こんな夢を見た

舞台は戦時中の農村の小学校、らしき場所。
国から出征依頼を受けたある少年がいた。
実は現実の太平洋戦争とは違って、その夢の中の戦争では、出征を断る権利もあった。
だが、少年は断る勇気もなく、人を殺す決意も出来ず、流されるままに出征を決めてしまう。
最後の授業を受け、先生から出征することになったと紹介され、学校を辞する夕暮れ。
少年には実は厳しく優しい姉上がいた。姉上は少年に問う。
本当にそれでいいのかと。断ってもいいのだよと。あんたには人殺しなんて出来ない、優しい子なのでしょう、と。
少年は出征依頼状を良く読んでもいなかった。ただ、来いという手紙が来たから、応じることにしたという風だった。実際には行きたくはないくせに。
自転車を走らせ、初めてきちんと読んだ出征依頼状の指示にしたがって、集合場所へと向かう少年。
しかし、内心は嫌がっていた。人なんて殺せない。
自転車が間もなく集合場所に着こうとするときだった。
ちいさな奇跡が起きた。
少年はテレポートして、学校の教室に戻っていた。本当はいやだったという気持ちが起こした、少年の潜在能力の発露だった。
気がつくと、いつも通りの授業をしていた。
しかし、違うことがあった。
少年の席は教室の最後部、右側にある廊下側から数えて二つ目なのだが。
そのさらに一つ左の列の最後部、教室には6つの列があったので、ちょうど中央列右側というところのクラスメイトが。
実は国から裏切り者がいれば射殺して良いという特権を与えられた存在だった。
彼の拳銃、なぜか西部劇に出てくるような手動で弾を込める丸いパイプ型の銃だったのだが。パーカッション銃かな……。
まあ、ともかく、そんな銃を、算数の授業中だというのに彼はひそかに構えた。銃口は少年へ向けて。
クラスメイトへの友情を取るか、国家忠誠心を取るか、迷う銃口が出した答えは……?


というところまでが、ある少年漫画雑誌の連載作品だった。
東日本大震災後の近未来の日本でのこと。
漫画雑誌社は国から全体主義的な表現をするように指導を受けていたが、表現の自由を守るために反発していた。
全面的に漫画家や原作者を匿い、面白い作品だったなら掲載しなくてはいけないし、掲載する以上は会社のルールに従って印税を払うけれど、どこに彼らが住んでいるかまでは関知していない、だから作家の皆さんの個人情報の提供には応じられない、と、国からの再三の要求を突っぱねていた。
実は編集部では、ひそかにSkype等で漫画家や原作者を社に呼び出しては、打ち合わせの場所を提供していたのだが。
先ほどの漫画は、志に燃える原作者と漫画家の合作だった。原作者は、少年漫画にはタブーに挑み、束縛感を打ち破るカタルシスが必要だというポリシーを持っていた。現実の作品では『ワンピース』などが良い例だ。あのゴムゴムのパンチで、いくつもの束縛をたたきやぶってきたからこそ、現実の少年少女だけではなく成人諸氏の支持を受け、あれだけのメガヒットになった。
漫画家は、少年の心に届く繊細な心理描写に定評があるタイプの作風が持ち味だった。『電影少女』に近い雰囲気だろうか。
一見、両極端に見えて、しかしだからこそ面白い二人が手を組み、その漫画雑誌を牽引する連載作品になっていた。
そして、次回の掲載に向けての打ち合わせの日。漫画家と原作者をまとめてきた担当編集者がいつも通りに話しあいのテーブルに着く。しかし、彼の背広の内ポケットには、ひそかにあのタイプの銃が仕込まれていた。国家指令に逆らうような作品を潰すため、国から命令を受けたのだ。
雑誌人としてのポリシーを取るか。命令を取るか。
さあ、どうするか……。というところで、目が覚めた。


今朝、本当にこういう夢を見てしまったのだから、仕方がなく文章にまとめている。
震災以来の「頑張ろう日本」的なムードは、この国家の危機としてけっして悪いものではないのだが……全体主義になりそうな危機感、反発しにくい雰囲気を感じて、何となく心の中の何かが警告しているんだよね。


自分なら、あの銃は、2回とも撃てないだろうなあ。
自分なら、それくらいなら自分を撃つだろう。別にかっこいいもんじゃない。単に、現実に絶望してしまうだろうという、情けない理由からだけれど。
まったく撃たず、国に対して反発する、という選択肢もありうるんだけれど、そういうことはしないんじゃないかという気がする。ほんとうはそういう姿にあこがれているくせにね。