そして、水星の少女

『水星の魔女』……ついに大団円。
あの状況からみんな生還できたのは奇跡というか力技というか……。
クワイエット・ゼロは母上たちを説得するなりで止められる可能性があったわけです。どこかのサイトさんで、母上の師匠なら説得できるかも、という分析を読んだのですが当たってましたね。まさか故人が説得してくれるとは思いませんでしたが、考えてみればエリクトもある意味では故人ギリギリの存在でしたし。
「戦争をゼロにする」と折に触れて母上が言っていたクワイエット・ゼロ。これがどういう意味なのか最終回まで引っ掛かっていたのですが、今回、スレッタが出力全開にしてくれたことで、鈍い自分でもとてもとてもよくわかりました。
この世界の機械は何でもかんでもパーメットを使用している。ならば無理矢理にでもパーメットリンクかけて乗っ取り、機能停止させちゃえばいい。
……怖い兵器ですね、つくづく。
今回、超遠距離用の送電装置の軍事転用という方法で攻撃されるところだった(エリクトがエアリアルで止めてくれたとはいえ、一回は被弾しましたね)のも、現実に通じるものを感じました。原水爆って、本質的にはこれと同じようなものなので。原発として使うか、爆弾として使うか。
それをいいますと、この世界のガンダムもそうなんですよね。医療用や土木工事用などのような、平和のための使い方をするか、軍事兵器として使うか。
「逃げれば1つ・進めば2つ」と言いますけれど、どっちの方向に進めばより良い2つが手に入るのか。絶望で血塗られた2つなのか、活かしと赦しの2つなのか。
スレッタには赦しの道が見えていた。お母さんがかつてしてしまったこと、そして今しようとしていたことの理由を受け入れつつも、行動は違うでしょうと諭す。あのシーンはとてもよかったですね。
そしてガンダムは消滅しました…ちょっとだけシン・エヴァっぽいって思ってしまいました。全ガンダムならぬ、全エヴァ集結、そしてさよなら…ううむ。
ここだけではなく、ちょっとエヴァっぽいと思ってしまった点はいくつかあります。母親が入っていたエヴァ初号機と、お姉さんの生体コードが入っていたガンダムエアリアル
そしてそのマシンを動かすために現場へ使わされた主人公たち。謎の多いマシンと大人たちの勝手な思惑。それらを打破する若い力。
パクリって言いたいわけでは決してありません。大きなチカラを行使させられるようになってしまった若者が作中の謎を解きながら大人世界と対峙し、最終的に平和のためにそのチカラを解体する。ジュブナイル作品のひとつの王道だと思います。見せ方が大きく異なりますし、他に内包していたテーマ(エヴァは他人との理解、水星はジェンダーや起業論・組織論)も大きく違います。
ひとつ面白かったのは謎ときへのスタンス。水星は相当に解説していました。制作期間確保のためなのか、定期的に今までのまとめ回が入りましたけど、あれがありがたかったです。本当に情報量が多い作品でしたからねえ。話を理解してついてきてくれる人を増やす+制作期間を少しでも確保する、一石二鳥の妙手だったと思います(母の日の回が面白かったですね)。
こういったことはエヴァではやりませんでしたが(そもそも劇場版ですし)、シン・エヴァは作中解説はエヴァの割には多かったなと。あの時も時代性を感じたものです。
今は謎は自分で解くものというより、最後に答えが分かる安心感があるもの、なのかもしれません。
ところで。ここからはイフなのですが。
もしも母上の思惑通りにコトが進んだらどうなったでしょうか?
世界のどんな兵士よりも上級権限でパーメットを使用できるエリクトは、おそらく世界の覇王になってしまうでしょう。それがエリクトが生きられる世界を作る唯一の方法と母子は信じたわけなんですが。
血塗られた帝王に安らかな日はおそらく訪れないかもしれません。本人たちは単に生きたい生かしたいだけだったかもしれませんが、降りかかる火の粉は払わねばならない。
となると戦争は不可避なので。チカラが大きすぎると敵視されるのはやむなし……。
やっぱり、スレッタとミオリネさんの勇気と行動が無ければ、この世界の未来は悲惨だったと思うのです。どんな理由であれ、エリクトが悪いわけじゃないのであれ、チカラが存在すればそれをめぐる争いが起きてしまう。なれば、チカラの存在ごとなくなって仕舞えばいい。これ、『セーラームーン』でもうさぎちゃんが最後の最後まで悩み続けていることだったりもするんです(こちらも劇場にいかねば!)。そして、現実の世界でも、大量破壊兵器を世界各国が所持している昨今、他国に対抗して作ったは良いけど(良くないけど)これ使うのどうするの問題っていうのはずっと付き纏っています。あのウクライナとロシアの問題の背景の一つでもあります。
いったい、どうするのが良いのでしょうね……。物語のように、物質を粒子分解消失させることなんかできませんし(それができたら福島原発チェルノブイリ原発廃炉がめっちゃ楽なんですけども)。
さてともあれエンディング。スレッタたちにひとまずの平和は訪れましたが、問題はやっぱり山積しているようですね。ただ、ミオリネさんがスレッタと笑えるようになったのは救いです。1期の終わりの悲惨さを考えたらねえ、もう、もう。いくらでも永遠に仲良くしちゃってください! それに奇跡的に助け出せたエリクトと行動を共にしているのが意外ではありました。この2人が会話できるようになるとは。総じて大団円と言って良いでしょう!
やっぱりスレッタが天才ガンダムパイロットとして死ぬまで戦い続けるような終わりじゃなくて良かった。やっぱり彼女は優しい少女なんですよ。ただ、水星出身というだけの、ね。
いやあ、このストーリー、何度も「2期でまとまるの?」って思っていたんですが……。情報量の多さをテンポの良さで乗り切り、不要な過程と必要な過程を割り切り。ストーリーの構築、本当に大変だっただろうなぁ…。
ガンダム完走したの初めてかも! その意味では『水星』が私のファーストガンダムですねっ♪
プラモデルをやっている人はこれからがお楽しみですよね。またこの冬に『ガンダムSEED』(名前だけ存じてますが)の映画版があるみたいで、『水星』以外にも色々そっちの発売もこれからあるらしいって聞きました。
それなら『水星の魔女』の総集編もいつか映画館でやってくれないかなあ。みんなのその後もちょっとだけ足したりして。エアリアルを映画館で見たいな! 流石に2時間で収めるのは厳しそうですけど。
ともあれ、キャラクター自身だけでなくスタッフさんたちのたくさんの挑戦が光り、後世へ語り継がれるべき名作がまたひとつ完結したのを素直に喜んでいます。制作に関わられた皆様、本当にありがとうございました!