エスカレーター歩行の是非。

先日、もう一つのブログ「エスカレーターで片側を通るのはマナーか? - Yunyの{まんぱわぁ遠眼鏡} - 人力検索改善グループ『はてなネクスト』」で書きましたが、いま人力検索はてなでも問題提起されている『駅エスカレーターでの駆け降り・駆け上り問題』について、わたしも駅を利用する度に考えています。(先ほどの記事で、質問についての感想、および、ある駅の現状取材記事を書いています)

主な論点

  • 駅のエスカレーターでは、片側に寄り、急いでいる人のために道を空ける暗黙のマナーがある。(一般に、関東では左寄り右空け、関西では左空け右寄りらしいが、駅によって異なることもあるらしい)
  • しかし『片側に寄る』こと自体ができない場合もある。歩く人がこのような人に気がつかずにいった場合、接触・転倒も考えられる。そうなることを恐れて、止まって乗っている側が無理をして片側に寄ると、不安定になってむしろ危険ではないだろうか。*1
    • 子ども連れ。子どもは中央にのせて保護者がベルトをつかみ、子どもと手を繋ぐのがよい、とどのエスカレーターでも掲示されている。
    • 体に障害があり、寄り側のベルトをつかめない場合。(左を空ける地域で右側が半身不随など。この場合左にしかつかまれない)
    • 荷物が多く、段の前後に置くとかえって危険な場合。
    • その他、けがを治療中だったり、子どもやお年寄りなど、両方のベルトをつかまないとバランスがとれない場合。
  • 社団法人日本エレベーター協会(エレベーターやエスカレーターの業界団体)東京消防庁・「エスカレーターに係(かか)わる事故防止対策検討委員会」では、エスカレーター上での歩行そのものを避けるべきだと呼びかけている。
    • バランスをくずし転倒、また乗客が多い場合は他の利用者に接触して押し倒すなど思わぬ事故につながる恐れ(社団法人日本エレベーター協会
    • 「手すりをつかみ、歩行は避ける」「高齢者等に配慮した利用を心がける」(「エスカレーターに係(かか)わる事故防止対策検討委員会」2005年3月の提言)
  • 二列に並んで多くの人が一度に運ばれた方がかえって効率的という指摘も。(歩く側、止まって乗る側、それぞれに無理に分かれようとしてかえって並ぶ時間がかかることもある)
  • 一方で、このマナーがかなり定着していて、エスカレーターの片側は必ず空けるものだというコンセンサスができつつある。片側を上がれるのは急いでいる人の暗黙の権利だと。このため、どんな理由があろうとも道を塞ぐとトラブルのもとになる。
  • 交通機関では「エスカレーター内の歩行は、思わぬ事故のもとになりますので、ご注意いただきますようお願いいたします」(都営地下鉄の場合)などと『利用者の良識に委ねるような注意事項』にとどまり、歩行の禁止はしていない。階段や通路の場合は「右側通行」などと掲示があるが、エスカレーターの場合はあくまで並び位置は慣習に依存。こういった意味で徹底した呼びかけは行っていない。
    • 駆け込み乗車は多くの交通機関で禁止事項として呼びかけ。
    • 車内での携帯電話は「優先席付近では禁止、それ以外ではマナーモード」という各社共通の呼びかけになっている。

私の疑問点

  • 安全性
    • エスカレーター上での歩行は、動く足場の上で人とすれ違い続ける環境、しかも段差は高く、通行できる幅は狭い。素人考えでも絶対に危険と断言できる。
    • 歩くことによる振動や衝撃でエスカレーターが壊れやすくなる心配はないのだろうか。
  • 効率性
    • 大きな駅のラッシュ時など、前から順にどんどん2列に並んで乗った方が速そうだが、実際には歩く人・止まって乗る人に分かれようとしてかえって混雑している。非効率では?
  • ひっくり返ったバリアフリー
    • 本来、バリアフリーの観点からエスカレーターは設置されている。輸送の効率化のためもあるが、基本的趣旨は階段を上がるのが困難な方のためであり、その点で駅のエレベーターと設置意図は同じと言える。エレベーターでは「体が不自由な方や子ども連れなどを優先」するマナーがあるが、なぜエスカレーターでは子どもや身障者が事故に遭うような危険な歩行が「当然」になってしまっているのだろうか。おそらく、そういった方から見た視点が健常者に知られていないことが大きな問題と思われる。
    • エスカレーターの上を歩くのに支障がない人が大勢を占める。
    • 多くの人が、急ぐ場合は歩いて使った方が「誰にとっても便利」と「なんとなく」考えるように。そこから歩行と片側空けが定着。
    • 歩くのに邪魔な乗り方は「マナー違反」とされてしまう。

