音楽劇『ガラスの仮面』を楽しんできました

さてさて、ガラスの仮面がまた最近連載再開していますが、それに合わせてか、今度は舞台化されてもいます。
2階最後列の中央席という、ある種のベストポジションを確保。久しぶりにお芝居を楽しんできました。
ミュージカルほど音楽の割合が濃くない「音楽劇」という趣向での舞台化。そして演出はあの、蜷川幸雄さん。マヤ&亜弓はオーディションで配役。月影先生夏木マリさん。いろいろと試みが多い舞台なので、楽しみにしておりました。


で、内容は……ネタバレがもったいない気がするのですが……。ガラかめの熱さが本当に最後列まで伝わってくる熱い舞台でありました。群舞がかなり盛り込まれていて、これでこそアクティブな演劇だなーと。完璧に揃っている訳ではない(腕の角度とか)のが、かえってパワーになっている。特にそのあたりを感じたのが、最初のオープニングと、あと4つの言葉での演劇バトルのシーンですね。はい、いいえ、ありがとう、すみません、のアレ。


話的には最初のラーメンの出前時代〜つきかげの一般投票第一位&失格&引っ越し、までです。本当に序盤まで。
ラーメンの出前を月影先生の家に持参したマヤが、いつの間にか稽古に引き込まれて行くところの構成は見事でした。テンポがいいし、無理がない。大和田美帆さんは本人の境遇的には亜弓さんに近いものがある(あの大和田獏さん&岡江久美子さん夫妻の娘さんだし、役者キャリアも積んでいる)のですが、演技素人の演技からしっかりできていたなあ……。自分で楽器吹いていると分かるんだけれど、わざと初心者時代の音を吹け、とかいわれたらかなり難しいものがあります。


マンガ序盤のマヤというと、実の母親と自分の意志で別れて、演劇の母親のもとに本当の意味で飛び立つシーン……あの親子ケンカのシーンが印象的です。「お前はだまされているんだ、女優になんてなれるわけがない!」「わたしは女優になる!」こうして舞台で生でみているとわかるけれど、これ、双方の主張が正しいんですね。両方とも。もちろん、月影先生はだましてなんかいないけれど、それを差し引いても自分の娘が女優? とか言われたらピンと来ない母親の方が大半だと思う。可愛いと思っているだけだった子どもが、いつの間にか自立しようとしはじめているわけだし、唐突だからうけいれられない。でも、マヤはマヤで、自分の道だと信じる物をみつけてしまい、実感もしてしまった。この感覚、説明して分かってもらえるものかどうか……。マヤは幸か不幸か天才に生まれてしまい、それからその天才をのばすことができる師匠もみつけてしまった。天才と狂気はあるところでは同じ意味になると私は思います。周りからある意味で理解されなくても仕方がないところもある。だから、ケンカ別れをするしかなかったんですね。親子なんですが……。それに、このシーンが漫画化された当時より、今の方がこの種の問題は深刻かもしれません。子どもから独り立ちできない親がいかに多いことか。モンスターペアレンツ、モンスターティーチャーの問題は、子どもの自立を信じることができない親/教師の方に根がより深いと考えています。夏木マリさん扮する月影先生は、そのあたりをよく分かっていて、子どもの取り柄を信じることができた。もちろん、賭けなんですが、子育てって、ある種の賭けでもあるんですね……。


さて、あの全国大会でマンガではオンディーヌが何を演じたかを覚えていないのですが、音楽劇では亜弓さんが「サロメ」の「七つのヴェールの踊り」(多分そういう想定、生首置いてあるし)を披露します。亜弓さん役はコレが初舞台というものの、6歳からクラシックバレエを続けて来た奥村佳恵さん。まだまだセリフまわし(特に語尾・文末)に難があるし、早口になりすぎるきらいがありますが、踊りに関しては見事でした。これこそ亜弓さん。彼女の「ひとり芝居ジュリエット」も見てみたかったなあ……。


また、劇団一角獣のみなさんのパフォーマンスは、芝居に笑いをもたらしてくれます。ラテン系にアレンジされ、ものすごく良く跳ねる人たちです。一角獣の本当の舞台を、一度見てみたいですね。


しかし、演出の中に一つだけ違和感を感じたことがあって、それは観客の反応を、さいたま芸劇に来ている本当のお客さんにゆだねて欲しかったなあということ。効果音として観客の熱狂が入っているところがちょこちょこあるんですが、あれは……この演出なら要らなかったと思う。本当のお客さんが、どう反応していいか分からないところが出来てしまった。変な言い方だけれど、ガラかめを見に来ているお客さんをもっと信じて欲しかったなあ。



夏木マリさんの月影先生の牽引力(主役は彼女かもしれない!)、作中のイラストを使った演出方法や、リアルな雨とその後始末の見事さ、ラストシーンのことなどまだまだ書き足りないことがいろいろありますが、ちょっと時間がないのでコレくらいで。
マンガの中で、ときどき客席の反応が出てくるコマがありますが、あれの気持ちが少しわかった気がします。
ガラかめの読み直しは一日つぶしてしまうので、今は出来ませんが、近いうちにやっておこう!
情熱は嘘をつかない。
どこでだったか、作家の日向章一郎さんがガラかめについてこういうことを書いていた記憶があります。
……この作品では見逃してはならない大事なことがある。情熱の大肯定ということだ。
本当に熱いパワーを、ありがとうございました。

追記

蜷川さんの演出がどんな感じだったのかを記した日記を見つけました。演劇の経験者か観劇慣れされている方なのか、非常に適切に分かりやすく書かれていますので、勝手ながらkamuroさん、トラックバックさせていただきます。
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