おきゃくさんの レベルが あがった!(『金管五重奏による「ドラゴンクエスト」』発売記念コンサートレポート)

『金管五重奏による「ドラゴンクエスト」』紹介ページ
↑↑というわけで、日記の更新が遅くなりましたが、紀尾井ホールでの「東京メトロポリタン・ブラス・クインテット』による『金管五重奏による「ドラゴンクエスト」』発売記念コンサートを聴いてきました!
このCD、すぎやまこういちさんのあのドラクエ音楽をブラスで聴ける、というだけでもうれしいのですが、トロンボーンプレイヤー兼アレンジャーが都響小田桐寛之先生なんですよ。高校時代に区民吹奏楽団の演奏会で、先生をソリストにお招きして演奏をさせていただいたことがあって、とても懐かしかったですし、ゴージャス! な気分にもなりましたね。トロンボーン吹きとしてもうれしかったです。


さて、演奏会プログラムをめくりつつ、感想をざっと書いてみたいと思います。なお、ローマ数字はドラクエのシリーズ番号。Vとあれば「ドラゴンクエスト5」です。また、司会(というか「お話」)はすぎやまこういち先生ご自身が務められました。

第1部

  • 序曲のマーチ(V)arr.高橋敦
    • やっぱりドラクエと言えばこの曲。そして実はトロンボーンが影でおいしいアレンジでもありました。こういう対旋律的な動きって、プレイヤーとしてはメロディを受け持つよりも面白いんですよね。最後にキメのところももらってるし……。この曲はブラスオンリーで演奏するのがもっとも映えるのかもしれません。
  • 広野を行く(I)arr.小田桐寛之
    • この曲が良かったから、ゲームの音楽の歴史が変わったのではないか……と個人的には考えています。ドラクエIの頃はファミコンの貧弱な音源でサウンドを創らなくてはなりませんでした。しかも、プロの作曲家がファミコン音楽を創る、というのは当時のゲーム界の常識にはあまり無かったことのようでした。(すぎやま先生がエニックスの将棋ソフトの感想を葉書で送り、それが縁でこの大仕事……ファミコン初の本格的RPGの音楽……の作曲依頼を受けた、というのは有名なエピソードですが、当初はドラクエ製作のチームも反対賛成両論だったらしいです。それをこの「広野を行く」の曲の出来が納得させてくれたのだそうです)私の記憶が間違っていなければ、ファミコンの音源で同時に鳴らせる音は3音が精一杯。でもそれだけ制限された中で、これだけ耳になじむ美しい曲を創り出した。そればかりか、王城の中のBGMはバロック音楽の技法で書かれていますし、オープニングはファンファーレ。クラシックとしても通用する曲をファミコンゲームに詰め込んだ。このことによりゲーム音楽の重要性、可能性が大きく花開いたことは間違いありません。そしてこの演奏会、CDで、ブラスアンサンブルとしてこの曲を聴くことが出来る。やはりいい曲でした。すぎやま先生もIの曲は懐かしいそうです。
  • 王城(II)arr.高橋敦
  • 王宮ダイジェスト(王宮のロンド(III)arr.小田桐寛之王宮のトランペット(V)arr.高橋敦〜王宮のホルン(VII)arr.小田桐寛之〜王宮のガヴォット(VIII)arr.高橋敦〜城の威容(VIII)arr.高橋敦)
    • 2曲続けて王宮シリーズ。この華やかさはやはりブラスのためにある、と思います。こうしてシリーズを通して聞いてみても違和感が無く、かつ、聞き飽きず、音楽言語としての色彩をシリーズ通して一貫していることがよく分かります。なお、CD収録版はこのようなメドレー的にはなっておらず、メドレーを聴けたのは演奏会に来た収穫と言って良いでしょう。
  • レクイエム(II)arr.高橋敦
    • 演奏前のトークですぎやま先生がおっしゃっておられたように、金管楽器は強い音よりも弱い音を出す方が難しいのです。唇が直接震えるので、弱い音を出すためには微妙なコントロールが必要で。でも、さすがはプロ。それにこのアレンジ、合唱でやっても美しいのではないかなあと思いました。
  • 街でのひととき(IV)街〜楽しいカジノarr.高橋敦
    • 演奏前に舞台袖からすぎやま先生がなにやら道具を受け取っていました。何かな、と思っていたらそれは多分ウッドブロックかと思うのですが、曲の中で先生は打楽器で参加なさっています。(CDには特に書いていませんが……このCDのなかでもすぎやま先生だったのかも分かりませんが。ただ、収録にはすぎやま先生もご参加なさっていたようです)曲の展開には意表を突かれました。街の音楽からカジノへおもしろおかしくつなげているところは聴き所ですよ!

