VFX映画「笑う大天使」

川原泉の傑作少女漫画の映画版。
「なんで今頃?」とか「アニメじゃなくて実写?」とか。
いろいろ思うところはありつつも、映画館へ。今日はレディースディに付き1000円です。


読んだのはずいぶん前。今手元にコミックスが無いので、遠い記憶で……「お嬢様誘拐事件」「メンデレーエフ様のお力」「アジの開き」「庶民」「猫かぶり」「ラスカル様(←違う)」「ダミアン」「ムギ666」……。
キーワードは覚えているんだけど。雰囲気も覚えているんだけど。
ストーリーはかなり忘れていました。


そもそも、映画公式サイトを見て、ちょっとだけ引いてしまってたのが、映画版の制服のデザイン。肌が出過ぎていて全然清楚な感じがしなくて。アレばっかりは原作のをそのまま引っ張って来た方が良かったんじゃないかなあと。

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まあ、VFXでやるっというのがどんな感じだかなあと思って。漫画を実写でVFX。しかも題材が川原泉。う〜む、とならない方が不思議。
スウィングガールズ」で好演した上野樹里さんとか、女優さんたちにも期待しつつ。


で、ネタバレを相当入れた感想。順不同。映画の展開に沿わず、思いつくまま。
読みたい方は選択してテキストエディタにコピーして下さい。映画未見の方はスルーした方がいいかと思います。

  • 冒頭のシーン、かなり度肝を抜かれた。「映画の予告編コーナー……終わったよなあ?」というのが一瞬の感想。それくらい「笑う大天使」っぽく無かった気がする(これはいい意味で)。完全に予想外。
  • 電車通学ってレベルが違う! このアイデアは面白かった。
  • 関西弁……意外に合ってるかも(冒頭シーンで見る側として原作を捨てたのは気分的に大きい。原作通りに、を期待してはいけないってことでもある)。
  • 細かいセリフ廻しで聞き取りにくい(かろうじて原作を読んでいたから分かった)ところがちょこちょこあって。特に「猫かぶり」ネタはこのストーリーの命とも言える重大なギャグのはずなんだけど、あれじゃ分かりにくいような。同じく俊介さんの「コトワザ」ネタも。言葉ネタはもっと漫画っぽくガンガンやっても良かったと思う。特にラスカル様(←違う)の戦闘シーンで炸裂したあのネタはテロップ入れるべきでしょう。じゃないと意味が分からない。
  • ラスカル様といえば、ラスカルとオスカルのネタ、本人が自覚があるっていう矛盾があったような。文句があるならベルサイユに……ってネタもちょっと空振り気味。コロボックルちゃん、オスカル様、ケンシロウ様ネタも。原作読まないと意味が分からないと思う。こういう所にこそVFXを使って、役者さんを派手にコロボックル化、オスカル化、ケンシロウ化するべきだったんじゃ……。
  • 三者三様の庶民ぶりで、パンプキンチェーンの話とか、俊介さんとかがうまく伝わってこなかった。あの家の広さと見せ方は良かったと思うけど。
  • シスターの聖書の写真→レズビアン→変態ネタは……どうかなあ……。戦闘シーンでの彼女の落差が面白かったけど、ネタとしていいかどうかはまた別かと。時勢を考えて怪しみ方のセリフを違うもの&演出にした方が良かったんじゃ。なんかちょっと滑ってると思う。原作だと同じ変態ネタでも浮いていないんだよなあ、このあたりは漫画がやっぱりうまい。変態と書いても人が傷つかない。
  • ぬいぐるみは原作へのオマージュなのかな? 今回、ぬいぐるみの彼は出てこられないし。っていうか、怪力を表すのにあのぬいぐるみで釣っての誘拐未遂ネタは話を分かりにくくしただけでは? 伏線? 原作でこうやってたっけ? 
  • 怪力になった、というのがそもそも原作でも唐突だったんだけど、一応「メンデレーエフ様のお力」という無理矢理な説明がついていたはず。「なぜか分からんがたき火の爆発で怪力になっちまった」というのをチキンラーメン様のお力でも何でもいいから、破天荒な理由付けが欲しかった。たぶん、チキンラーメンのシーンと怪力シーンの時間的な間が空きすぎていて、話のつながりに失敗しているんだと思う。その間に猫かぶりシーンが来ているんだけど。チキンラーメンのたき火→怪力化発覚→猫かぶり発覚、の方が構成的に伝わるんじゃ……。
  • たき火爆発シーンの演出(ストップモーション)って、もしかして「スウィングガールズ」のイノシシシーンのオマージュかなあ。考え過ぎ?
  • 戦闘シーン、ちょい長過ぎ。迫力と最後の展開は面白かったけれど。
  • ダミアンの甘党・不良犬設定が活かしきれていない。ただの「忠犬」になってしまっていて残念。原作は欲望が結果的に人を救ってじ〜んとする、みたいな流れだったんだけどなあ。たとえば、三人娘の誰か(かお嬢様の誰か)がチキンラーメンを何故か服に引っ掛けてて、それを泳いで追いかけた、とかの方が面白かったかも。この映画の中でのダミアンは単なる「甘い物好きな忠犬」である。そう思う方が正解かも。それ以外に彼が水に飛び込む必然性がない。前のシーンでお菓子をもらえずに追い払われていたりするわけで。三人娘をどう思っていたか、この場面では観客はわからないわけで。
  • ダミアンをCGで創ったのは正解。実写だったら浮くと思う。
  • 史緒さんの巨大化は……スゴかった。いやはや。まさか、あの制服のデザインってこのシーンをやりやすくするためのモノだったんじゃ……。あれだったらシンプルなデザインの方が動かしやすいし……。
  • お茶会のコスプレがちょっと変な方向に浮き気味。ヘアスタイルも含めて「仮装」だって分かりにくい服装。もっと仮面舞踏会っぽい浮世離れした感じの方が面白かったかも。
  • 原作を活かそう、というのと、映画としてまとめよう、というのと。多分脚本は大変だったと思うのだけれど……話の流れがもう一つ。ラストシーンのオチはスゴく良かったんだけど……ダミアンがMCだったというのが。猫かぶり、誘拐事件、アクション、VFX、お兄さんとの和解、お嬢様の理解……っていうのをいまひとつまとめきれてなくて残念。一つ一つのシーンはそれぞれなりにスゴく面白かったんだけれども……。
  • 最後のスタッフロールは気の利いた演出で、席を立つ人が全くいませんでした。ダミアン、イイ。


