アタックNo.1読了。

集英社SGRバージョン「アタックNo.1」の最終巻を購入。全4巻を読破しました。
話のテンポの良さに思わず引き込まれ、一気に読んでしまえます。それにしても、思っていたよりも話は短かったんですね。キャプテン翼スラムダンクなどで1試合が長いスポーツものに慣れていたせいか、このテンポの良さは新鮮でした。やった試合数は相当なモノなのに、長く感じないのは適度にカットした展開によるものでしょう。今のマンガでこれをやってウケるかどうかは分かりませんが。
最初こそ昔の少女漫画にありがちな長いまつげに違和感があったものの、だんだん慣れてくるから不思議です。こずえはいいとして、みどりの顔は時々ちょっと怖いですけど。


それにしても、友情・努力・勝利の某J誌のノリに慣れていると、こんだけ主人公のチームが肝心な試合で勝たないスポーツマンガというのが名作として成立していたことに驚きます。
こずえのチーム(主に富士見)は、結構負けています。全国の決勝とか、練習試合とか、いろいろと負けています。
しかし、負けて得たもの(言ってみれば失敗学)により、彼女と仲間たちは成長していきます。そして次の試合には勝っちゃったりする。大阪寺堂院の三位一体やイナズマ攻撃の弱点を、負けたが故に徹底研究して次は勝ててしまったり。その次の試合こそが更なる問題になっていたりと、ハラハラドキドキして読んでしまいました。
根性主義を肯定する訳ではありませんが、負けたときに心の芯まで折れてしまったら本当に負けなんだというストレートなメッセージは力強いモノがあります。この辺、スラムダンクとも相通ずるところ。(スラムダンクでいえば「あきらめたらそこで試合終了」って。)
ただ、無茶な負荷をかけたり、長時間練習するのだけが上達の近道だとは思いませんが。どこを良くすればうまくなれるか、常に考えながらの練習をしなければ。


ここから先はネタバレなんで、一応「続きを読む」記法を設定しておきましょう。強引ですが、キャプテン翼ワールドユース編の終わり方とアタックNo.1を比較してみます。
このマンガが失敗学の参考書と思われるのは、結局最後の全日本代表対ソ連(今のロシア)戦で、日本は惜しいところで負けてしまうことです。
たいていのマンガなら、おそらく主人公のチームの最終戦なら勝たせます。


終戦でスーパー秘密兵器のシュレーニナが出てきて「日本の鮎原」をかき回すあたり、キャプテン翼ワールドユース終戦を思い出しますが(たしかロスタイムギリギリ?でブラジルの秘密兵器「ナトゥレーザ」が出てきて日本とやりあった)翼は勝ち、こずえは負けた。
負けたけれど、こずえは大会MVPをもらう。しかし素直に喜べない。やはり、勝ってもらいたい。そして次の大会(ミュンヘン五輪)を目指して戦い抜くことを誓う。


一方。翼の場合は最強最後のライバル、ナトゥレーザに、おれが負ければきっともうキミは出てこないんじゃないか、というような確信を持つ。だからこそ勝って戦い続けたいと思った。そして2段オーバーヘッドという神技を決めてVゴールした。(この言葉の通り、ナトゥレーザは翼を追ってスペインリーグへ行く訳ですが)


ここで見るに、再戦の決意の持ち方というのは2つに分けられます。
こずえやナトゥレーザのように、負けて持つ決意と。
翼のように勝ったからこそ次も勝ちたいと思う決意と。
某J誌の場合、主人公が負ける終わり方は基本的に許されないという事情もあり、(それを鮮やかに破ったのがスラムダンクだと思っていますけれど)翼は最後にVゴールしましたが。
こずえのように「でも これでおわったのではないわ(略)日本にバレー王国をよみがえらせるまで 長い けわしい道だろうけど その道をいまわたしは スタートしたのよ」*1という終わり方もある。


試合的に見れば、総合力に勝るソ連と、新人高校生エースの鮎原こずえに頼りすぎた日本との実力差ということになりますが、作中でチームを完成させない終わり方をすることで、まだ先があるということを考えさせた。こずえほどの選手でも、執拗にマークされた故の体力不足を最後に露呈して負けた。
魔球だなんだとかなり現実離れしたスポーツマンガであることは「翼」と共通していますが、大事な試合に負けるということで「どうすれば勝てるか」を読者にも考えさせる力は、「翼」よりもアタックNo.1の方が上じゃないかと思いました。負けるということは、それだけのインパクトがあるのです。


コレだけの長編マンガで最後は負けで終わらせるのは、作者として勇気が必要だったろうし、編集部も多分反対したんじゃないかとかよけいなことを考えてしまいますけど。
最後の最後でソ連が手を出せない魔球を編み出しても、基本的に足りないモノ(体力)があったから負けた。このことにメッセージを感じてしまいました。このまま都合良く勝ってしまったら、ここまで考えさせる読後感を得られたとは思えない。こずえはシュレーニナに勝って、ソ連には負けた。しかしそれでいて、読後感がくやしくないのは、次につなげる描き方をしたせいでしょうね。


読者に「きっと次は勝てるはずだ」と信じさせる。それができたことが作者の勝利だったんじゃないかと思いました。なんだかんだ言って主役が勝つマンガに慣れていた身には新鮮でした。


なお、「アタックNo.1」は現在ドラマと、新解釈でのマンガ連載が始まっています。
こちらの行く末はどうなるか全く不明です。

*1:アタックNo.1ラストページのこずえの台詞より。