利用者意識

さらに突っ込んで考えてみると、エスカレーターを利用する人の意識の中で、エスカレーターという機関に対する目的意識・観点・利用意図といったものがまるで異なると思います。同じ人でも、止まり乗り・歩き乗りのそのときの目的の違いでこのように思っているのではないでしょうか?

  • エスカレーターに止まって乗る人の意識
    • 階段を上がらず、エスカレーターに運んでもらう。
    • エスカレーターは楽に上に上がるための乗り物である。
  • エスカレーターの上を歩く人の意識
    • エスカレーターは動くが、自分の足で行くという意味では階段と同じである。
    • エスカレーターは加速式階段である。

だから、この二者の間で議論するとどうしても平行線になるのです。
ですから、根本的に解決したかったら、「止まり乗り用エスカレーター」と「歩き乗り用エスカレーター」の2基を用意しないと駄目だと思います。施設的にも非現実的ですし茶番のようですが。

解決策私案

  • (社)エレベーター協会や鉄道交通機関各社が話し合い、携帯電話の時のように共通見解としての安全なマナーを打ち出す。エスカレーター上での歩行は危険であると分かりきっているならば、禁止事項として呼びかける。
  • 個人でできること
    • 急ぐときはエスカレーターでなく階段を。
    • 子ども連れ、体に障害、大きな荷物があるときなどはできるだけエレベーターで。
      • 残念ながら、そういった方のための設備であるにも関わらず、現状では場所によっては危険であると言わざるを得ません。エレベーターの方がまだ安全。(設置箇所が不便だったり、そもそも未設置の駅も多いですが)
    • 急がなくても良い余裕のある生活を心掛ける。
      • そもそも誰もが急がなくていい世の中だったら、エスカレーターも普通に乗れるはず。「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」(昔の交通安全標語


なお、わたしはあの質問をきっかけに、急ぎの場合は階段を利用するように心掛けはじめたところです。やってみると時間的にも体力的にもエスカレーター歩行とたいして変わらず、もしも転んでもエスカレーターのように前後左右の人に迷惑をかける心配が少ないので気楽ですね。また、自分の足でしっかりと階段を行くことが、心身にもたらす良い効用も注目点です。
ともあれ、人によけいな迷惑をかけないことが、自分を護ることにつながるのではないでしょうか。もし良ければ、20分くらいお近くのターミナル駅などで、エスカレーターでの人の様子を観察してみて下さい。客観的に見て大変危険であることがよく分かると思います。

2005/10/06追記

2004年12月末に、名古屋市営地下鉄エスカレーター上では歩行禁止にするため、名古屋市議会にて討議されたそうで、そのころにほかのブログでこの問題が話題になっておりました。以下、ご参考まで、リンクを掲載しコメントと、トラックバックを送らせて頂きます。

