BBC『-J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』拝見

ようやくこの番組を見ることができました。
例のBBCのジャニーズ追及の特番、ってくらいの軽い認識でいたので、検索した時に正式な原題を知って、本当にまずそこからしてショックでした。
プレデター、ですからねえ。
食物連鎖において上位となる種。下位の種を食べて生きていく、生物界での圧倒的な強者のことですよね。
こんなタイトル、日本のマスコミではなかなか付けられない。
芸能界を生物界と比喩した時に頂点に立つ者。単なるキングよりも強い意味合い。
番組を見ていて思ったのですが、BBCの記者さんは海外メディアなので、必ずしも日本のマスコミの悪しき慣習や暗黙のルールに従わなくても良いわけです。丁寧に取材し、客観的な真相を追求すること、それだけがルールといえるのかもしれない。日本のマスコミもそのはずですけどね。
とはいえ。
けんもほろろだった事務所取材。
タレントさんの会社なのに、まともな広報資料も手に入らない秘密主義で、記者さんも大変な思いをされたそうです。
似たようなことで、一市民としてもずっと前から不思議だったんですよね。インターネットの広告で、たまに雑誌の最新号が紹介されていることがあるのですが、こと芸能誌やファッション誌でジャニーズ事務所のタレントさんが表紙を飾った時、なぜかタレントさんの写っている部分が灰色に塗りつぶされていたんです。
雑誌の表紙なんて、ともかくみんなに見てもらって、それでファンを増やしてたくさん買ってもらってナンボのはずなのに、なぜ、こうも不自然に塗り潰すんだろうかと。
一度や二度ではなく、毎回、どの出版社でも。
何度かこの種の広告を見ましたが、気持ち悪くて仕方がありませんでした。
インターネットという、実質無料で見られてコントロール不能な媒体に、タレントの顔写真が載ることを恐れていた……のかもしれませんが。時代遅れとしか思えませけれど。
番組ではどうしても許可が取れなかったんでしょう。ジャニー喜多川氏の写真は似顔絵で代用されていました。これはこれでなかなか味がありましたけども。
そして、雲を掴むようなところからの取材。みんなが彼は功労者だったと誉めていて、その罪についてはあまり正面から受け止めている人が少ない。日本のマスコミでは比較的批判的に報道してきた週刊文春編集スタッフさんくらいで。
取材を進めて被害の当事者に会えたりしても、深刻に受け止めていない場合もあったりする。
この現象については記者さんはグルーミングではないかと指摘していましたが。
日本文化の、加害者を許すような曖昧さとかもあるのかもしれません。日本社会はなぜか、被害者に厳しく加害者に甘い、そんな変なところがあります。痴漢された人が、その時の服装を責められるとか。どう考えても痴漢する方が悪いのに。
芸能界をサムライ社会としたら、ジャニー氏はお殿様です。殿のご意向に逆らう不届者は、芸能界ではやっていけなくても仕方ない、と、斬り捨てられてしまう。
あるいは、自分で空気を読んで忖度して、自分自身を斬り捨ててしまった人もいたかもしれません。
しかもその『ご意向』の手段が、単なるパワハラ村八分とかなら同情も集まったかもしれませんが、語るに憚られる同性愛的な、甘え合い的な方法でしたから。
はるかに目上の方が、夜は自分に甘えてくる。子ども時分にどう受け止めていいか噛み砕くことはできないでしょう。
彼がどこまで分かっていたかは知るよしもありませんが、実に卑怯だったと私は思います。
彼の罪と、彼がアイドル文化の功労者だったということとは、切り離して考える必要があると思います。
そこを混ぜてしまうから問題の底が見えてこなくなるんです。
さて、この問題で思い出すことがあります。
10年以上前の話ですけど。
大学時代の親友が、とあるジャニーズのタレントさんを推していて。
でも私は、Yahoo!ニュースに時々出ていたコラムからジャニーズ告発本の概要を読んだことがあって。
ジャニーズ事務所の社長さんにはこんな噂があるんだけど、どう思ってる? 的なことを正面から聞いてみたことがあるんですね。
今思うと聞かれても困ったかもしれませんけど。
すると彼女からは「ジャニーズファンの中では、その種の噂は無いことになっている」みたいなことを言われたんです。
彼女だけの意見だったのかもしれませんが。
ファンにも色んな方がいらっしゃるでしょうから、n=1でしかないのですが。
ともあれ、マスコミだけでなく、ファンの方でも秘密は守られていたということではあったようで。
変な話だと今となっては思いますが。
さらにジャニーズ事務所は変だと私が思ったのは(BBCの番組では触れられていませんが)あのSMAPが解散する時に、まるでさらし首のような謝罪をおこなったこと。
みなさん長く長く活躍された人たちです。それぞれにやりたいことが見つかったなら、事務所は背中を押してあげるのが筋というもの。
なのに、謝罪をさせる。しかもあんな、何かの不祥事のようなカタチで。
SMAPのみなさん、そんなに悪いことをしたんでしょうか?
単に、グループを解散してメンバーによってはジャニーズ事務所から離れる、という、一般人で言えば転職のようなことなだけなのに。そんなの犯罪でもなんでもない。あれは誰に謝っていたんでしょうか。あんなこと、事務所から言われない限りは進んでやる人はいないでしょう。
で、その違和感を思い出しつつ、BBCの番組を拝見したわけです。
総じて、BBCの取材班の皆さんに感謝したいと思いました。
『裸の王様』という昔話があります。みんなが王様に忖度して、裸の王様は素晴らしい服を着ている時ほめたたえましたけど。そんな忖度が効かない子どもにより、王様は裸だと指摘する話ですね。
その、子どものような仕事、外部の客観的率直的な価値観からしたら明らかにおかしな話だ、と、ガッツリ指摘したこと。
誰にでもできることじゃありません。少なくとも日本のマスコミからは、ここまで大きく指摘できなかったわけですよ。
あのBBC記者さんの困惑は、まるで「王様は裸だよ!」って言うあの子どもを思わせました。
さて、この指摘を受けて当事者の皆様からの証言も増え、調査が行われたわけです。
ただ。日本のマスコミが簡単に変わるわけがないと私としては思います。体質のようなことですから。
外圧が掛からなければ誰も指摘できなかったのが残念ではありますが、良い機会でもあります。
このあとのことは、当事者の動きはもちろんですが、視聴者やファンが注視していくしかないのではないかと思います。そんなことまで外圧頼りというのでは情けなさすぎます。
それに、再発防止と言いますが。ことの当事者は世を去ったわけですけど、それだけが問題とは思えません。
権力者に忖度して自分の主張を自ら下げるあらゆる場面が、同様な事態の再発と言えると思います。
それはおかしいのではないか?
と思ったら、やっぱりおかしいものはおかしいと指摘するべきではないでしょうか。そして、そうした人に指摘されたことで自分なりに考えて、やっぱりそれはおかしいと思ったのなら、そのひとの味方をする。
そうしたことが、今、必要なのではないかと思います。
あらゆる場面でのプレデターに、自分が負けないために。