第2部

  • レベルアップ
    • こういう演奏会では休憩を取りますよね? まあ、今回は第1部の曲間のトークでの宣伝ぶりにほだされて、ロビーにCDを買いにいったわけですが、そうでなくても談笑やお手洗い、珈琲、などなど、休憩時間はざわめき、気持ちが緩みます。その様子をまず想像してみてください。さて、休憩時間が終わり、お客さんが客席に着きました。みんな、前半の楽しさから後半は何が飛び出すのかを期待しつつ演奏者を待ちます。そこへやおら登場したのはトランペッターのお二人。拍手を送るヒマも与えず立ったまま舞台中央で楽器を構えます。『5人じゃないの?』『なにやるの?』と思った一瞬!  『チャラララチャッチャッチャ〜』 ……大ウケでした。『おきゃくさんは レベルが あがった!』ってなもんですな。しかもハーモニー完璧だしっ! なお、これはプログラムにはもちろん無くって、すぎやま先生も知らず、完全に意表を突いた形だったようです。
  • おおぞらをとぶ(III)arr.小田桐寛之
    • 不死鳥ラーミアの曲です。CD未収録。やっとの思いでオーブをすべて集め、ラーミアを復活させ、その背中に乗って空を飛んだ時のあの曲です。この曲も収録してくれれば……って2枚目のCDに期待しましょう。売れれば創ってくれるでしょう。ゲームの場面が目に浮かんだのを覚えています。
  • 空と海と大地(VIII)arr.高橋敦
    • ドラクエがPSにプラットフォームを移してからプレイしていないのですよ。なのでVIIとVIIIは原曲を知らないのですが、この場合はかえってブラスアンサンブル曲として楽しませてもらえる、という別の味わいができます。というわけで金管曲として聴いた場合の感想。トランペットの伴奏部分が非常に面白い音使いをしているんですよ。(特に冒頭)この形ってたまにすぎやま先生の作品で聴かれるのですが、彼の得意技なのかな? そして、曲の展開が色彩に富んでいます。原曲を知らないので、どこまでが原曲部分でどの辺をアレンジで創っているのか分からないのですが、さまざまな楽器が活躍し、曲調もどんどん変わるのでこれはいい曲だと思いました。もしも楽譜が発売されることがあったら、吹奏楽コンサートやアンサンブルコンテストとかでやっても違和感が無いと思いますよ。かなり難しい曲だと思いますが。
  • 結婚ワルツ(V)arr.高橋敦
    • Vのエンディングとして有名な曲です。Vは人生そのものをRPGにした面白さが話題になりましたが、ついに平和が戻り、王城で舞踏会、というわけですね。ブラスクインテットのワルツ、というのもかなり珍しいのですが、このアレンジで誰か名手の踊りを見てみたい物です。ゲームで聴いた時よりもブラス版の方が華やかさが際立っている気がします。でも、トロンボーンかなり大変なアレンジ……動きは地味ですが。
  • そして伝説へ(III)arr.小田桐寛之
    • IIIのエンディングテーマ。勇ましきトランペットに乗せて、勇者ロト伝説がここに幕を閉じます。聴きながら思い出したのはやはりゲームのこと。ドラクエIIIは本当に攻略が大変だった。仲間の職業が選べるシステムでは勇者・武道家・僧侶・魔法使い、でクリアしました。後半、いくつかの戦士専用の武器がもったいなかったけれど、それだけにかいしんのいちげきの価値はおそらく戦士以上なのが武道家です。あれが出たとき、プレイヤーとしてうれしいのは武道家の方ではないでしょうか。そういった職業差のシステムを楽しみつつ、現実の世界地図を模した広大な世界に迷い謎を解き、やっとの思いでたどり着いた地下に眠る最後の世界があのアレフガルドだったとは。世界中をめぐるエンディングを見つめながら最後まで来られた達成感に浸ったあの日のこと。いやー、覚えている物ですね。ドラクエIIIファミコンオリジナル版はあまりにも容量を使ったため、タイトル画面がテキスト1行「DRAGON QUEST III」と表示されて消えるだけの簡素なものでした。今では考えにくいことですが、かえってあのシンプルさも「ドラクエIIIらしさ」になっている気がします。タイトルでは多くを語らず、ただ、ゲーム世界そのものを十分に楽しんで欲しい。そんなスタッフの思いもあったのかもしれません。冒険を進めるに従ってタイトル画面の見え方も少しずつ違っていったような気もします。もう、あんなシンプルなタイトル画面のドラクエはありえないけれど。タイトル画面で語らないスタイルは今の時代にあっても面白い気もします。
  • この道わが旅(II)arr.高橋敦
    • プログラム最後の曲。ところで、金管楽器吹きには実はロマンチストが多いってご存知でしょうか? いや、音楽をしている人全員がそうなのかもしれませんが。あんまり音楽家でリアリストって聴いたことが無いんですよね。何言い出したかと言いますと、ドラクエの曲で珍しく歌詞が付いているこの曲は、やはり作曲家も作詞者も、それから今回のアレンジャーもプレイヤーも、み〜んなロマンチストだったんじゃないか、という気がしたのです。*1出会い・別れ・人生・あゆみ……そういったものを詰め込んだこの曲。今、自分も人生の節目にいるだけに、聴きながら涙が止まりませんでした。妙に身につまされるというのかな……。夢を見失っても探して、いつかそれに追いついて。そうありたいと思います。

