三条陸 HERO WORKS

ダイの大冒険』『冒険王ビィト』の三条陸先生が、最近までの全仕事をまとめた単行本を出されました。
上記から試し読みができますが……ここまで無料で読めていいの⁉︎ ってなるテキスト量!
この本ばかりは電書より紙で欲しくなってしまい、書店で買ってきましたが。
紙の本で読んでから検索機能も欲しくなって結局両方買うという……。
紙の方がレイアウトが凝ってたり、カバー裏の仕掛けとかもあって面白かったのですけども。
それにしても、ジャンプだけじゃなくて本当に多くの仕事をされている(別名義も多い)方なので、放送局や出版元の垣根を超えてよくまとめられたなあと。
それに、改めて『ダイ』が面白かった理由も少しわかりました。
緻密にしっかり計算されていること。例えばキルバーンの正体とか、かなり早い段階で決めてあったらしいです。
かつてのさまざまな作品の面白かったエッセンスを『ダイ』世界にアレンジして散りばめてあること。たしかにあの鬼岩城編は、確かに言われてみればバトル漫画というより特撮映画でしたし。ゴジラとかそういうものを彷彿とさせますよね。
そして、稲田先生のしっかりと立体感のある構図の理由も、少しわかった気がしました。彼の脳内に立体的にシチュエーションがしっかり見えていたようでして。
わたしが思うに、その才能が序盤で一番分かりやすいのは、ポップ対クロコダイン戦ではないかと思います。ダイの育ての親、鬼面道士ブラスはアバン先生がマホカトールの魔法陣で結界を張ってくれていたデルムリン島の外に連れ出され、ただのモンスターになってしまいました。ブラスを人質兼手下としさらに力で押してくるクロコダインに対し、ポップはダイのためにブラスじいちゃんを守る手段を思いつきます。それはマジカルブースターの杖の魔法石をクロコダインの鎧で砕き、破片をブラスじいちゃんの周辺に5つ星の形に飛ばして魔法陣とし、賢者の魔法マホカトールを魔法使いの自分が使うという奇策でした。
この作戦、難しい説明が無くても絵と構図がしっかりしているので、子どもにもわかりやすいんですよね。戦闘中の構図をしっかり描ける人でなかったら、イマイチ伝わりにくかったかもしれません。
で、ここにこういうふうにモノがある、というのがしっかり描写できているから、多分、アニメ化しやすかったんじゃないかなあ…。アニメでは漫画にはない別の角度の構図で同じ戦闘を描くことも多々ありましたが、元の絵がしっかりしていれば、状況描写が崩れることはないわけで。
いつだったか『月刊少女野崎くん』で、合コンでの座り席の描写がしっかりしておらず、コマによってコロコロ変わる漫画がネタにされていましたが、そういうことは稲田先生の作品ではありえないわけです。
だから『ダイ』『ビィト』は漫画として説得力がある。さらにヒーローエンタメを幼少時から知り尽くした三条陸先生のシナリオが強い。
そしてキャラクターが良い。例えばクロコダインのキャラデザは本職の方の手が入っているそうですが、そのデザインの変遷も載っていました。三条先生のやたら特撮めいたデザインよりもグッと磨かれていて、なるほどなあとなりますよ。
ストーリー、キャラクター、構図、展開の早さ……ダイもビィトもバトル少年漫画の教科書のような作品ですよ。本書で舞台裏を垣間見せていただき、ますます面白くないわけなかろう、となりました。
読者としては、ビィト戦士団の行く末を見届けたいです。ビィトの連載版最新号であのシャギーさんの腹の底がちょびっと見えたのですが、彼はもしかしたらキルバーン以上にトラップな存在かもしれません。三条先生が何を仕掛けているのか、楽しみですね。
それにしても、原作者やシナリオライターの方の仕事って、いろんな出版社や放送局にまたがるのに、よくまとめられたなあってなりました。各所から許諾を得るのも大変だったのではないでしょうか。
個人的には、『金田一少年の事件簿』の原作者、天樹征丸先生のこうした本も見てみたいと思います。彼も稀代のシナリオライターであり、多様なお仕事をされていますが、ある意味では金田一の事件以上にミステリアスな方ではないかなと。講談社様、いかが?