というわけで。以下はネタバレなし。
色々なサイトさんで書かれている通り、今作は「映画は漫画とは別物」です。そう思ってみてました。(川原泉先生の原作! って売りに出した広報の仕方はどうかと思うけど)
女優さんの演技は良かったと思う。特に上野樹里さんはさすが! と思った。表情もセリフ廻しも「スウィングガールズ」とは全く違う人物像で。当たり役がまた生まれたかな(あくまで映画版のこの脚本のキャラとしてだけど)。アクションもいいんじゃないかと。
役者の問題とかじゃなくて、演出と構成の方の問題で「伝えるべき言葉が伝わってない」のが残念だった。(細かいところがこぼれ落ちてるから重要な部分が伝わりにくくなっているし、ギャグやデフォルメが楽しめない)
せっかく少女漫画原作なんだし、VFXの使い方も相当漫画的だっただけに、ギャグな言葉の伝え方を漫画的にして(描き文字のテロップをもっと使うとか)も全然OKな世界観なのに、その辺を残念してました(それなりにはやっていたけど、もっと突っ込んでやった方がいい)。実際、ギャグで笑えた人は少なかった。レディースディでお客さんはかなり入っていたんだけれど(多分、大多数の人が原作を知っていそうだった感じ……)。原作の言葉尻を使ったギャグを、全く違う伝え方で魅せてくれたら納得できたんですが。この辺に中途半端さがあって。
VFXバリバリでデフォルメするならもっとしちゃっていいのに。徹底できた場面(誘拐犯とのバトルなど)はかなりおもしろかったんだけどな……。
ちなみに、VFXは見応えあり。誘拐犯戦闘シーンのとかはかなりキてました。映画公式ブログで技術面についてまとまっていました。(アップルストアでイベントやってたんだ……。行ってみたかったです。FinalCutも勉強する課題の一つだし……)


原作から離れるんだったら離れるで、ガンガン別モノ化した方が良かったのでは? ちょっとその辺の距離感が曖昧なところがあって。
狙い目的には原作の哲学性とかそこはかとない面白さよりも、基本的にはストーリー重視の構成かと。それならそれでいいと思う……けれど。回想シーンとか、VFXでの合成とか、個別の場面はかなり丁寧に創ってあっただけに、全体の組み立て・構成(伏線と回収とか)で大幅に損をしてしまっている気がしました。


でも、まあ。「笑う大天使」のお約束。
「Yunyさんもにっこり」で終わっておきましょ。
見に行って、それなりには楽しかったと思います。迫力満点でした。色々な意味で。
……それが川原泉作品の動画として当たっているかどうかは別とすれば……。