アンコール

  • 中央競馬GIのファンファーレ(すぎやまこういち作曲)
  • 小象の行進(ヘンリー・マンシーニ/arr.すぎやまこういち
    • なんでも、東京メトロポリタン・ブラス・クインテットの皆さんは今後のCD活動も行っていかれるそうで、曲を色々と準備なさっているそうです。そういった曲の中から、「ピンク・パンサーのテーマ」で有名なヘンリー・マンシーニ作曲のこの作品をすぎやま先生のユニークなアレンジで演奏。このアレンジは本邦初演です。なんてラッキー。トランペットのミュートをウマく使って象の描写をしたり、他にもユーモアたっぷりに「象」を描写した楽しい演奏でした。これはCD化が楽しみですね。
  • 序曲(I)arr.小田桐寛之(多分)
    • そして、コンサートの締めはやはり、ドラクエプレーヤーの誰もが最初に聴いたこの曲。ブラスクインテットで聴くと分かるのですが、出だしはやはりホルンなんですよね。単にうるさいだけのファンファーレなら、ここまで名曲としてつながってこなかった。そうではなく、品と華があった曲だからこそ、ゲームの歴史に残ったのでしょう。なお、確かアンコールでは原曲とあまり変わらない感じの長さで終わらせていたと思います。CD収録版では小田桐先生のアレンジの創意工夫がこらされ、主題のファンファーレの様々な展開を聴かせてくれます。


CD発売日に行われたこの演奏会。終演後は会場で販売していたCD購入者対象のサイン会でした。なんと東京メトロポリタン・ブラス・クインテットの5人のプレイヤーのみなさんの寄せ書き。それもゴールドマーカーでキンキラに書いていただきました。このサインは何ゴールドの価値があるんでしょうね? ドラクエIなら、さしずめ65535ゴールド*2でしょうか?


東京メトロポリタン・ブラス・クインテットの皆さん、そしてすぎやま先生には本当に感謝しています。実り豊かなジョイフルタイムをありがとうございました。
今も聴きながらコレを書いていましたが、実にいいCDですよ! コレを聴いて、ブラスの楽しさをまた一つ発見……『レベルアップ』した心境です。

*1:歌詞を知りたい方は「ドラゴンクエストダイの大冒険」のアニメ版エンディングテーマでもあったので、カラオケにもよく入っているのでそちらでどうぞ。

*2:ゲーム史に詳しい方ならご存知だと思うが、当時のファミコンでは扱える最大桁数の限界値がかなり小さかった。そのため、ドラクエIでは65536以上の数字を扱えず、これ以上の数字を表示できなかったため、プレイヤーが持つことが出来る最大金額はこの値だったのである。こういう点数表示の限界値のことをゲームではカウンターストップ=カンストという。エンディングが無かった昔のシューティングゲームなどでは、この値にスコアが達することがプレイヤーの大きな目標となっていた。