ざ・ちぇんじ!

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

月の輝く夜に (花とゆめCOMICS)

月の輝く夜に (花とゆめCOMICS)

読了しました。
この空気感、懐かしいなんてレベルじゃなかったですね。
『ざ・ちぇんじ!』で、綺羅中将の失踪直前、帝に「時々、姫として育ちたかったと思います。今となっては、それも夢ですが……」と言い残すシーンの雰囲気って、『月の輝く夜に』に通じるモノが。波乱万丈だけではなく、こういうしっとりした感じもまた氷室冴子さんで。
『ざ・ちぇんじ!』を読みながら、アタマの中ではちょこちょこ山内直美さんの漫画版がアニメ状態で勝手にフラッシュバック。たとえば小説には描いていないけれど、宇治で弟君と再会した綺羅中将は、あばら家から紫水晶の数珠を大切そうに持っていったはずだし(失踪時に持ち出すと決めた描写は小説にあるから)。
そういうところを漫画ではフォローしていたり。
改めて、このコンビでのビジュアル化は大正解にして大成功だったんだなあって実感しました。
漫画文庫版『ざ・ちぇんじ!』もやっぱり買おうかなあ。友人宅で何度読み返したか分からない作品ですけど。原作の良さを生かしつつ、どうマンガとして面白くテンポ良くアレンジするかの好例ですよ。歴史モノの漫画化というだけじゃなくて。
たとえば、小説だけでは少し分かりにくかった「脇息を倒して枕にして居眠り」って、これ、ドラえもんのび太くんが座布団を枕に昼寝と同じ位のニュアンスで『ジャパネスク』『ざ・ちぇんじ!』でよく出て来るんですが、漫画版で初めて理解できたり、とか。まあ、お行儀が悪い行為ではあるので、プライベートタイムじゃないとやれないみたいですけれどね。
小説で充分に面白かったのに、漫画でさらにテンポ良くわかりやすくなったので、両方とも本当に成功作だったんだと思います。それは氷室冴子さんの平安モノ最後の作品である『月の輝く夜に』でもそうで。また、『ジャパネスク』『ざ・ちぇんじ!』とは異なり、漫画版でセリフがあまり変わってないのも特徴かと。
月の輝く夜に』はコバルト誌上で読んだことがあります。あんまりしっとりし過ぎてるので、正直なところ、当時はよく分からなかった作品でした。私の中では氷室冴子作品は波乱万丈。いつもとは真逆な気がして。
でも、今、読んでみたら、かなわない思いが迫ってくる感がドロドロで。むしろ平安時代人のリアルってこっちだったのかなあと。瑠璃姫や綺羅中将みたいな、分かりやすい波乱万丈さよりは、心の中の嵐に耐えて生きていたのかなあと。
残りの短編作品『少女小説家を殺せ!』と『クララ白書 番外編 お姉さまたちの日々』は、昭和のコバルト文庫の香りがしました。両方とも他作品の番外編ですが、未読でも問題は全くありませんね。私自身『少女小説家は死なない!』や『クララ白書』を読んだことがないのですが楽しめました。特に『少女小説家は死なない!』は、業界が近いせいか藤本ひとみさんの『マリナシリーズ』初期に空気が似ている気がしました。当時はこういう小説がブレイクしていたんでしょうね。


読み返して思うに、瑠璃姫と綺羅中将はやっぱりスーパーヒロインでした。
ない道を切り拓く胆力と、矜恃と美と優しさがありました。
氷室冴子先生には、改めて感謝でいっぱいです。

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