歩行賛成の方
  • http://gotin.shiftweb.net/blog/archives/001444.html
    • http://gotin.shiftweb.net/blog/archives/001444.html
      • 「なんでそんなことまでわざわざ議会にかけるのか」というようなご趣旨ですが、市営地下鉄の方針だからこそ、市議会で方針を決める必要があるのだと思いますね。私鉄ではないので。
  • http://d.hatena.ne.jp/sosna/20041228/1104246120
    • http://d.hatena.ne.jp/sosna/20041228/1104246120
      • 新宿駅では歩行禁止を強制したら大混乱に陥るだろう」とのこと。新宿駅クラスの「急ぐ人/ゆっくりな人」の差異が激しい場所だからこそ、事故を防ぐために明確なルール付けが必要だと思います。(「みんなが右側空けだと思っているという思い込み」のまん延状態と、なにか明確なルールがあるというのとでは、事故につながる可能性の高さがまるで異なると思います)現状、「歩行はご注意下さい」程度でルール的なものがないのが問題です。私は歩行禁止(というより、新宿クラスでは走行する人が多いので走行も禁止)にし、急ぐ人は階段に行ってほしい。新宿のエスカレーターは本当に恐いです。下りだと、側背面から重さ60Kg高さ180cmの石が連続して降ってくるような感じすらします。
  • 遊ぶろグ-気になるニュース
    • http://wani.blog2.fc2.com/blog-entry-17.html
      • エスカレーターもより早く上り下りする物」だとのご認識。人によってエスカレーターに求めている物が違うということがよく分かります。私は「エスカレーターは楽に上の階へ行くもの」だと思っています。
  • http://homepage3.nifty.com/shinkaisoku/kimagure/escalator.htm
    • http://homepage3.nifty.com/shinkaisoku/kimagure/escalator.htm
      • 普通のHTMLファイルでトラックバックが送れないのでご紹介にとどめます。「ネットでは歩行賛成は少数派」とのことですが、現在、google検索では反対の方のご意見を探すのに苦労しています。「(エスカレーターはもともと)階段の上り下りをスムーズかさせるためのもので、歩いて乗るのが普通」とは初耳です。歩くには段差が大きすぎると思いますが真偽が知りたいところですね。その他全文拝読しましたが長いので……末尾について一言。「片側を空けると言う文化は歩きたい人と立ち止まりたい人にどちらも反対意見を強制しない優れた習慣」(その前の部分でエスカレーターの幅は2列になるのに十分に安全なスペースがあるとしている)としていますが、大荷物などで一人で左右分の幅を使いたい場合を無視しているように思います。
歩行反対の方

2008年12月9日にバナーを作成してみました。


もし、趣旨にご賛同いただける方がおられたら、ご自由に以下のHTMLソースをお使いください。

<a href="http://d.hatena.ne.jp/Yuny/20051005/p1" title="エスカレーターの上を歩くのはやめよう!!" target="_self"><img src="http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/Y/Yuny/20081209/20081209095959.gif"  alt="エスカレーターの上を歩くのはやめよう!!"></a>

2009年2月23日追記

「コトノハ」にてエスカレータ歩行の是非を議論中のようです。一見の価値あり。
それにしても、最近は小学校にまだ上がるか上がらないかの子どもがエスカレーターを駆け上がったりしていて、保護者たるオトナが注意しないのも気になります。むしろ、親が一緒に駆け上がってたり……。いい加減にしてくださいよねぇ。しかも、立っているオトナの脇をすり抜けるようにして駆け上がってたりするもんですから、かなりヒヤヒヤします。他人の子どもでも注意するべきなのかな、やっぱり。事故ったら迷惑なのはもちろんこっちだし。
子どもの頃からそういうクセが着いていると、駆け上がっていいと思ったまんまオトナになってしまうでしょう。オトナは本当はいけないけど急いでいるから駆け上がる。子どもはオトナが駆け上がっているから盲目的にいいんだと思って駆け上がる……。これじゃ、エスカレーター事故が増えても仕方がないような。
都営地下鉄など、公共性の特に高い交通機関が早いところはっきりとした見解を出したりして、私鉄各社につないでいくようにして欲しい。
女性専用車両(これは男性専用車両もあるべきだと私は思いますが)が一般化したように、これからハードウェア的な意味でのバリアフリー化は進んでいきますから、ソフトウェア的な……マナーやルールにおいても、もっと徹底的に対策されてしかるべきだと思います。安全な駅のためには、電車の運行もさることながら、安全なエスカレーター運用が出来ていて当たり前です。
たとえばの話ですが。都営地下鉄新宿駅新宿線大江戸線)の朝ラッシュ時のエスカレーターが安全な運用が出来るようになったら、首都・東京の朝の交通事情が変わるきっかけになると信じています。都営新宿線新宿駅京王新線と乗り入れているため、2社で運用している複雑さがあり、利用者も多いのです。また、都営大江戸線新宿駅もそうですが、地下深くを通っているため、ほとんどの駅で長いエスカレーターを設置しています。この2路線の2つの駅ホームで、安全で、かつ効率的な輸送の、走らないエスカレーター運用が実現されたら、そのノウハウは他の駅で利用できるのではないでしょうか?

*1:2005/10/05 16:45 記)この行、文意がうまく伝わりにくい文章だったので修正しています。意味は同じです。