


彼は、トロンボニストでした。そして、私とは違う部活でしたが(うちの高校には吹奏楽部とビックバンドジャズ部がある)彼は彼としての音楽を楽しんでいたんだろう、と思います。私も高校時代の吹奏楽は本当に楽しかったけれど、彼もきっと、トロンボーンを、ジャズを、そしてそれだけに留まらないさまざまな音楽を楽しんでいたんだろうな、と思います。
一緒に練習をしたことはありません。が、音楽の授業の自由発表で、彼は当時はまだまだ珍しかったシンセサイザーによる打ち込みを伴奏に、トロンボーンソロ曲を披露してくれました。本当にアレは素晴らしかった。あんなトロンボーンってアリなんだ、本当にすごいことをやっているなあ、そして、シンセもそうですしトロンボーンもうまいなあ、と、心から感服しました。一目置く、というとおこがましいニュアンスもありますが、もう少しだけ平たく言えば、尊敬していました。作曲をするトロンボニストという存在がいるということに、きっと当時の私は驚いてしまったのだと思います。


高校を卒業してからあと、私は彼に会った記憶がありません。
何度か同窓会には足を運んでいますが、話をした記憶がないので、たぶん会っていないと思います。
というか、同じトロンボニストとして尊敬してはいたけれど、話をしたことって高校時代もほとんどなかったような……。


今だったら、自由演奏会に誘ってみたかったけどな。……まあ、S君があのスタイルの吹奏楽を面白いと思ってくれたかどうかはかなりナゾですが。面白がってくれたら相当面白がってくれそうだし、その場でぶっつけ本番スタイルなんかじゃダメだ的なことを思われそうでもいて。聞いてみたかったなあ。


ともかく、彼は彼で本格的に音楽の道に進むために某有名な芸術大学に進学していったようでした。
それからもさまざまな音楽に触れつつも、自分で作曲をし、表現活動をしていた、とのことでした。


Macintoshと出会い、作曲のためのツールを揃え、スタジオのような部屋で生活していた、とは、今日、彼のお父様からうかがったことです。
そうか、S君も林檎印にほれたかぁ。いいよね、Macって。音楽をやるのにも最高のパソコン。表現者ならやっぱり使ってみた方がいい。気に入ったら使い続けてみればいい。


旅に出て、今はどこで何を見て、聞いているのかな。もっと自由な音楽を見つけることはできたのかな。


彼は、「世界の国歌集」を聞くことはあったのかな。
世界中の人がそれぞれ誇りに思っている名曲がたくさん入っていて、しかもひとつひとつが短くて、簡単に音楽世界旅行が出来て面白いんだけどな。
↓いろいろ出ていますが、自衛隊の演奏盤をご紹介。

ちなみに、今、これを書いているBGMもそういったCDの中の一枚です。
エルサルバドル共和国の国歌は華やかで落ち着きもあっていいですね。オーストリア国歌は心に染み入る感じです。


人間は、音楽をするいきものでもあります。
音楽にどきどきするいきものでもあります。


いきもの同士、もっとお話をしたかった、な。
ぜんぜんちがう音楽を好きでいて、それでいいんだと思うのです。ちがういきものなんだから。


大変な想いをたくさんしての旅立ちだったそうですが、せめてS君のみちゆきが平和で自由なものであることを、願っています。
神様、どうか、S君を見守ってあげてください。あんまり叱らないであげてください。
人間界は今、ほんとうに大変なんです。特にこの国では、好きなものを好きだといって、それを貫くには、たったひとりでは立ち向かうことが難しいほどに大変なんです。だから、暖かく守ってあげてください。せめないであげてください。


彼の平和を祈ります。
そして、私は、人間界で生きて行きます。これからもできるだけながく。