『惑星』3盤ぷらす1漫画

うちには、ホルストの『惑星』のCDが3種類ある。

オリジナル版……なだけではない、管弦楽版『惑星』

ホルスト:惑星(冥王星付き)

ホルスト:惑星(冥王星付き)

冥王星と、ホルストにインスパイアされた他の惑星関連楽曲もついてくるお得盤。本盤発売の数日後、冥王星が惑星ではない、と学会で決まってしまったため、意欲的な収録内容も相まって、当時は非常に話題になった。個人的にはコリン・マシューズの『冥王星』はちょっと現代音楽的な複雑さが多すぎる気がして、ホルストの作風ではない気がしている。第2曲『金星』冒頭のホルンが美しい。こんな風に吹けたら、オケのホルン吹き冥利に尽きるだろうな。何しろ難しい楽器だしなあ。あと、冥王星を書き上げる前に亡くなってしまったそうだけれど……ホルスト先生、上ばかり見上げてないで、足元にある『地球』の曲も書いていただきたかったです。

吹奏楽版『惑星』

ブラバン・クラシック 「惑星」&「展覧会の絵」

ブラバン・クラシック 「惑星」&「展覧会の絵」

展覧会の絵』も収録。こちらもまたお得盤。管弦楽版が緻密な響きを長所とするなら、吹奏楽盤はブレス音楽ならではの勢いの良さがあると思う。自分が吹いている気持ちで聴けたりするのでこっちの方が好きだったりする。いや、こんなにうまく吹けないけど。そりゃ。それから、管弦楽吹奏楽でのクラリネットパートの仕事量の違いが歴然としているのも聴き比べて面白い所かも。まあ、実質的にヴァイオリンのシゴトをするんだから、クラリネットが忙しくて当たり前。なんだけど。こりゃ大変。

冨田勲シンセサイザー盤『惑星』

惑星

惑星

実は、自分が生まれた頃に制作された作品。今でも新しいサウンドで魅了してくれる。宇宙への冒険旅行といったおもむきに大胆アレンジ、何も無い宇宙で偶然にも異種生命体に遭遇して……と思われるくだりがあり、侘び寂びが感じられる名盤。高校時代に『Band People』誌上で何故か本盤(正確にはこの再販版ではなく、前のバージョンだけれど)が紹介されていて、図書館で借りて、ヘッドフォンをしっかり付けて部屋を暗くして聴いて、その重量感に圧倒された想い出がある。特に冒頭の発射シーンは、本当に自分の体にGがかかった感じがして驚かされた。
実は2012年8月に発表のあった、冨田勲先生による初音ミクを使った新曲披露コンサートに行けることになったので、その予習としてシンセ版『惑星』を引っ張りだしてきた次第。聴いているうちにオケ盤と吹奏楽盤も聴きたくなり、すっかりヘビーローテーションである。
11月23日(金・祝)のオペラシティで何が起こることやら。

惑星を聴くなら外せない漫画『地球へ……』(竹宮恵子

地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 2 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 2 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 3 (Gファンタジーコミックススーパー)

地球へ… 3 (Gファンタジーコミックススーパー)

さて、この冨田先生版のSF的『惑星』が書かれたのと同じ頃、漫画界でも名作SFコミックが生まれていた。そう、『地球へ……』のことだ。この2作品が同じ年に生まれているのって非常に運命的だと自分には思える。冨田『惑星』をエンドレスBGMにして、iPhoneコミック版で一気に読んでみたんだけれど。これ、絶対偶然なんだけれど、音と漫画がシンクロするような瞬間がいくつもあった。最後の終わり方の静けさも共通するし。宇宙観が良く似ている。この時代ならではの未来観宇宙観、って、絶対あったと思う。そして作者の二人が日本人だから、たぶんそうだから無常観とか共通するイメージで宇宙が描けたのではないかと、そんな風に思えた。
個人的にも、人間はいつか地球を超えて星へ行くと思う。そのためのネルフです……じゃなかった(笑)、そのためのJAXAです。あとNASAですよ。そういう宇宙開発機関や民間企業などが研究開発をしているし、はやぶさみたいな成功例、IISなどもあるわけで。可能性が少しずつ広がってきている。でも、宇宙に行ったあと、この星はどうするの? そういうことも出てくるし、『地球へ……』のラストみたいな恣意的な仕込みがなくても、人は旅に出たらいつか故郷に帰りたくなる。だからきっと地球に帰りたくなる。青い美しいこの星に。赤い星ではなく、青いこの星に。
原発問題を引っ張りだすまでもなく、漫画内にもあるように『この星を窒息させているのは人間の活動』……と、同時に、責任を取れるのもまた人間であり。実際、地球環境保護&改善活動はいろいろおこなわれているのだけれど。童謡『ふるさと』にあるような里山の風景は失われつつあるのもまた現実だ。今を刹那的に享受するのは心苦しいけれど、未来はないのだろうか。あると信じていたいけれど。祈りたいけれど。人間はどこから来てどこへ行くのか。『惑星』を聴いていると、そういう普遍的な問いを誰かに投げたくなる。
誰も多分、答えを知らないのだとは思うのだけれどね……。
でも、出て行く時があったとしても、いつかきっと帰りたくなると思うんだ。ここに。真空の宇宙には基本的に死しかない。そこに生をもたらすのは奇跡的な話ではあるけれど、人間はいつかきっとそれを成すと思う。ただ、それが、足元の世界の死と引き換えであってはならないと強く願っている。