『魔女の箱庭』(紫堂恭子・作)を読みました

平和ですが閉ざされた村から脱出する話…らしいので、紫堂恭子先生流の『進撃の巨人』かな……とちょっとだけ思ってしまいましたが、全然違う話なので安心しました(そりゃそうだ)。
漫画に出てくる食べ物をめちゃくちゃ美味しそうに描いてくださるのはこの方の毎度のことなんですが! あー、今作も美味しそう……。写真より美味しそうなんですよね、ほんとに。デビュー作の『辺境警備』の頃から、あのめっちゃくちゃ大きなスフレオムレツとか、タルトパーティのとか、ホントもうクラクラするくらい美味しそうで。
で、そんな美味しそうなものいっぱい。今年もたくさんのベリー類が収穫できたという、とある平和な村。
そこの中学生くらい(勉強している数学の内容から)の女の子、レイラ。オシャレに興味があるちょっとドジな普通の女の子、なのですが。
この村の「外に出てはいけない」という昔ながらの伝説に疑問を持つように。
ある日、外壁のあたりで外の世界をあれこれ想像していると、独り言が大きかったせいで外壁の外から声を掛けられます。どうやら空腹の猟師らしいので、食料と水を投げて提供したのですが、このことがきっかけで外壁を超えてしまうのです。すると、村が大変なことに…。
不思議なのは、ここまでの閉鎖環境なら人口増加でいずれあふれてしまうのでは? という問題。どうなってるのかな、その辺。
レイラが体験した、村崩壊イベントのループの謎もこれからなんだろうなあと。
今後の展開が楽しみです。
それにしても、紫堂恭子先生の作品が続いていて良かった。『辺境警備』の世界の後継作がこのところ何作品かあったのですが、最後、ちょっと駆け足っぽかったので。私にとって、ずっと描き続けて頂きたい作家さんの一人です。
美味しい食べ物もですけど、闇の存在が正しく闇として現れるこの作風、やっぱりいいですねー。
かなり前の作品ですが、『癒しの葉』は本当に素晴らしい作品でした。自分を苦しめる自分との和解というテーマからは、当時、学ぶところ大でしたね。あの、作中最大の闇の存在の恐ろしさといったら! そんな怖い絵もあるのに、アジン(『癒しの葉』のコミックリリーフ的存在)のぷくぷく感との落差とか……。
完結はしませんでしたが、『エンジェリック・ゲーム』(湾岸戦争後のアメリカを舞台とした現代劇、未完)で言われていた「戦争はビジネス」というセリフには、当時、大変な衝撃を受けましたが今でもそういう側面は大いにあると思えてなりません。特に、ウクライナとロシアのことを思うと。あの作品、完結したとしたら、どういうオチになったんだろう。
新型コロナ禍でウイルスが怖かった時には、電子書籍版であらためて『ブルー・インフェリア』を読み返しました。ある理由でほとんどの人類が死滅した近未来の地球を舞台にした海洋冒険譚です。
通底するのは、人の温かさと闇をしっかりと絵で描いておられるということかなあと。質感というのか、絵の解像度がものすごいんですよ。生原稿を拝見したことはないんですけど、きっとすごいんだろうなあ。その絵に立脚したシナリオがまたすごい。
ドラマチックなファンタジー、例えば『指輪物語』や『はてしない物語』が好きな人におすすめの作家さんです。
本作は「ミステリーボニータ」連載だそうで、いい雑誌に巡り会えて良かったなあとも。本誌にはキャリアが長い少女漫画系の作家さんがじっくりと新作に取り組まれているイメージがあります。新人オセオセ、アニメ化上等! の雑誌ばかりでなく、こういう場所も必要でしょう。ファンタジー世界で不思議なことが色々起きる紫堂恭子先生の作風にもあっていると思いますし。
ただの読者に過ぎないのに何を書いてるかよくわからなくなってきたのでこの辺で。それにしても、作中のパンケーキやっぱり美味しそう……(食べ物オチ)。