「歓喜の歌」試写会を見て来ました

来年2月に公開予定の映画「歓喜の歌」の試写会を見て来ました。
ある公共文化会館で、主任の手違いによりよく似た団体名の2つのママさんコーラスグループのコンサートステージがブッキングしてしまった。本番は明日の大晦日……、さらに主任自身が抱える離婚問題や借金問題、はたまた市長の金魚の世話問題(!?)も重なって……? はたしてこのコンサート、開催することができるのか?

公式サイトは
http://kankinouta.com/
です。なお、原作は立川志の輔さんの新作落語だという異色作でもあります。それだけに、全編コミカルに仕上がっていて楽しめました。ネタは多々散りばめられています。


しかし、これを音楽映画として見てしまうと……私の場合、洋画では「ブラス!」、邦画では「スウィングガールズ」という感動作を見てしまっているだけに、いささか「なんとか作りました」的な無理っぽさがちらほらしてしまって。
結末から言うと、コンサートはいろいろな手段を講じて開催してしまうのですが、指揮者って客席から見て左側(下手)から入場するものなのですが、なぜか上手から入場しているし。
それから、出来て1年やそこらの合唱団、しかも高校の合奏部のOGサークルといったような基盤があるわけでもない団体が、あれだけの曲を物に出来るかどうか、あれだけのメンバー数をそろえられる物なのか、かなり疑問ですし。
あと、ある事情で記念コンサートとして企画している団体が、急造り会場の音響変化について文句ひとつ言わないのも変だし、企画の変更に付いて鶴の一声で決めるにしても、「いいですよねみなさん!」の一言は絶対言うと思うのですが、言わないのも……。
それと、映画自体の音響も不自然な点がちらほらしていて。音がブツッと切れている部分もあります。ステージ袖で大声を出さないのは鉄則ですが、ある事情で主任はステージ本番を見られないのですが、その送り出しシーンでは大声を出しているし、このバックステージ部分に時間をかけすぎている気もしました。さらに、歓喜の歌のシーンは、伴奏に大嘘が入っています。映画をご覧頂ければ分かるかと思いますが、これは非常に「浮いて」聞こえました。映像通りにやるべきだったと個人的には。
さらに、ソロの歌い方が合唱や歌曲の歌い方ではなく、いわゆるカラオケの歌い方になってしまっているのが、非常に違和感がありました。
音楽的なこと、ママさんコーラスの実際をどれくらい研究してシナリオを書いたのかなあと。
気になったことの大半は、映像化にあたってシナリオをキチンと考えていけば解決できたことだと思うので。
ストーリー的にも終わっても回収しきれていない伏線もありますし……。


ジャンルものの映画の場合、そのジャンルをキチンと研究して、その上で「嘘」を描いてほしいと思います。
映像化するときって、どんなジャンルの作品にも必ず多かれ少なかれ「嘘」が入る物です。
例えば、演奏会のドキュメンタリーを作るとしても、前の方のお客さんを中心にアングルを入れるようにして、後ろの方のガラガラの客席を極力撮影しないようにすれば、どんなに閑古鳥が鳴いているステージでも、満員のような印象を与えることが可能です。
しかし、ステージ上で出演者が感じたことは、演奏している様子そのものが如実に語ってくれるし、インタビューとかでフォローすることもできる。そういったことは、映像が真実を語ってくれると言えるでしょう。


本作の場合は、合唱でのピアノ伴奏の位置、ステージの使い方など、細かいところもキチンと計算し、また、音楽はたとえステージ場の人が歌っているのではなく吹き替えでやっているのにしても、音の伴奏に嘘をついてほしくなかったですね。そのあたりはきちんと作り、その上で、現実ではあり得ないような嘘のようなものすごく馬鹿な展開や、キャラクターの破天荒さをやれば良かったのになあと。


落語って、扇子ひとつをお酒にもお箸にも見せなくては行けない、一種のパントマイムの世界です。だから、落語の話って全部嘘なんだけど、嘘と片付けてしまってはいけないような、真実の面白さがちゃんとある。原作は未見ですが、たぶん、原作の落語の方は、嘘をつくべきところと、真実であるところをキチンと踏まえた上で書かれているんじゃないかと。
でも、映像化するときは、映像というメディアでの嘘のあり方、真実のあり方って落語とはまったく違うので、そのあたりを履き違えないように気をつけなくてはならないと思うのですが……。
たとえば、主任さんの服装。きちっとしすぎている。ズボンにアイロンがかかっているのは、この主任さんの境遇を考えたらまずあり得ないです。服装をもっともっとだらしなく、あと主任さんの性格ももっともっともっとだらしなくした方が、後半のとんでもない思いつきによる大事業が引き立つと思います。どうしようもない主任さんのどうしようもなさが、ぜんぜん切羽詰まっていないんですよ。だからリアリティが無い。女性問題で飛ばされて来たんなら、もっとがくーーーーーーーーっとしている腑抜けの主任さんになっていていいはず。中途半端に人が良すぎる。
ほかの役にしても、この俳優陣なら、もっと無茶やっても良かったでしょう。
脚本が役者さんの力を引き出せていないのではないでしょうか。
それに、もうひとつのコーラスのリーダー、もっともっと嫌みで、歴史があるコーラスだということや市長のコネがあることを、もっと鼻にかけていて、もっと恨めるようなイヤなひとにした方が、後半、初心者の演奏に感動して……という展開で笑いも感動も取れたんじゃないかと。あんなに嫌な人だったのに、音楽ひとつでこんなにがらっと変わるの!? みたいな。
それと金魚の扱い。落語なら笑えますが映像であれをやってしまっては笑えません。落語=ファンタジー、映像=リアル、でもありますから。落語で想像上の金魚があんな扱いを受けるのと、映像としてナマナマとあんな扱いをされてしまうのでは、まったく違う重みがあります。金魚愛好家協会(?)からクレームがついても知りませんよ〜。
それから、本番まで時間がないということについての演出がほとんどなかったような……。このストーリー自体、今日発覚して明日ステージ、という流れにするのには無理がありすぎます。せめて1週間くらいの話にすれば良かったのに。例えば変な形の柱時計を定期的に出すとかして、今何時なのかを印象的に演出するという方法もあったはず。そのあたりの時間的な緊迫感についてもなにか欲しかったです。


というところで……100点満点で付けるとすると、45点。
シナリオの状態での細かいところの取材やツメが甘いです。
話の筋立て、道具立ては面白いだけに、荒っぽさが残念でした。
音楽映画として見に行くのはお勧めしません。


音楽もの、アマチュアの舞台発表ものでも、いろいろな点で「スウィングガールズ」は無茶を納得させるだけのパワーがあったんだなあ、と、つくづく感じました。この映画も無茶な展開自体は面白いのですが、それを観客が納得するには、いかんせんパワー不足でした。
それから公開時期も、大晦日の第九と言うことからして、12月公開にした方が話のテーマ的にぴったりきたかと思うのですが。2月だと結構厳しいのではないかと。


いずれにしても、もっと面白く出来た映画です。
小ネタの数々は笑えるし、基本的な筋は面白いだけに……シナリオの荒さが惜しまれます。


歓喜の歌」
2008年2月2日(土)シネカノン有楽町1丁目他、全国ロードショー予定。